BUSINESS JOURNAL

専門職の選考課題をつくるなら、実務との関係と候補者の負担を整える

株式会社Global Career Incubator 代表取締役CEO 井川真一

最終更新:2026年10月29日。本文・参考資料は更新日時点の情報です。

専門職の選考課題をつくるなら、実務との関係と候補者の負担を整える

面接だけでは専門性を確かめにくいので、課題を出したい。その判断自体は理解できます。ただ、候補者へ難しい問題を渡せば、入社後の仕事が見えるわけではありません。

大量の資料を読み、何日もかけて提案書を作る課題になっていないでしょうか。採用側が確認したいのは分析の判断なのに、見栄えのよい資料を作る時間や、業界の内部事情を知る人ほど有利な内容になっていないでしょうか。

候補者に時間を使っていただく以上、企業側は「この仕事の、何を確認するためか」を説明できるようにしておきたいところです。課題の難しさより先に、仕事との関係と、評価できる範囲を整えていきましょう。

入社時に必要な力と、入社後に教えることを分ける

2026年10月28日に確認した米国人事管理庁のワークサンプルとシミュレーションの説明では、職務に近い作業を候補者に行ってもらい、行動や結果を評価する考え方が示されています。また、入社後に教える作業を、そのまま採用時の能力として測る方法が適切とは限らない点にも触れています。

たとえば、自社専用の画面の操作は入社後に教える予定なのに、その画面を初めて使う候補者の操作速度を競わせても、今回確かめたい専門性とずれるおそれがあります。逆に、データの欠けを見つけて判断の限界を説明する力を入社時に求めるなら、その力が見える題材を考える必要があります。

現場の採用責任者は、課題を作る前に、対象の仕事と観察したい行動を書き出してください。「分析力」だけではまだ広すぎます。「分母が異なる数値を、そのまま改善と判断しない」のように、今回の職務へつながる行動にしましょう。

実案件を丸ごと渡さず、判断が見えるところを切り出す

以下はGCIが作成した仮想例です。

ある企業が、顧客対応の業務分析を担う専門職を採用します。現場からは、「現在の対応データを渡し、改善策を十枚の資料にまとめてもらいたい」という案が出ました。

しかし、そのデータには実際の顧客情報が含まれ、正しく読むには、社内の分類や担当範囲を知る必要がありました。候補者にとっては準備時間が読みにくく、会社側も、文章のうまさと分析の判断を分けて評価できていませんでした。

そこで採用担当と現場責任者は、選考で見たい点を絞ります。今回必要なのは、集計値の違いに気づき、分からないことを確認し、次の調査を提案できるかです。顧客対応全体の改善計画を、その場で完成させることではありません。

課題用には、前月と今月の受付・対応・取り下げだけを載せた小さな表を使うことにしました。候補者へ渡す条件は、次のとおりです。

  • 前月は受付百件のうち、期限内対応が六十件だった。
  • 今月も受付百件、期限内対応は六十件だった。
  • 今月の資料は、対応開始前に取り下げられた二十件を分母から外し、「期限内対応率七十五%」と表示している。この二十件は、期限内対応の六十件には含まれない。
  • 前月の取り下げ件数は、渡した資料には載っていない。

候補者には、「上司へ、この資料から言えることと、追加で確認することを短く説明してください」と依頼します。計算、比較の条件、追加確認がつながるようにした課題です。

採用担当者は、候補者へ案内する前に、この課題を実務を担う評価者と試してください。読み終えるまでにかかった時間、説明が分かれる箇所、仕事に不要な知識が影響する箇所を記録します。意図した判断が見えなければ、題材や指示を直してから候補者へ出しましょう。課題を作った努力があるほど使いたくなるものですが、確認したい力が見えない課題に、候補者の時間を使っていただく理由はありません。

正解の数字に加え、そこへ至る説明を見る

受付百件を分母にすれば、前月も今月も六十%です。今月の七十五%は、取り下げ二十件を除いた八十件を分母にした値です。取り下げを除く定義で前月と比べるには、前月の取り下げ件数が足りません。比較できる数字は示したうえで、別の定義では何が未確認なのかを説明する必要があります。計算を止めることが慎重さなのではなく、どこまで比べられるかを相手へ渡すのが、この仕事で見たい判断です。

評価者は、あらかじめ次のような観察点をそろえておきましょう。

見たい仕事上の行動 課題で確認する説明 評価で飛躍しないための注意
数値を確かめる 受付全体では両月六十%、今月の取り下げ除外後は七十五%と説明する 計算だけで全般的な分析力を高評価にしない
比較の条件を見る 両月の受付全体での比較と、取り下げを除いた比較を分ける 表現の強さや専門用語の数で比べない
不明点を残す 前月の取り下げ件数が不明と説明する 不明な数字を推測して埋めた回答を評価しない
次の調査へつなぐ 取り下げの分類や理由を確認する すべての指標を挙げることを求めない

候補者の回答に、「今月は十五ポイント改善しました」とあれば、なぜそう考えたかを尋ねてください。すぐに正解を教えるのではなく、同じ条件で比べられるかをどう確かめるか、説明を聞きましょう。

一方、「改善したとはまだ言えません」で止まった場合も、その一言だけで十分とは限りません。上司へ何を説明し、誰へ何を確認するかを聞くことで、実際の仕事へつながる判断が見えます。

現場の評価者自身も、上司へ返す短い回答を作ってみてください。

受付全体に対する期限内対応は、前月も今月も六十%です。今月の七十五%は取り下げを除いた別の定義なので、十五ポイント改善したとは説明できません。集計担当者に、前月の取り下げ件数と、両月で同じ基準で除外しているかを確認します。業務責任者には取り下げ理由を聞き、処理しやすくなったのか、対応する前に依頼がなくなったのかを分けて調べたいと考えます。

この文の暗唱を求める必要はありません。候補者が、比較できる範囲を示し、その先の判断に必要な情報と確認相手をつなげて話せるかを見てください。追加確認先が何人も挙がっていても、何を決めるためかが答えにないなら、質問の数では補えません。

条件を一つ変え、評価者も答え直してみる

同じ課題で、前月の取り下げ件数だけを「今月と同じ定義で二十件だった」と変えてみましょう。ほかの条件はそのままにして、評価者がもう一度上司への説明を作ります。

受付全体では両月六十%、取り下げを除いても両月七十五%で、どちらの定義でも率は変わっていません。分母をそろえるための件数は分かりました。次は、取り下げの理由や案件の難しさが変わったかを業務責任者に確認し、率が同じでも仕事の状態に違いがあるかを調べます。

前月の情報を足したのに、「前月の分母が分からない」と言い続けるなら、新しい情報を判断へ反映できていません。逆に、率が同じだから業務全体にも変化がないと断定するのも早すぎます。評価者は、何が分かったことで前の回答を変え、何は引き続き調べるのかを、自分の言葉で説明してみてください。

試行では、回答そのものに加え、題材のどこで説明が止まったかも残します。たとえば「取り下げと期限内対応の件数が重なるか分からない」で止まるなら、問題文の条件を明示する修正です。条件は読めているのに、評価者ごとに「比較できない」の意味が違うなら、観察表と回答例を照合する方が先でしょう。採用担当と現場責任者は、直した問いをもう一度解き、見たい行動を記録できるかを確かめてから、課題の利用を決めてください。

採点基準は、実施後に気に入った候補者の回答へ合わせて作らないでください。評価者が同じ回答例を見て、何を事実として記録するかを事前に合わせることが重要です。

時間、道具、利用目的を候補者へ伝える

課題の負担は、回答用紙の枚数だけでは分かりません。事前の業界調査が必要なのか、自宅で資料を作るのか、面接中に考えを説明するのか。候補者が見通しを持てる条件を企業側で示しましょう。

先ほどの例なら、面接枠の中で表を読み、口頭で説明する案が考えられます。採用側で試し、読む時間と説明の時間を確保してください。ここでいう短さは、急がせることが目的ではありません。必要な判断以外の準備を増やさず、比較できる状態をつくるためです。

電卓や資料、生成AIなどの利用条件も明示しましょう。自力での判断を見たい場面と、道具を使ったうえで根拠を点検する場面では、課題の設計が変わります。使ってよいかを曖昧にしたまま、後から評価を変えるのは避けてください。

事情に応じた実施方法の調整を受け付ける担当も伝え、必要な対応は人事や専門担当と確認して進めましょう。全員に同じ時間を与えるだけで、公平な評価が完成するとは限りません。

会社の実案件にそのまま使える企画や、候補者の現職の非公開情報を求めないことも大切です。課題の利用目的、保管する人、保管期間、削除の扱いは企業側で定め、必要な法務・情報管理の確認を行ってください。

課題の結果を、面接の証拠と照らす

この課題のデータを適切に説明できたとしても、実際の関係者との調整、継続運用、専門領域全体の経験までは分かりません。課題で確認した力と、過去の仕事で確認する力を分け、採用会議へ持ち寄りましょう。

課題でつまずいた場合も、その理由が今回必要な力の不足なのか、指示や題材の問題なのかを見直すことが重要です。候補者を選ぶだけでなく、自社の選考を点検する姿勢を持って進めてください。

面接で残る問いから、課題の範囲を決める

GCIの人材紹介では、企業が専門人材へ任せたい役割と、候補者の経験を整理するところからご相談いただけます。課題を増やす前に、面接で確認できることと、実際の作業を見たいことを分けていきましょう。

採用したい職務と、面接の後にも判断が残る仕事を一つ、企業向け相談フォームからお知らせください。課題の量を増やす前に、何を見れば採用の判断が進むのかを、一緒に整理しましょう。