執筆者:株式会社Global Career Incubator 代表取締役CEO 井川真一
最終更新:2026年10月29日。本文・参考資料は更新日時点の情報です。

後継候補の氏名と想定ポストをそろえるまでには、各部門との調整が要ります。候補者の現在の仕事を守りながら、次の責任を経験する時間もつくらなければなりません。経営者や人事責任者の方にとって、候補を選んだ後の方が難しいと感じる場面もあるでしょう。
ただ、候補者リストに「1〜2年後」と書いたまま、毎年同じ研修を勧めるだけでは、実務で何を判断できるようになったかは分かりません。将来担う事業責任に対して、今何が確認でき、どの経験が足りず、その経験をどの実務で用意するか。会社の支援と、次に候補リストを書き換える条件まで、人ごとに決めてください。
対象は、既に部門やチームを管理している次世代幹部の候補者です。自部門の目標を達成する力を土台に、複数の事業への資源配分や、異なる部門の責任者を通じた実行を経験してもらいます。候補登録を登用の約束に変えず、本人の努力が次の判断に使われる計画へ整えていきましょう。
候補者名の横に、引き継ぐ事業責任を書く
「事業部長候補」「経営人材」という呼び方だけでは、何を育てるかは定まりません。既存事業の利益を安定させる役割と、既存事業の人員を新事業へ振り向ける役割では、経験してほしい判断が違うからです。現在の責任者の経歴をそのまま再現するより、今後の事業で引き受ける責任を経営側が言葉にする必要があります。
米国会計検査院〈GAO〉の2003年の報告は、四か国の公的機関の後継者計画を取り上げ、組織の将来方針との接続、研修に加えた新しい職務経験、幹部による育成・配置の判断を示しています。[1]日本企業での効果を検証した報告ではありませんが、候補者の名簿を将来の仕事へつなぐ考え方は参考になります。
経営者は、人事へ候補者の育成を依頼する前に、次の責任者が決めることを挙げてみてください。どの事業を優先するか。予算や人員をどこへ移すか。その結果、一方の部門に負担が生じたとき、誰に何を説明し、どこまで結果を引き受けるか。「視座を上げる」という期待を、こうした仕事に置き換えましょう。
現職で部下を育て、部門の品質や収益を守ってきた経験は、きちんと認めたいものです。一方、自部門の利益を守る判断だけでは、他事業を含めた配分の根拠は分かりません。自部門の要求を通すことと、全体のために自部門の計画を修正することでは、判断する立場が変わります。
まだ任せたことがないなら、能力が足りないと決める段階ではありません。人事は本人と現在の上司に、類似の仕事を過去に担っていないか、記録まで確かめてください。経験はあるが記録が見つかっていないのか、経験そのものがないのか。前者なら材料を集め、後者なら機会をつくる。出発点を間違えないことが重要です。
将来の責任自体が未確定なら、その理由と、経営側が見直す時点を残しましょう。事業の統合や新設が構想段階でも、複数部門の採算を比較するなど、共通して必要になりそうな経験から始められます。ただし、存在が確定していないポストへの就任時期を、本人へ約束することはできません。
育成計画に、任務の依頼と次回の更新欄を置く
候補者に同じ研修を受けてもらうことと、同じ経験が不足していることは別です。事業計画をつくった経験はあっても、実績との差を追ったことがない人もいます。利益管理はできても、他部門の責任者と資源を動かす判断を担っていない人もいるでしょう。研修の共通部分を使いつつ、実務で確かめる課題は分けてください。
私は、経営者と人事責任者に、候補者一人と想定する役割の組み合わせごとに、「育成・更新シート」を持つことを勧めます。任務を頼む時点の計画と、経験後に候補リストへ反映する判断を、同じ紙でつなぐための本稿の提案です。
| シートの欄 | 人ごとに残す内容 |
|---|---|
| 将来担う責任 | 対象の事業・部門、引き受ける成果、決めること。組織構想が変われば、この欄から見直す。 |
| 現在の根拠 | 本人が判断した仕事、判断時に使えた情報・権限、結果の記録。上位者が決めた部分は分ける。 |
| 不足経験・未確認 | 今回確かめる責任を絞る。未経験、記録不足、実務で難しさが表れた状態を区別する。 |
| 任せる実務 | 本人が出す案、調整する相手、承認後に担う実行と振り返り。参加する会議名だけで終えない。 |
| 会社が用意する条件 | 任せる判断範囲、最終決裁者、減らす仕事、情報へのアクセス、支援者と確認する時点。 |
| 次の判断条件 | いつ、誰が、どの記録を見て、登用審議へ進めるか、経験を追加するか、想定役割を変えるか。 |
| 実施後の更新 | 実際に任せた仕事、本人と支援者の判断、確認できた結果、残る不足、次の任務と再確認日。 |
開始前に最後の欄を予想で埋める必要はありません。空欄で残し、何を持ち帰れば更新できるかを先に決めておきます。予定どおり任務が発生しなかった場合も、その理由を書く欄です。
人事は、将来の役割を決める経営者、任務を渡す責任者、本人とともに、実行できる計画かを確かめてください。とくに、誰が現在の仕事を引き受けるかが決まらなければ、候補者の予定表だけが埋まってしまいます。候補に選んだ期待を、会社側の具体的な協力に変えるところまでが育成計画です。
同じ二人の記録から、任せる仕事を変える
以下はGCIが作成した仮想例です。
企業向けの保守サービスと導入支援を営む会社が、二つの事業を統括する責任者の候補を育てています。将来任せたいのは、両事業の利益と提供品質を見ながら、共通の技術者を配分し、各部長を通じて実行を進める責任です。候補リストには二人とも「統括責任者候補、1〜2年後」と記載されています。任命時期や人選は決定していません。
現在ある記録は、次のとおりです。
| 候補者 | 確認できている経験と、まだ分からないこと |
|---|---|
| 保守サービス部長の佐藤さん | 部長を4年経験。前年度は部門の粗利目標を達成し、契約上の保守日程を守った。配員表と月次会議録には、課長二人と担当を調整した記録がある。他事業と資源を取り合う場面で、全体の配分案をまとめた経験は確認できていない。 |
| 導入支援部長の中村さん | 部長を3年経験。導入案件で両事業の技術者による応援案を比較し、社長承認後の工程調整を担った。案件は承認済みの費用と期限の範囲で完了している。両事業を通じた採算の見通しを置き、期中の差を見て配分を修正した経験は確認できていない。 |
二人には、より広い事業責任に向けて経験を積む意向があります。ただし、具体的な任務、現職の負担軽減、支援者は未合意です。事業間の技術者配分と追加費用の最終決裁は社長が担っており、二人に横断的な決裁権はありません。
折しも、次の四半期の技術者配分を決める仕事があります。会社が使えると見込む工数は100人日。一人が一日働く量を1人日として、各部門から次の要求が出ています。
- 保守契約を履行する仕事に60人日。契約上の対応を守る必要があります。
- 保守作業の標準化に20人日。将来の工数削減を見込みますが、効果は未検証です。
- 導入支援の新しい試行に40人日。顧客への実施確約はまだありません。
合計は120人日です。各作業を分割できるか、必要な技能を持つ人が同じ時期に動けるか、標準化や試行を遅らせた場合の損益への影響は、まだ確認していません。単純に20人日を削ればよいと決められる状態ではありません。
比較の出発点として、契約履行に必要な60人日を確保すると仮定しましょう。残る40人日を試行へ充てて標準化を延期する案と、標準化20人日を確保して試行を20人日へ縮小する案が考えられます。後者は試行を分割できる場合に限ります。技能と時期、提供品質、両事業の採算を比較し、実行できない案は外す必要があります。この段階でどちらかを推奨済みにせず、比較を埋める仕事を候補者へ渡してください。
研修と参加予定だけを並べた計画
この記録を基に、人事が次の育成案を作ったとします。
二人とも経営戦略研修を受講し、次四半期の技術者配分会議へ参加する。社長の判断を学び、期末に学習成果を発表する。自部門の実績も良好であるため、受講と発表を終えた段階で、翌年度の登用候補として優先的に検討する。
研修で共通の知識を学び、経営の判断に触れる機会を設けることには意味があります。ただ、この計画では、二人が何を自分で判断するかが分かりません。それぞれについて、まだ確認できていない責任の違いも、同じ参加予定の中に隠れています。
社長の説明を理解して発表できても、利害の異なる部長へ働きかけ、採用されなかった要求を扱えるかは別に確かめたいところです。受講と発表を終えたという理由だけで優先順位を上げるなら、候補者リストの更新に使っているのは、経験の中身よりも予定の消化になってしまいます。
佐藤さんには、両事業への配分案を引き受けてもらう
人事は、二人の記録から、任せる実務と会社の支援を組み直してください。まず佐藤さんの任務案を考えます。本人と現在の上司に類似経験を確かめ、既に根拠があれば、確認が必要な仕事へ任務を絞りましょう。中村さんにも同じ確認を行います。開始前に本人・現在の上司・協力部門と条件をそろえ、合意した内容を育成・更新シートへ記してください。
佐藤さんには、両事業の利益・品質と技術者配分を担う統括責任者を想定しています。自部門の粗利・日程管理、課長を通じた担当調整には記録があります。今回確かめるのは、自部門の要求も見直しながら、両事業へ実行できる配分を提案し、承認後の実行を調整する仕事です。
任務案では、佐藤さんが、契約上の必須対応と、標準化・試行の選択可能な範囲を各部門へ確認します。100人日の見込みを技術者の技能・時期と照合し、対象や開始時期を変えた複数の配分案をつくります。各案の提供品質、顧客への影響、実行条件を整理し、中村さんが示す採算前提も照らして、社長へ配分を提案するところまで任せてください。採用案の承認後は、部長間で担当と確認日をそろえます。実際に使える人員や時期が変わったら、実行可能な配分の選択肢を組み直す任務です。
両部門からの資料収集、配分案の取りまとめ、承認済みの計画の進捗調整を、佐藤さんの担当として関係者へ伝えましょう。配分の変更や追加費用の決裁は社長に残します。財務担当は利益見通しに含める費用と計算の前提を説明し、中村さんが各案の採算を整理します。社長には、部門間で合意できない論点を受け取り、判断理由を返す役割を引き受けてもらいます。
現在の仕事では、佐藤さんの定例資料の作成などから移せるものを選び、引継ぎ先と使える時間を決めます。課長へ渡す場合も、その課長の負担を確認してください。自部門の工数を他事業へ回す案を求める以上、その判断を任務期間の目標・評価でどう扱うかも、人事と社長が開始前に決める必要があります。
配分案の審議時には、要求を並べただけでなく、選ばない案の影響まで説明したかを確認しましょう。期末の実績確定後には、部門間の合意、条件変化に応じて組み直した配分案、社長が助けた箇所を照合します。候補者会議の日付は任務開始時に決め、記録が揃えば、残る責任の確認と具体的な登用審議へ進めるかを判断してください。
佐藤さんに求めるのは、保守側の20人日を必ず削るという答えではありません。標準化を優先するなら、試行を遅らせる影響を説明する。試行を優先するなら、標準化の先送りで残る負担を示す。どちらも実行できないなら、対象の絞り込みや追加資源の必要性を社長へ返す。自部門の立場を理解したうえで、全体への影響を引き受けて案を出すことが、この任務で確かめたい判断です。
社長との練習では、「今なら何から確かめるか。その順序を選ぶ理由は何か」と本人に答えてもらいましょう。たとえば佐藤さん役なら、「契約履行の60人日を確保する前提で、まず試行を20人日に分けられるかを確認します。分けられなければ、標準化20人日と試行20人日を両立させる案は外れるためです」と答えられます。分割できると分かっても、必要な技能を持つ人の時期が重なれば、開始時期を変えるか、別案に戻す必要があります。確認の順序を選んだことと、配分案を採用したことは分け、追加の情報を受けた後に提案を答え直してもらってください。
中村さんには、決裁前の採算比較と実行後の見直しを担ってもらう
中村さんにも同じ配分会議へ出てもらうだけでは、既にある調整経験を繰り返す可能性があります。将来の責任は佐藤さんと同じでも、今回確かめたいのは、案件単位の費用・期限から、両事業を通じた採算と継続判断へ仕事を広げられるかです。
中村さんには、社長の配分決裁前に、佐藤さんが用意した各案の売上見通し、技術者の投入費用、保守の追加対応、試行の進み方を比べ、採算上の不確実性を整理してもらう案です。決裁後は、承認時に置いた採算の前提と期中の実績との差を分析します。見直しが必要なら、佐藤さんが組み直す配分案ごとに、続ける場合と縮小する場合の損益を比べ、採算面から勧める案と理由を社長へ示す仕事につなげてください。単に数字を集計するのでなく、どの前提の変化が、継続や縮小を勧める理由になったかを説明してもらいます。
財務担当が費用の扱いを説明し、最初の比較を中村さんと一緒に確認する案です。その後の採算比較と採算面からの推奨は中村さん、実行できる配分の組み直しは佐藤さん、決裁は社長が担う分担を、人事は関係者と開始前に合意してください。導入部門の既存業務から移す仕事と時間も、合意事項です。人事は、期中の見直し会議と期末の候補者会議で、中村さんの予測、実績との差、推奨を変えた理由、財務担当が補った箇所を照合し、社長と次の任務を決めてください。
中村さんが数字を説明できても、他部門の対応を変えるところまで担えたかは別に残ります。今回の任務で何が確認でき、なお何を経験する必要があるかを更新するのであって、一件の完了で統括責任者の仕事をすべて確認したことにはしません。
同じ案件に二人を置くなら、佐藤さんには技能・時期・提供品質を踏まえた配分案と部門間の実行調整を、中村さんには各案の採算前提と実績差の分析を任せる、と開始前に分けてください。変更が必要になったときは、佐藤さんが実行できる配分の選択肢を、中村さんが各案の損益と不確実性を示し、社長が決裁する案です。共通の資料にも、誰がどの比較を行い、誰の助言で何を改めたかを残しましょう。協働したことと、双方がすべてを判断したことは分けて扱います。
会社の支援は、本人の答えを先に用意することではない
経験のある部長へ任せると、細かく支えるのは失礼ではないかと迷うかもしれません。しかし、他事業の数字や顧客条件に初めて触れるなら、その見方を説明する支援が必要です。任務を渡した後、分からない条件を本人だけで埋めさせる進め方には無理があります。
DeRueとWellmanの研究では、60人の管理職の実務経験を調べ、挑戦的な経験と技能の発達の関係が、フィードバックを得られる環境によって異なることが示されました。[2]本人の回顧と上司評価などを用いた研究であり、特定の任務や支援方法の効果を保証するものではありません。新しい仕事を任せる際に、振り返る材料と相手も用意する理由として受け止めてください。
先ほどの計画なら、財務担当は費用の定義や記録の所在を教え、見落とした前提を指摘できます。社長は、顧客への責任や投資方針など、候補者が変更できない条件を示せます。一方、どの案を勧めるかまで先に伝えたなら、その案は本人が独力で組み立てた根拠にはなりません。助言を受けたことを隠さず、助言の後に何を自分で考え直したかを残しましょう。
人事は、候補者が見る情報と、候補者の働きかけを受ける相手を確認してください。資料を閲覧できない、他部門に協力を求める立場が説明されていない、判断依頼への返事が来ない。この状態では、横断任務の名称を付けても、本人は責任を経験しにくくなります。任務を出す経営者から、協力範囲と決裁経路を関係部門へ伝える必要があります。
また、現職の目標を据え置いたまま、両事業のために自部門の計画を譲るよう求めれば、本人は何を優先するか迷います。事業側と人事は、任務に使った時間と、会社として選んだ配分の影響を、現職の評価でどう扱うかまでそろえておきましょう。
提供品質や顧客との約束を損なう兆候があれば、経営側が介入してください。育成のために実務の損失を放置する必要はありません。止めた理由、本人が気づいていた範囲、次に任せられる範囲を振り返れば、介入した場面も育成計画を直す材料になります。
候補者会議で、名前と時期以外の何を更新するか
期末の候補者会議で「横断案件を経験した」とだけ書けば、せっかくの任務が参加歴へ戻ってしまいます。人事は、任務前のシートと、実際の提案・決裁・修正・結果の記録を並べてください。候補者本人の説明に加え、任務を渡した責任者や協働した相手からも、どの場面で何を判断したかを確認しましょう。
確認の順序は、任務を実際に渡せたか、本人が何を判断したか、どんな支援を受けたか、結果をどう捉えて修正したかです。売上や利益の結果だけで準備度を決めると、会社の決裁、顧客側の事情、ほかの社員の貢献まで本人の力へまとめてしまいます。反対に、説明が立派でも、実行への働きかけが残っていなければ、その部分は確認できていません。
正式な決裁を社長が行ったことと、候補者に任せた比較・分析・提案まで社長が代わったことも、分けて見てください。本人が案と理由を示し、社長が承認したなら、合意した任務の範囲で判断を担っています。
候補リストには、次のように判断と次の行動を一緒に反映できます。
| 確認できた状態 | 候補リストと育成計画の更新 |
|---|---|
| 将来責任に必要な判断を実務で確認できた | 根拠となる任務と本人の判断を追加する。残る責任と支援を照合し、具体的ポストの登用審議へ進めるか、もう一段広い任務へ進めるかを決める。 |
| 候補者に任せた比較・提案を上位者が補った、または代行した | 本人がどこまで考え、なぜ支援が必要だったかを残す。判断が難しかったなら説明・共同実践へ、上位者が先に答えを出したなら機会の再設定へ進む。確認前に登用可能時期を早めない。 |
| 案件中止や協力不足で、判断する機会がなかった | 未確認のまま残す。機会を用意できなかった理由と、代わりの実務を手配する責任者、次の判断日を更新する。能力不足には置き換えない。 |
| 事業方針や想定する責任が変わった | 対象の役割と必要な経験を改める。旧計画の未達として本人を扱わず、既に得た根拠を新しい責任に照らして読み直す。 |
| 本人の意向や引き受けられる条件が変わった | 役割の変更、育成の休止・終了も話し合う。候補に残すことを目的にせず、合意した方向と再確認の要否を記録する。 |
佐藤さんについて、配分案の比較と部門間の調整を担った記録が得られても、実行中に条件が変わった際の配分の組み直しを社長が代わっていたなら、「初期配分の比較・調整は確認。条件変化に応じた配分の修正は継続確認。次期の変更案を本人に任せ、次の月次決算後に再確認」と更新できます。
中村さんについて、各案の採算前提と実績差を自分で説明できても、修正案の採算比較を財務担当が代わっていた記録が得られたなら、「採算前提と実績差の分析は確認。修正案を比較して勧める仕事は継続確認。次の見直しで、続ける案と縮小する案の採算を本人から示してもらう」と更新できます。集計や説明を担当した記録から、選択肢を比較して提案するところまで確認済みに広げないでください。
一方、必要な根拠が揃っているのに、「もう少し経験を」とだけ書き続けるのも避けてください。登用を決める立場の経営者は、具体的なポストで審議するのか、ポストがないため機会を待つのかを分けて説明しましょう。育成上の不足と、会社の配置上の都合は異なります。
人事は、候補ごとの更新日と根拠を残し、同じ役割を想定する人には共通の責任を当てて比較してください。任務や支援の違いも読み取り、声の大きい上司の推薦や目立つ発表だけで優先順位を変えないことです。リスト外の社員について新しい根拠と本人の意向が確認できたなら、登録対象も見直しましょう。最初に選んだ顔ぶれを固定することが、後継者計画の目的ではありません。
本人へ任務を依頼できる言葉になっているか
候補登録を伝えるとき、期待を強く表現したい気持ちは分かります。ただ、「この経験を終えれば次はあなたです」と約束すれば、その後に事業や本人の意向が変わっても、見直しにくくなります。米国人事管理庁〈OPM〉の後継者育成ガイドも、参加が昇進過程での有利さを保証しないことを、伝えるべき事項に含めています。[3]米国政府機関の資料ですが、育成への期待と人事上の決定を分けて伝える際の参考になります。
自社の候補者へは、期待する責任、今回任せる仕事、会社が用意する支援、次に話し合う条件を具体的に伝えてください。登用時期が未定なら、そのことも伝える必要があります。確約しないことを理由に、何も説明しなくてよいわけではありません。
次の候補者面談の前に、人事責任者と任務を渡す経営者で、候補リストの一人分を取り上げてみましょう。既存の記録を使って育成・更新シートを埋め、経営者が本人へ任務を依頼するつもりで読み上げ、人事が聞き手になります。
聞き手は、「なぜ自分にその経験が必要なのか」「どこまで自分で決められるか」「今の仕事は誰と調整するか」「何を持ち帰れば、次の判断が進むか」に答えがあるかを確かめてください。「経営視点を身につけるため」としか答えられなければ、将来責任と任務のつながりを直す必要があります。「上司が適宜支援する」なら、支援する人と、確認する場面を決め直しましょう。
聞き手から不足を返したら、経営者役はシートを直し、もう一度任務を依頼してください。佐藤さんへの説明なら、「自部門の担当調整の経験を土台に、今回は両事業で実行できる配分案をまとめてほしい。採算比較は中村さんが担当し、決裁は私が引き受けます。現在の定例資料を誰へ移すかを決めてから始め、配分を勧めた理由と、条件が変わったときの組み直しを確認したい」という形にできます。引継ぎ先が決まらなければ、任務の開始時期か範囲を変える、と会社側が返す必要があります。
書き直した後は、現在の根拠にない行動を追加していないか、共同資料のどの部分を誰の判断として見るか、本人に任せる比較を支援者が代行する計画になっていないかを点検してください。二人の名前を入れ替えても同じ説明になるなら、不足経験と任務の対応をもう一度確かめましょう。
この説明を整えたうえで、本人には、担いたい責任、その任務を引き受けたい理由と懸念を聞いてください。会社が想定した経験でも、本人がすでに別の仕事で担っていたと分かるかもしれません。現在の業務負荷から実行できないと分かれば、仕事を空ける計画を修正する必要があります。面談を、決めた計画を渡すだけの場にしないことが重要です。
候補者に求めるのは、新しい責任へ踏み出す努力です。経営側が引き受けるのは、その努力を使える実務に置き、必要な支援を出し、得られた根拠で次の判断を返すことです。候補者リストの次の更新で、その人に何を任せ、何が分かり、次に何を選んだかを説明できるよう、まず一人の計画を具体化していきましょう。
候補者に渡す実務を、社内で決めきれないときは
将来の役割は見えていても、どの経験が足りないのかを絞れない。横断業務を任せたいのに、現職の責任や他部門の協力と折り合わない。こうした課題は、人事担当者だけで育成計画を詳しくしても解消しにくいものです。
株式会社Global Career Incubator〈GCI〉のGCAP ENTERPRISE|法人向け人材育成では、期待する役割と現在の経験・行動を整理し、個別の学習と実践、振り返りを組み合わせて育成を支援します。Global Career Accelerator Program〈GCAP〉の法人向け支援として、選抜された次世代リーダーの経営視点や事業計画、意思決定も対象に含めています。[4]
ご相談では、想定する将来の責任と、任せられそうな実務、社内でまだ合意できていない条件をお聞かせください。実務機会の確保と登用・配置の決定は企業が担い、GCIは役割と経験をつなぐ育成の進め方を、対象と支援範囲に応じて具体化します。候補者へ次の仕事を依頼できるところまで、会社として何を整えるかを一緒に考えていきましょう。
次世代幹部候補の実務経験と育成計画について相談する
参考資料
本稿では、2026年10月28日に確認した資料を参照しています。育成・更新シート、任務案と更新例は、本稿の提案です。
[1]米国会計検査院〈GAO〉:Human Capital: Succession Planning and Management Is Critical Driver of Organizational Transformation。GAO-04-127T、2003年10月1日。豪州・カナダ・ニュージーランド・英国の公的機関の取組を扱った報告。
[2]DeRue, D. S., & Wellman, N.(2009):Developing leaders via experience: The role of developmental challenge, learning orientation, and feedback availability。Journal of Applied Psychology, 94(4), 859–875。著者公開PDF。参照箇所:抄録、方法、フィードバックの交互作用、実務上の含意と研究の限界。著者の論文一覧。
[3]米国人事管理庁〈OPM〉:A Guide to the Strategic Leadership Succession Management Model。2009年3月。Communications Strategy、冊子99〜101頁(PDF102〜104頁)の参加者へ伝える事項を参照。
[4]株式会社Global Career Incubator:GCAP ENTERPRISE|法人向け人材育成。現行の対象・支援内容。ページ内に公開・更新日の表示はありません。
