BUSINESS JOURNAL

“幹部人材”は、求人を出しても現れない -エグゼクティブサーチの費用相場と依頼のタイミング-

事業部長、海外拠点長、新規事業の責任者――こうした幹部ポジションの募集を出したものの、求人媒体や登録型の人材紹介会社からはほとんど応募がなく、気づけば半年が過ぎていた。経営者・人事責任者の方から、このようなご相談をよくいただきます。

幹部人材の採用が決まらない最大の理由は、多くの場合「探し方」にあります。幹部クラスの有力な候補者の多くは、そもそも転職活動をしていないからです。本記事では、幹部採用が長期化したときに経営に起きることと、その原因、そしてエグゼクティブサーチ(ヘッドハンティング)を含む探し方の見直しポイントを解説します。


1. 幹部ポジションが埋まらないと、何が起きるか

幹部ポジションの空席が長引くと、影響は採用部門の外に広がります。

まず、事業計画そのものが遅れます。新規事業や海外展開の責任者が決まらなければ、計画は承認されても動き出せません。その間、社長や既存役員が兼務で穴を埋めることになり、経営トップの時間が本来向き合うべき中長期の意思決定から奪われていきます。

次に、「妥協の人事」が起きやすくなります。空席に耐えきれず、準備が整っていない社内人材を昇格させたり、要件を大きく下げて採用したりした結果、組織が機能しなくなるケースは少なくありません。幹部の人選の失敗は、その下で働く数十人、数百人のパフォーマンスと定着に直結します。

たとえば、海外展開を任せる事業部長を半年以上探し続けた結果、海外営業の経験が浅い社内の課長を昇格させたものの、現地パートナーとの交渉が進まず、計画が1年遅れた――というのは、ご相談の場でよく伺うパターンです。

さらに視野を広げると、幹部人材の不足は後継者問題とも地続きです。東京商工リサーチの2025年の調査では、分析対象となった約17万社のうち62.6%で後継者が不在とされています。幹部層の薄さは、企業の存続そのものに関わる経営リスクとして捉える必要があります。


2. なぜ、幹部人材は求人を出しても現れないのか

幹部採用が停滞している企業を拝見すると、原因は大きく3つに分かれます。

2-1. 原因A:「転職を考えていない人」に届く方法を取っていない

よくある状態
– 求人媒体への掲載と、登録型の人材紹介会社への依頼だけで探している
– 紹介される候補者が「いま転職活動をしている人」に限られ、母集団が広がらない
– 競合他社や異業種で活躍している人物像は思い浮かぶのに、接点を持つ手段がない

見直しのポイント
幹部クラスで成果を上げている人ほど、現職で重要な役割を担っており、自ら求人を探すことはほとんどありません。登録型の紹介は「顕在層」に強い一方、こうした「潜在層」には届きにくいという構造的な限界があります。候補者を待つのではなく、こちらから探しにいく方法に切り替える必要があります。経営陣や社外取締役の人脈からの紹介(リファラル)も有効な手段ですが、属人的になりやすく、候補者を比較検討できないまま決めてしまうリスクもあります。複数の手段を組み合わせ、市場全体を見渡したうえで判断することが大切です。

2-2. 原因B:候補者を口説くための材料がない

よくある状態
– 求人票が業務内容の羅列にとどまり、「なぜ今このポジションが必要なのか」が語られていない
– 権限の範囲、レポートライン、報酬レンジが社内で決まっていない
– 候補者に会っても、経営陣が自社の課題と将来像を自分の言葉で語れない

見直しのポイント
転職を考えていなかった人が動くのは、「この会社で、この課題に挑みたい」と思えたときです。幹部採用では、求人票よりも経営陣自身が語るミッションと、任せる権限の大きさが決め手になります。声をかける前に、その材料を経営陣の中で揃えておくことが欠かせません。

2-3. 原因C:手法の選び方と、依頼の仕方がずれている

よくある状態
– 成功報酬型の紹介会社に何社も同時に依頼し、どこも本気で探してくれない
– 非公開で進めたいポジションなのに、情報が複数の会社を通じて市場に広がってしまう
– 「良い人がいたら紹介してほしい」という依頼にとどまり、探す範囲や優先順位を共有していない

見直しのポイント
幹部採用は、ポジションの性質に合わせて手法を選び分ける必要があります。とくに非公開で進めたい案件や、市場に数十人しかいないような要件では、1社に絞って深く探してもらう形のほうが結果的に早く決まることが多くあります。


3. 対策:エグゼクティブサーチを選択肢に入れる

探し方を変える代表的な手段が、エグゼクティブサーチです。サーチ会社が企業の要件をもとに、業界・競合企業を調べ上げて候補者を特定し、転職を考えていない人にも直接アプローチする方法です。

費用の考え方
– リテイナー型:1社に独占的に依頼し、着手時・候補者リスト提示時・採用決定時など段階的に費用が発生する。手数料は初年度の想定年収の25〜33%程度が目安とされる
– 成功報酬型:採用が決まった時点でのみ費用が発生する。国内では理論年収の30〜40%%程度が一つの目安
– 期間の目安:依頼から内定承諾まで、おおむね3〜4か月

依頼を検討すべきタイミング
– 後任や交代など、社内外に知られずに進めたいポジションがある
– 海外拠点長や新規事業責任者など、市場に該当者がごく少ないポジションを探している
– 登録型の紹介で半年以上決まらず、要件の見直しも済んでいる
– 競合他社や異業種から、具体的な人物像を狙って採用したい

サーチ会社を選ぶ際は、その領域で実際にどんな人脈を持っているか、最初の数週間で市場の候補者の分布(マッピング)を示してくれるか、候補者の評価をどう行うかを確認しておくと、依頼後のずれを防げます。

依頼する前に、社内で決めておくこと
– このポジションが必要な理由と、最初の1年で成し遂げてほしいこと
– レポートライン、予算・人事の権限の範囲
– 報酬レンジの上限と、ストックオプションなど報酬以外の条件を検討する余地
– 最終判断者と、候補者に会う経営陣の顔ぶれ

これらが決まっていないままサーチを始めると、サーチ会社は候補者に語る材料を持てず、せっかく接点を持てた人物を口説ききれません。


4. 採用して終わりにしない:入社後100日の設計

幹部採用の成否が本当に決まるのは、入社してからです。外部から来た幹部は、社内の人間関係や暗黙のルールを知らないまま、短期間で成果を求められます。最初の数か月で「期待外れ」という評価が社内に広がると、本人も組織も立て直すのが難しくなります。

入社後100日で用意しておきたいこと
– 経営陣と本人の間で、最初の100日で達成することを3つ程度に絞って合意する
– 主要な役員・部門長・顧客と早い段階で会う機会をつくる
– 社長や担当役員が、隔週など短い間隔で本人と話す時間を確保する

採用時に語ったミッションと権限を、入社後に実際に渡すこと。この当たり前のことが守られるかどうかで、幹部の定着と活躍は大きく変わります。


5. 幹部採用は、組織設計の問いでもある

探し方を変え、入社後の立ち上がりまで設計しても、まだ考えておくべきことがあります。幹部を一人迎えるということは、その人の上下左右の組織をどう組み直すかを決めることでもあるからです。

新しい幹部は誰にレポートし、既存の役員とどう役割を分けるのか。どこまでの予算と人事の権限を渡すのか。これらが曖昧なまま採用すると、優秀な人ほど「聞いていた話と違う」と感じ、早期に離れてしまいます。幹部採用の要件を詰めていく過程は、経営体制と組織構造を見直す絶好の機会でもあります。


まとめ・結論

幹部人材が求人を出しても現れないのは、市場に人がいないからではなく、転職を考えていない有力な候補者に届く方法を取っていないことが大きな原因です。探し方を見直すと同時に、候補者を口説くための材料と、迎え入れる組織の設計を経営陣の中で揃えることが、幹部採用を前に進める近道になります。

まずは、空席になっている幹部ポジションについて「なぜ今必要なのか」「どこまでの権限を任せるのか」を一枚に書き出してみてください。それがそのまま、候補者に語るべきメッセージになります。

私たちGlobal Career Incubator(GCI)では、経営者・採用責任者としての実務経験を持つコンサルタントが、幹部・経営人材のご紹介から、ポジションの要件定義、迎え入れる組織の設計まで一気通貫でご支援しています。幹部採用が長期化している場合は、お気軽にご相談ください。

執筆者

株式会社Global Career Incubator 代表取締役CEO 井川真一

略歴:防衛省勤務(国家I種)およびオーストラリア国防省勤務を経てビジネスの世界へ。 不動産大手経験後、不動産ベンチャー立ち上げや国内ファンド・国内事業会社・海外テック企業での経営および採用を経験したのち、当社創業。

企業経営者・採用責任者としての経験をベースに、「キャリア版Y Combinator」とも言える独自のアクセラレータープログラムを開発。外資系・バイリンガル・ハイクラス人材に特化し、個人のキャリアアップと企業の組織力強化・効率化を支援しています。