株式会社Global Career Incubator 代表取締役CEO 井川真一
最終更新:2026年10月29日。本文・参考資料は更新日時点の情報です。

翻訳AIで英文を整えても、相手との約束まで正しくそろったとは限りません。海外とのやり取りを任せる人事や上司の方には、「自然な英文を書くこと」と「何を約束できるかを判断すること」を分けて、社員の練習を組んでいただきたいと思います。
英語を整えようと取り組んできた社員に、誤訳を探す作業だけを任せるのは惜しいことです。本人が業務の条件を確かめ、必要な相手へ相談し、送った後の返事まで見届けられるようにしていきましょう。上司も、本人が約束できる範囲と、判断を戻してほしい場面を伝える役割を担います。
最初の題材は、実際の仕事に近い短い連絡文で構いません。何を伝え、相手にどう動いてほしいのかを日本語で言葉にしてから、英文と比べてみてください。特定製品の操作を覚えるだけでは見つからない、約束のずれを確認するためです。
原文にない確約を、本人の判断で足さない
出力の点検では、誤字や語調だけでなく、仕事の条件が変わっていないかを見てください。期限、対象、数量、実施する人、承認の有無。これらが変われば、文章は自然でも、伝えている約束が変わります。
また、原文自体が曖昧な場合もあります。「金曜までに対応します」と書いても、金曜日に作業を終えるのか、確認結果を知らせるのかが決まっていなければ、翻訳の前に整理する必要があります。曖昧な仕事を、そのまま明確な英語へ変えることを期待しないようにしましょう。
研修では、英文を直す前に、本人へ「今回、何を約束できるか」を説明してもらってください。ここが曖昧なら、上司と仕事の条件へ戻ります。出力だけを比べて正しい一文を選ぼうとしても、判断の基準がないままになるからです。
確認結果を伝える日と、開始できる日を区別する
以下はGCIが作成した仮想例です。
担当者は、海外の社内チームへ、試行の準備状況を伝えます。仕入先の確認が残っており、開始日はまだ決まっていません。担当者が約束できるのは、金曜日までに確認結果を連絡することです。
研修担当者は、次の日本語と英文案を配り、約束の意味が同じかを受講者に説明してもらいます。
原文の意図:「金曜日までに確認結果を連絡します。試行の開始日は未定です」
検討する英文案:“We will be ready to start the trial by Friday.”
英文案は、金曜日までに試行を開始できる準備が整うと読めます。しかし、担当者が約束したいのは確認結果の連絡です。自然かどうかを確かめるだけでは、このずれを見落とすかもしれません。
受講者には、「何が変わったか」だけでなく、「なぜその約束をしてはいけないか」まで答えてもらいましょう。開始の条件がそろっておらず、担当者が開始日を決められないためです。そのうえで、意味を保つ案を考えます。
“I will share the outcome of the check by Friday. The start date for the trial has not been confirmed yet.”
「金曜日までに確認結果を共有します。試行の開始日はまだ確定していません」
送信前には、金曜日がどの日付で、何時までに連絡するかもそろえます。この練習では、連絡期限を2026年11月6日(金)17時、日本時間(UTC+9)とします。相手とこの期限を合意したうえで、最初の文を次のように具体化できます。
“I will share the outcome of the check by 17:00 Japan Standard Time (UTC+9) on Friday, 6 November 2026.”
「2026年11月6日(金)17時、日本時間(UTC+9)までに確認結果を共有します」
日時を明確にしても、開始日が未定であることは変わりません。受講者は、二つの文を一緒に送り、相手に何を待ってもらうかまで説明してください。相手が別の時間帯で働いているなら、予定へ入れる日時についても認識をそろえます。
確認が間に合わないと分かったら、連絡の約束を組み直す
ここで研修担当者は、「仕入先から、金曜日までには回答を確定できないと連絡が入った」という条件を追加します。受講者には、先ほど完成させた英文をそのまま送るか、理由とともに答え直してもらってください。
まだ相手へ送っていないなら、約束できる内容は、その時点の進捗の共有へ変わります。結果が出る見通しを確かめず、確認結果を必ず渡せるように書くことはできません。担当者は上司と、残る確認、連絡できる情報、次に報告する期限をそろえ、例えば次のように伝えます。
“The supplier’s confirmation is still pending. I will send you a status update by 17:00 Japan Standard Time (UTC+9) on Friday, 6 November 2026, even if the check is not complete. The trial start date remains unconfirmed.”
「仕入先からの確認はまだ得られていません。確認が完了していなくても、2026年11月6日(金)17時、日本時間(UTC+9)までに進捗をお伝えします。試行の開始日は引き続き未確定です」
既に確認結果を連絡すると約束していた場合は、期限まで黙って待たず、分かった時点で見通しの変更を伝えます。相手がその結果を何の予定に使うかを聞き、進捗の連絡で足りるのか、別の判断が必要かを相談してください。本人だけで代わりの開始日を作らず、開始を決める責任者へ判断を戻す場面です。
研修の観察者は、「結果」を「進捗」に言い換えたことだけで練習を終えないでください。本人が選び直した理由と、相手の予定への影響を説明できたかを見ます。上司は、本人が守れる連絡の約束と、会社として確定が必要な日程を分けて支えましょう。
返信から、相手が何を前提に動くかを確かめる
点検して送った文章でも、相手が違う前提で動くことはあります。先ほどの連絡に対して、海外チームから「では金曜日の開始に向けて準備します」と返信が来たら、受講者はどう返すでしょうか。
受領の返事や謝罪を加えるだけでは、相手は開始を前提に準備を続けるかもしれません。担当者役は、日付の意味と、待ってほしい行動を明確に伝えます。
“To clarify, 6 November is the deadline for my update, not the trial start date. The start date is still unconfirmed. Please wait for confirmation before scheduling the trial.”
「確認ですが、11月6日は私が情報をお伝えする期限で、試行の開始日ではありません。開始日はまだ確定していません。試行の日程を組む前に、確定の連絡をお待ちください」
相手役には、「では、11月6日の進捗連絡を待ち、開始日が確定するまでは試行の日程を決めません」と返してもらいます。担当者役は、この返事が自分の依頼と一致しているかを確かめます。既に人員や設備を手配していると返ってきたら、その影響を上司と開始判断の責任者へ共有し、相手と扱いを相談する必要があります。
自分の文面が正しいから伝わったはず、と考えないことが大切です。人事や上司は、本人が重要な返信を読み、相手の次の行動を確認するところまで練習に含めてください。語学面で意味を判別しきれない返信は、業務の事情を理解する言語担当者などにも確認を求めます。
AIへ渡す前に、情報と目的を選ぶ
練習用に作った連絡文であれば、実際のメールを持ち出さずに、目的や確実性の違いを扱えます。実際のメールを使う場合には、個人情報や顧客情報を消したつもりで安心せず、会社が認めた情報、製品、契約・設定の範囲を確認してください。
生成AI型の翻訳サービスを使う際の確認材料として、個人情報保護委員会が2023年6月2日に公表した注意喚起があります。入力する個人情報の利用目的、提供事業者による取扱い、利用規約やプライバシーポリシーなどを確認する際の資料です。実際の研修では、使う製品と入力したい情報を整理し、社内の情報管理・法務担当に利用条件を確認してください。
人材育成では、使える製品名だけを伝えるのではなく、本人が迷ったときに誰へ確認するかも示すことが重要です。個人用のアカウントと会社契約の環境を、同じ条件だと思って使わないようにしてください。
具体的な製品を研修で扱う場合は、その時点の機能と契約・設定を確認し、社内の利用条件へ合わせます。ある製品で認められた扱いを、すべての翻訳AIへ広げず、今回の情報を今回の環境へ入力してよいかを判断します。情報の扱いを確認できなければ、研修担当者が用意した連絡文へ戻して練習を進めましょう。
原意・英文・返事を並べて、もう一度答える
人事や上司の方は、受講者の最初の回答を残し、仕入先の返答や相手の返信を一つ変えて、同じ連絡を作り直してもらってください。先ほどの例では、最初は確認結果の連絡を約束でき、追加条件では進捗の連絡へ変わりました。何の事実を受けて、どの一文を変えたかを、本人の言葉で説明してもらいます。
本人には、原意・英文・相手の返事を並べて、四つの観点から自己点検してもらいましょう。
目的。 相手に何を知って、どう動いてほしいのでしょうか。この例なら、進捗連絡を待ち、開始日が確定するまでは日程を決めないことです。文を訳した後にも、この目的が伝わるかを見ます。
事実と確実性。 確定したことと、未確定なことを分けているでしょうか。開始日は未定のまま残し、仕入先の回答が遅れる条件では、完了した結果を伝える約束へ戻さないようにします。
主体と範囲。 誰が、何を、いつまでに行うかを言えるでしょうか。担当者が引き受ける連絡と、責任者が決める開始日を混ぜず、日付・時刻・時間帯をそろえます。
相手との合意。 相手の返事は、何を前提に次へ進む内容でしょうか。受領したという返事だけなら、開始を待つ認識まで共有できたかはまだ分かりません。重要な予定に影響する箇所は、相手の返答で確かめます。
チェック項目に印を付けるだけで終えず、上司は「この条件が変わると、どの文をどう直しますか」ともう一度聞いてください。別のAIから「正しいです」と返ったことは、元の仕事の条件を確かめたことにはなりません。本人が理由を説明できない箇所に戻り、事実、意味、権限のどれが曖昧なのかを一緒に見つけましょう。
練習の完了は、英文が自然になったことに加え、本人が約束の範囲を説明し、相手役の次の行動とのずれを直せた状態で確かめます。重要な契約や人事に関わる連絡では、本人が扱う範囲と専門担当へ戻す範囲を、会社側で先に定めてください。
実務で振り返るときも、文章を作る時間と、合意の確かさは分けて見ます。人事や上司は、本人が未確定の条件を見分け、必要な相手へ確認し、返事を受けて修正した記録を残しましょう。時間の短縮や研修の効果を比較するなら、対象、期間、仕事の条件をそろえる必要があります。一件の返信だけで製品の性能や育成全体の成果を決めず、その一件でできた判断を次の練習へ生かしてください。
翻訳の前後に、誰が何を確かめるか
英文の修正はできても、本人がどこまで判断し、上司がどこを引き受けるかが決まっていない。その状態なら、まずは連絡する仕事と相手を一つに絞ってみましょう。GCIの法人向け人材育成では、実務の役割や課題に合わせて練習と振り返りを組みます。
企業向け相談フォームには、非公開情報を除いた仕事の一場面と、社内のAI利用条件をお知らせください。便利な道具を使いながら、本人が約束の意味を確かめられるようにするには、どの練習と上司の支援が要るか。一緒に具体化していきましょう。
