海外展開や人手不足への対応を背景に、外国籍人材の採用に踏み出す企業が増えています。厚生労働省のまとめでは、2025年10月末時点の外国人労働者数は257万1,037人と過去最多を更新し、前年から11.7%増えました。外国人を雇用する事業所も37万カ所を超えています。
一方で、「せっかく採用した外国籍社員が、1〜2年で辞めてしまった」というご相談も後を絶ちません。外国籍社員が定着しない原因の多くは、本人ではなく、受け入れる側の準備にあります。本記事では、外国籍社員の早期離職が企業にもたらす影響と、その原因、受け入れ前後に整えておくべきことを解説します。
1. 外国籍社員が定着しないと、何が起きるか
よくあるのは、次のようなケースです。海外営業の強化のために、日本の大学院を修了した外国籍の若手を採用した。入社後は日本語の社内会議と資料作りが中心で、海外の顧客と話す機会はほとんどない。評価面談でも「もう少し日本の仕事の進め方に慣れてから」と言われ続け、1年半後、外資系企業へ転職していった――。
外国籍社員の早期離職は、一人分の採用コストが無駄になるだけでは終わりません。
まず、採用にかけた投資がまるごと失われます。紹介手数料や在留資格の手続き、入社前後の生活立ち上げの支援まで含めると、外国籍人材の採用には日本人の中途採用以上の時間と費用がかかります。それが短期間で失われ、ポジションは再び空席になります。
次に、組織のグローバル化そのものが後退します。一度うまくいかなかった経験があると、社内に「やはり外国籍の人材は難しい」という空気が生まれ、次の採用に慎重になったり、海外展開の計画自体が縮小したりすることがあります。
さらに、評判にも影響します。外国籍人材は同じ国の出身者や同じ業界の人材とのつながりが強く、職場の評判はコミュニティやSNSを通じて想像以上に早く広がります。定着しない職場という印象がつくと、次の採用の母集団が細っていきます。
2. なぜ、外国籍社員はすぐに辞めてしまうのか
外国籍社員の離職が続く企業を拝見すると、原因は採用前・入社後・中長期の3つの段階に分かれています。
2-1. 原因A:採用時の説明と、入社後の実態がずれている
よくある状態
– 求人票の業務内容が抽象的で、入社してみると想定と違う仕事を任されている
– 「英語で働ける」と伝えていたのに、実際には社内のやり取りや資料の多くが日本語
– 残業や休暇、評価と昇給の仕組みが十分に説明されていない
見直しのポイント
厚生労働省の「外国人雇用実態調査」(令和6年)では、仕事で困った経験がある外国人労働者の困りごととして「事前の説明以上に高い日本語能力を求められた」(8.8%)、「労働条件の説明不足」(8.0%)、「業務内容の食い違い」(7.8%)が挙がっています。採用時に伝える内容と、入社後の実態を一致させることが、定着の出発点です。
2-2. 原因B:受け入れる職場の準備ができていない
よくある状態
– 配属先の上司やメンバーが、外国籍社員を迎えることを直前まで知らされていない
– 業務の進め方や社内ルールが暗黙のままで、質問できる相手が決まっていない
– 日本語の会議で発言の機会がなく、チームの中で孤立していく
見直しのポイント
同じ調査では、外国人労働者を雇用するうえでの企業側の課題として「コミュニケーションの取りにくさ」(43.9%)、「文化・価値観等の違いによるトラブル」(20.9%)が上位に挙がっています。課題を本人の日本語力や適応力の問題として片付けず、職場の側が変えるべきこととして扱う必要があります。
2-3. 原因C:この会社で成長できる道筋が見えない
よくある状態
– 昇進や昇給の基準が勤続年数に寄っていて、成果がどう評価されるのか分からない
– 社内に外国籍のロールモデルがおらず、数年後の自分の姿が描けない
– 定期的な面談がなく、本人のキャリアの希望を誰も把握していない
見直しのポイント
外国籍人材の多くは、キャリアを自分で設計する前提で働いています。どの成果を上げれば、いつ、どのポジションに進めるのかを説明できない職場は、成長機会のある他社と比べられたときに選ばれにくくなります。
3. 対策:受け入れ準備をチェックリストで点検する
外国籍社員の定着は、採用前から入社後1年までの準備でかなりの部分が決まります。次の観点で、自社の受け入れ体制を点検してみてください。
採用前
– 業務内容と、求める日本語・英語のレベルを具体的に定義しているか
– 評価・昇給の仕組みと、想定されるキャリアパスを説明できるか
入社前〜入社直後
– 在留資格の手続き、住居、銀行口座など、生活の立ち上げを支援する担当者は決まっているか
– 配属先の上司とメンバーに、受け入れの目的と役割を共有しているか
– 業務や社内ルールについて気軽に質問できるメンター役を決めているか
入社後1年
– 3か月・6か月・1年の節目で、期待と実態のずれを確認する面談を行っているか
– 重要な会議や資料の一部を英語でも共有するなど、情報から取り残されない工夫をしているか
– 本人の成果と、次に目指すポジションを言葉にして伝えているか
4. 高度外国人材ならではの留意点
専門職や管理職として外国籍人材を迎える場合は、ここまでの準備に加えて、いくつか押さえておきたい点があります。
在留資格と業務の範囲
在留資格ごとに認められる業務の範囲は決まっています。配属後に業務内容を大きく変える場合は、在留資格の範囲に収まっているかを事前に確認しておく必要があります。
家族と生活の支援
家族を伴って来日する場合、配偶者の仕事や子どもの学校、住まい探しが本人の定着を左右することが少なくありません。会社として相談に乗れる窓口があるだけでも、安心感は大きく変わります。
休暇と働き方の考え方
長期の一時帰国や休暇の取り方、在宅勤務の範囲など、働き方への期待は国や前職によって大きく異なります。入社前に自社のルールを明確に伝え、例外を認める場合の考え方も決めておくと、入社後の不満を防げます。
5. 外国籍社員が定着しない組織は、誰にとっても働きにくい
ここまで外国籍社員の受け入れに焦点を当ててきましたが、挙げてきた原因の多くは、外国籍社員に限った話ではありません。業務の進め方が暗黙のまま、評価の基準が見えない、キャリアの道筋を誰も語れない――こうした職場は、日本人の中途採用者や若手社員にとっても定着しにくい環境です。
外国籍社員が辞めていくという事実は、組織の働き方や評価制度の課題を、最も早く映し出すサインとも言えます。受け入れ準備の見直しを、組織全体の制度や文化を見直すきっかけとして活用することをおすすめします。
実際に、外国籍社員の受け入れをきっかけに、業務マニュアルの整備や評価基準の明文化を進めた結果、日本人社員の働きやすさや、中途入社者の立ち上がりの早さにも良い影響が出たという企業は少なくありません。外国籍社員が力を発揮できる職場づくりは、多様な人材が活躍できる組織づくりそのものです。
まとめ・結論
採用した外国籍社員がすぐに辞めてしまう背景には、採用時の説明と実態のずれ、受け入れる職場の準備不足、成長の道筋が見えないことという、企業側で見直せる原因があります。そしてその多くは、外国籍社員に限らず、組織全体の働きやすさに関わる課題でもあります。
まずは、これから外国籍人材を迎える部署、あるいは最近迎えた部署について、上記のチェックリストのうち「できていない」項目がいくつあるかを数えてみてください。それが、受け入れ体制を整える優先順位になります。
私たちGlobal Career Incubator(GCI)では、外資系・バイリンガル・ハイクラス人材に特化した人材紹介を通じて、外国籍人材の採用から、受け入れ体制や評価制度の整備まで一気通貫でご支援しています。外国籍人材の採用・定着にお悩みの場合は、お気軽にご相談ください。
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執筆者
株式会社Global Career Incubator 代表取締役CEO 井川真一
略歴:防衛省勤務(国家I種)およびオーストラリア国防省勤務を経てビジネスの世界へ。 不動産大手経験後、不動産ベンチャー立ち上げや国内ファンド・国内事業会社・海外テック企業での経営および採用を経験したのち、当社創業。
企業経営者・採用責任者としての経験をベースに、「キャリア版Y Combinator」とも言える独自のアクセラレータープログラムを開発。外資系・バイリンガル・ハイクラス人材に特化し、個人のキャリアアップと企業の組織力強化・効率化を支援しています。
