BUSINESS JOURNAL

営業責任者の採用で、個人の売上と組織を育てた成果を分けて評価する

株式会社Global Career Incubator 代表取締役CEO 井川真一

最終更新:2026年10月29日。本文・参考資料は更新日時点の情報です。

営業責任者の採用で、個人の売上と組織を育てた成果を分けて評価する

売上実績の大きい候補者に会い、「この人なら営業組織を任せられそうだ」と期待する。営業責任者の採用では、そう感じる場面があるでしょう。

その期待は大切にしながら、もう一つ確かめてください。今回必要なのは、難しい案件を自分で取る人でしょうか。それとも、複数の担当者が顧客を理解し、案件を進められるようにする人でしょうか。

両方を担える人もいます。ただ、個人の大きな売上だけで、育成や営業予測、チームの運営まで確認できたことにはなりません。採用したい責任者の仕事に合わせ、実績の中身を分けて見ていきましょう。

最初に直したい営業の問題を決める

営業責任者へ「売上を伸ばしてほしい」と期待するだけでは、確認する経験を絞れません。

たとえば、重要な顧客との関係を立て直す必要があるなら、本人が顧客へ入り、条件を整理して進めた経験が大切です。一方、一部の担当者だけに案件が集中しているなら、他の担当者へ仕事を渡し、育てた経験を確かめたいところです。

予測が毎月大きく外れる問題なら、案件の状態を何の根拠で確認し、見込みを修正したかも聞く必要があります。

すべてを求める前に、初期に任せる課題と、会社側が支えることを決めてください。それによって、候補者のどの経験を深く聞くかが変わります。

1億円と3億円を、どの仕事の根拠にするか

以下はGCIが作成した仮想例です。

ある企業は、営業責任者へ、担当者を育てながら案件の進捗を把握する役割を求めていました。候補者Aさんは、「個人売上1億円、チーム売上3億円」と説明しました。

面接担当が定義を聞くと、同じ年度・同じ売上計上基準で、3億円にはAさんの1億円が含まれていました。本人と他のメンバーの合計が3億円です。1億円と3億円を足して、4億円の実績とすることはできません。

さらに確認すると、大型案件ではAさんが主要な商談へ入り、提案の修正も引き受けていました。チームを支えた貢献はあります。ただ、それだけで、メンバーが自分で案件を進められるようになったかは分かりませんでした。

経営者・採用担当の皆さんなら、この段階でどの仕事を任せると提案するでしょうか。先へ読む前に、「任せたい仕事」と「その根拠」を一文ずつ書いてみてください。売上の数字から、どの経験を読み取ったかを確かめるためです。

例えば、採用会議で次の意見を出したとします。

個人でもチームでも大きな売上を担っているので、若手育成と案件管理を含め、営業組織全体を任せたいと考えます。

重要な商談へ入って提案を進めた点は、任せる理由になります。しかし、この意見では、本人が案件を進めた経験から、他の人が進められる状態をつくった経験まで、一足で移っています。売上の内数を正しく計算できても、この飛躍は残ります。

企業は、売上額の確認に続けて、「Aさんからメンバーへ、どの仕事が移ったのか」を聞くことにしました。

売上の定義を聞くことは、実績を疑うことではない

同じ「売上」でも、受注額、売上計上額、契約全期間の金額、対象年度分などで意味が変わります。評価する会社は、候補者へ、何の数字を聞いているかを伝えてください。

担当変更で引き継いだ案件、新規に獲得した案件、既存の更新、他部門と共同で進めた案件も区別します。機密の実額を無理に聞く必要はありません。公開できる範囲や、比率・範囲で説明してもらう方法もあります。

定義がそろわない二人の数字を、そのまま大小で比較しないことが重要です。数字を確かめた後に、どんな顧客条件と支援の下で、本人が何を担ったかを聞いていきましょう。

「教えた」から、メンバーへ移った仕事を確かめる

先ほどのAさんは、若手の商談に同席していました。最初は、顧客が比較している条件をAさんが聞き取り、次の提案を組み立てていました。

その後、若手に、顧客の判断条件と未確認事項を整理してもらい、商談前に一緒に確認する方法へ変えました。続く二つの商談では、若手が顧客へ条件を確認し、提案の選択肢を作りました。価格の最終承認と難しい契約条件は、引き続きAさんが確認していました。

ここは、育成の材料として丁寧に拾ってください。支援が残っているから育成していない、ということではありません。顧客の条件を聞き、提案案をつくる仕事が若手へ移り、商談前の確認と契約面の支援は責任者に残っています。どこまで任せられるようになったかが見える説明です。

採用担当が評価記録に残すなら、次のように書けます。

本人の説明では、二つの商談で、若手が顧客の判断条件を確認し、提案の選択肢を作った。Aさんの事前確認、価格の最終承認、難しい契約条件への対応は続いていた。顧客確認と提案案作成を段階的に任せた行動は、育成を評価する材料にする。商談の受注結果、チーム全体の売上への影響、別の記録による裏付けは未確認。

「育成力が高い」とだけ残すより、この記録なら、次の面接官も何を確かめればよいか分かります。二つの商談で見えた行動を、全員の自立や組織全体の売上向上へ広げないことも大切です。採用担当は、説明の中で本人が観察したことと、採用側が資料などで別に確かめたことを区別しておきましょう。

案件の見込みを変えた理由まで聞く

今回の企業が任せたいのは、育成に加えて、案件の進捗を把握する仕事です。育成の説明に納得できたら、次はその経験へ問いを移しましょう。

予定していた受注時期を見直した案件を一件挙げ、どの顧客情報で見込みを変え、担当者と何を確認し、経営へどう伝えたかを説明してください。

「毎週、メンバーへ案件の確度を聞いていました」という返答だけなら、会議を開いたことは分かっても、見込みを更新した判断は分かりません。「確度が高い」という担当者の感触を、何の情報と照らしたのかを聞き返してください。

例えば、次のような説明が返った場合を考えてみましょう。

担当者は当月の受注を見込んでいましたが、顧客の予算承認日が決まっていませんでした。そこで、当月の確定見込みから外す案を営業会議へ出しました。担当者には、承認する人と、その人が必要としている資料、次に確認できる日を聞いてもらうよう伝えました。経営には、案件を失ったという報告ではなく、受注時期の根拠が足りないために見込みを変える提案として説明しました。

この答えでは、顧客の購入条件を根拠に見込みを見直し、担当者の次の確認と経営への説明へつなぐ考え方が読み取れます。ただし、ここで示されたのは会議への提案です。採用担当は、「その案を誰が判断し、実際の予測へどう反映しましたか。次の確認で、どの情報を更新しましたか」と続けましょう。本人が提案したこと、組織が採用したこと、その後に観察できたことを分けて聞くためです。

担当案件で一度この判断をした経験があっても、営業組織全体の予測運営を担ったとは限りません。複数の担当者の情報をどう揃え、例外を誰が扱い、経営へいつ返したかまで説明できれば、今回の案件管理に使える根拠が増えます。一件の説明にとどまるなら、その範囲で評価し、組織の運営を支える人が社内にいるかへ話を進めてください。

個人案件への貢献、メンバーへ仕事を移した行動、予測を見直した判断、組織を運営した責任は、それぞれ確かめる対象です。例えば、案件配分や会議を動かした経験と、正式な人事評価を担った経験も分けます。この会社では、まず育成と案件進捗を重く見ると決め、他の候補者にも同じ課題に関する問いを用意しましょう。聞く項目の多さより、今回の役割を任せる理由が揃うかを見てください。

育成を任せるなら、本人の案件をどこまで残すか

本人が前に出る営業責任者を求める選択にも、理由があります。新しい市場で顧客との接点をつくる段階や、重要案件を立て直す場面なら、その力を優先する会社もあるでしょう。

今回の企業が若手育成を初期の重点に置くなら、経営者は、重要顧客のどこを本人に残し、どの仕事を別の担当へ渡すかを決めてください。採用担当は、個人目標と担当顧客に加え、商談前後の準備・振り返りへ使える時間を候補者に説明します。「育成もお願いします」という一言で足した仕事には、使う時間が割り当てられていません。

確認には、現在の重要案件の予定を使えます。経営者と営業の担当者で、本人の同席が必要な商談、その準備、契約対応を並べ、そのうえで若手と確認する時間を置いてみましょう。重なるなら、引き継げる顧客や提案作成の仕事を選び、受け手が引き受けられるかまで確かめます。実際の仕事量を調べず、育成に使える時間数を先に約束しないことです。

個人案件を減らせず、ほぼすべての重要商談へ入る必要があるなら、当面の任務は本人による重要案件対応が中心になります。その条件で育成も進めるなら、商談のどの部分を若手が担い、誰が振り返りを支えるかまで決めてください。必要な時間を確保できない場合は、育成を別の責任者と分けるか、個人案件の配分を変えるかを会社側が選び直しましょう。

候補者の熱意や力量への期待で、使える時間の不足を埋めないでいただきたいと思います。任務を絞ることは、その人への期待を下げることではありません。確かめた強みを、今回の仕事で発揮してもらうための準備です。

売上の印象から、任せる範囲を言い直す

ここで、最初に書いた「任せたい仕事」と「その根拠」へ戻ってください。若手へ移った仕事は具体化しましたが、組織全体の予測運営と正式な人事評価の経験は、元の面接記録ではまだ確認できていません。先ほどの追加質問は、その空欄を埋めるために使います。

採用会議への提案を書き直すなら、例えば次のようになります。

大型商談へ入り提案を進めた経験と、二つの商談で顧客確認・提案案作成を若手へ移した説明を、それぞれ評価の材料にします。今回は育成と案件進捗の把握が初期の課題なので、次の面接では、予測を見直した顧客情報と、本人が提案・決定・運用した範囲を確かめます。

あわせて会社側で、本人に残す重要顧客と、若手の準備・振り返りを行える時間を決めます。予測運営の経験が不足しても、社内の責任者がその部分を担い、本人には確認できた育成の範囲から任せられるなら、分担を示して選考を進めます。育成も予測も初日から一人で担う必要があり、社内にも支える人がいないなら、その経験を確かめられる候補者の探索を続けます。

最初の意見と比べてみてください。売上の大きさを評価しなくなったのではありません。どの行動をどの任務の根拠に使うかを明らかにし、足りない経験を会社が補えるかによって、任せ方を変えています。

ご自身の書き直した文にも、任せる仕事、そう考える根拠、判断を変える条件があるかを点検しましょう。「追加で聞く」が増えただけなら、その答えが得られたとき、誰が何を決めるかをもう一文足してください。

次の面接では、一件の仕事の移り方から確かめる

採用担当は、売上実績を聞いた後に、「その中で、ご自身からメンバーへ移った仕事は何ですか」と聞いてみてください。答えが出にくければ、一人の担当者と一件の商談に絞り、最初は誰が行い、その後どこを任せ、どこには支援を残したかをたどります。流暢に成功談を語れるかより、今回の仕事へ結び付けられる行動を見たいからです。

面接後は、その回答を同席者と読み、育成を評価する根拠と、案件進捗を確かめる次の問いを分けて残しましょう。経営者には、候補者の評価だけでなく、個人案件と育成の時間をどう割り当てるかも、次の選考までに返してもらってください。

売上は評価できても、育成と案件管理をどこまで任せるか迷うときは

候補者の売上実績は魅力的でも、会社が求める育成や案件管理とのつながりが見えない。その場合は、今の営業組織で変えたい仕事と、責任者本人に残したい顧客対応をお聞かせください。

GCIのTalent Search|人材紹介では、任せる役割と期待成果、候補者の経験を整理し、探索と選考の進め方を確認します。営業責任者の採用について相談する際は、売上額だけでなく、誰がどの仕事を担う体制を目指しているかを添えてください。営業組織の設計や調査・診断まで必要な場合は、採用支援との範囲を分け、対象・成果物・費用を合意してから進めます。