株式会社Global Career Incubator 代表取締役CEO 井川真一
最終更新:2026年10月29日。本文・参考資料は更新日時点の情報です。

「直近一年の契約額は二億円です」「新規の年間契約額は六千万円です」。SaaS営業の採用で、この二つの数字を並べたとき、金額が大きい候補者を先に評価していないでしょうか。集計した期間が同じでも、契約に含まれる年数や仕事は違うかもしれません。金額の意味と、本人が何を担ったかを確かめることから始めましょう。
過去の実績を疑うための確認ではありません。候補者が何をして成果を出し、その条件のうち何が自社にもあるかを理解するためです。金額を比べる前に、定義、新規と既存、顧客の規模、案件の作り方、社内の支援をそろえましょう。
自社で任せる仕事を明らかにしたうえで、その仕事の根拠となる経験を見る。採用責任者と現場の営業責任者が、この順序で候補者を比較していくことが重要です。
自社の営業担当者が、何から何まで担うかを先に決める
営業という職名が同じでも、商談を受け取ってから担当するのか、自ら接点を作るのかで、必要な経験は変わります。契約更新や追加提案が中心か、新しい顧客を獲得するのかも分けてください。
2026年10月28日に確認したGitLabの公開職務記述では、Commercial Account Executive – Mid-Marketの仕事に、見込み顧客への活動、新規案件の獲得、顧客関係、予測、他部門との連携が挙げられています。同社の職務記述ライブラリには、古い記述や欠落があり得るとの注意があります。ここでは仕事を分ける参考例として読み、現在の日本向け募集要件とは区別します。
採用側は、対象顧客、商品、商談の入口、受注までの仕事、契約後の引継ぎを短く書き出しましょう。技術説明、契約条件、価格の例外を誰が支えるかも添えます。
「一人で売れる人が欲しい」という要望は、そのままでは評価基準になりません。本人に期待する仕事と、会社が提供する支援を具体化してください。技術的な適合確認には専門家が必要な商品なのに、営業担当者が一人ですべて答える前提にすれば、候補者の経験を見極める以前に、職務の条件が合っていない可能性があります。
売上の数字には、定義と期間を付ける
候補者が「売上」「受注額」「年間契約額」と呼ぶ数字を、採用側の定義へ勝手に置き換えないでください。契約期間全体の金額なのか、一年分として管理する契約額なのか、一時的な支援費用を含むのかを聞きます。
SaaSの指標には会社ごとの管理上の扱いもあります。略語が同じなら比較できると決めず、今回の説明で何を含め、何を含めないかを確かめましょう。採用担当者がここで扱うのは、本人が実績として説明した社内管理上の数字です。会計上の売上計上とは分けて読みます。
期間も、暦年、会社の年度、着任後の一部期間などを分けてください。引き継いだ大口案件の受注と、本人が接点を作ってから受注した案件では、同じ年度の数字でも、示せる行動が異なります。
目標達成率も同様です。会社や担当領域が違えば、目標の作り方や担当する顧客が違います。達成率の高さだけで、今回の仕事への適合を決めないようにしましょう。その目標に対し、本人が何を変えたかまで確かめることが重要です。
二人の実績を、同じ金額へ換算できない場合もある
以下はGCIが作成した仮想例です。
業務支援SaaSを提供する企業が、中堅企業の新規開拓を担う営業担当者を採用します。自社では、マーケティングからの商談供給だけでは足りず、本人が接点を作る仕事も必要です。技術担当者は重要な確認に参加できますが、すべての初回商談へ同席する体制ではありません。
候補者Aは、大企業向けの営業として、直近の一年に二億円の契約額を担当したと説明しました。聞き取ると、これは複数年契約の期間全体を含む社内管理上の金額で、既存顧客の更新と追加契約を含んでいます。契約期間は案件によって違い、一年分の金額はこの面談では確認できていません。
Aは、顧客の複数部門と契約条件を調整し、技術担当者や上司と提案を進めています。多くの案件は、既存関係と社内の見込み顧客情報を起点にしていました。自ら新しい相手へ接点を作った案件の具体例は、まだ聞けていません。
候補者Bは、直近の一年に、新規二十社で六千万円の年間契約額を獲得したと説明しました。この数字は、契約時に一年分として管理する利用料で、一時的な支援費用を含まないという定義です。二十社のうち八社は本人が接点を作り、十二社は問い合わせ等から始まった案件でした。
Bは初期の聞き取りと提案を担い、技術的な確認が必要な段階で専門担当者へつないでいます。ただし、顧客の規模や意思決定の複雑さが、今回の対象企業とどこまで近いかは、まだ分かっていません。
ここで二億円を一定の年数で割り、六千万円と並べることはできません。Aの契約期間と内訳がそろっていないからです。換算して比較した形にするより、何の数字かを分け、本人の仕事を確かめる方が、採用判断に役立ちます。
同じ質問で土台をそろえ、異なる不足を追加で聞く
採用側は、両者について、共通して確認する基本項目を用意しましょう。米国人事管理庁〈U.S. Office of Personnel Management、OPM〉の構造化面接の説明にも、職務に関わる過去の行動や仮定場面での行動を尋ね、事前に決めた共通の質問と評価基準を使う考え方が示されています。日本企業の法令上の手順を定める資料ではありませんが、候補者ごとに物差しを変えないための参考になります。
例えば、代表的な一案件について、次の内容を聞けます。
- 最初の接点は、誰が、どのように作ったか。
- 顧客が解決したかった仕事と、購入を決める人は誰だったか。
- 本人が聞き取り、比較し、提案したことは何か。
- 技術、上司、パートナーは、どの段階で何を担ったか。
- 当初の見通しと実際の期間はどう違い、本人は何を変えたか。
- 受注と、契約後に顧客が使える状態までの責任を、どう分けていたか。
答えを受けた後は、自社の役割に対して残る不足を掘り下げます。Aには、自ら接点を作った案件と、その後の行動を確認する必要があります。Bには、中堅企業で複数の関係者をつなぎ、購入の判断を進めた経験があるかを確かめたいところです。
共通の土台を持つことと、全候補者へ追加質問を一字一句同じにすることは、同じではありません。評価する仕事を固定し、根拠が足りない部分を聞いてください。印象の良い候補者だけに、答えを補うような質問を続けないことも重要です。
金額の順位から、証拠と未確認を残す評価へ変える
二人について、次のような会議メモでは、実績の大きさが本人の適合へ飛躍します。
「Aは二億円で大企業の経験もある。Bは六千万円で規模が小さいため、Aを優先したい」
同じ事実を使うなら、例えば次のように整理できます。
| 自社で必要な仕事 | Aが説明した経験 | Bが説明した経験 | 次の確認 |
|---|---|---|---|
| 新しい接点を作る | 主な入口は既存関係と社内情報 | 八社は本人が接点を作った | Aの具体例、Bの対象と作り方 |
| 顧客の購入判断を進める | 複数部門との契約調整 | 初期の聞き取りと提案 | 今回に近い顧客規模・判断者・案件期間 |
| 技術担当者と協働する | 技術者と上司の支援を使った | 必要段階で専門担当へ接続 | 支援前に本人が何を確かめたか |
| 実績を自社条件と比べる | 複数年・更新等を含む金額 | 一年分の新規利用料という管理値 | Aの案件別の契約期間と新規・更新・追加の内訳。Bの二十社と六千万円が同じ集計対象か、本人開拓八社の一件で何を担ったか。 |
表に置いたのは、両者が説明した経験です。前職の記録で検証した実績や、採用課題で直接観察した行動とは分けてください。Bの八社は件数の内訳であり、六千万円のうち八社が占める金額は分かっていません。
会議では、次のように説明できます。
「金額は定義が違い、現時点では直接比較できません。Aには複数部門を含む商談の経験がありますが、今回必要な自ら接点を作る行動は未確認です。Bには自ら接点を作った新規案件がありますが、対象顧客の意思決定が今回と近いかは未確認です。両者の一案件を、入口、購入判断、本人と支援者の仕事まで確認し、その根拠で次の判断をしたいです」
この会社では、Aの複数部門との契約調整と、Bの自ら接点を作った経験の両方に、確かめる価値があります。どちらが今回の仕事へつながるかを決めるため、営業責任者は、次の一案件を聞く目的を先に明らかにしておきましょう。
支援を受けたことではなく、支援の中で何をしたかを見る
技術担当者や上司の協力があったという理由だけで、本人の成果を小さく扱わないようにしましょう。複雑な商談では、適切な専門家を巻き込む仕事にも価値があります。
採用側が確かめたいのは、支援が必要になる前に何を聞いたか、誰へ何を渡したか、専門家の答えを顧客の判断へどうつなげたかです。本人が分からないまま同席者へ渡していたのか、必要条件をそろえて協働していたのかを区別してください。
同時に、自社に前職と同じ支援がないなら、その差を候補者へ伝える必要があります。技術者の参加が限られること、契約調整を担う人が違うことなど、実際の条件を示しましょう。候補者に「何でもできます」と言わせるだけでは、入社後の体制は整いません。
足りない支援を、候補者の能力で埋められるかどうかだけに寄せないことも重要です。専門判断が必要な商品なら、会社側が支える体制を持つ必要があります。採用は、自社の未決定を一人へ引き受けさせる手段にはしないでください。
守秘に配慮しながら、判断の中身を確かめる
実績の根拠を求める際も、前職の顧客一覧や非公開の売上資料を提出させる必要はありません。候補者が共有できる範囲で、顧客の規模、課題、関係者、本人の行動、結果の定義を説明してもらいましょう。
金額や社名を出せない場合、一定の範囲で示せるか、数字以外で判断の難しさを説明できるかを相談できます。開示できないという返答を、そのまま実績がない証拠にしないでください。一方、聞けていない結果を、確認済みとして評価表へ埋めることも避けましょう。
採用側の記録には、「確認できた行動」「候補者の説明に基づく結果」「追加確認が必要な点」を分けて残してください。情報が足りないときは、その情報が採用判断に不可欠か、別の経験や問いで確かめられるかを考えます。確認方法は、本人の同意や会社の適切な手順を踏まえて選ぶ必要があります。
候補者を厳しく見ることと、秘密を出す人ほど高く評価することは、違います。職務に関わる証拠を、適切な範囲で確かめていきましょう。
追加回答を受けて、選考を進める条件を変える
候補者の比較が割れたら、営業責任者は「どちらの印象がよかったか」の多数決を止め、今回必要な仕事へ戻しましょう。この会社では、自ら新しい接点を作る仕事が入社時から必要で、技術担当者がすべての初回商談へ同席する体制もありません。二人に残る問いは、この二つの条件から決めます。
Aには、「既存の取引関係がなかった相手へ、ご自身で接点を作り、購入の検討まで進めた一件を教えてください」と尋ねます。別の一案件でその行動を説明できれば、対象顧客と入口、購入判断者、本人と支援者の仕事をBと同じ観点で比べられます。経歴の主な入口が既存関係だったことだけで、そこで質問を終えるのは早いからです。
反対に、本人が接点を作った経験がなく、会社もその部分を支える体制を用意できないと分かったなら、二億円という金額だけを理由に今回の役割で選考を進めません。複数部門との契約調整という経験は評価に残し、別の役割を検討するなら、会社にその仕事が必要かと、本人が望むかを改めて確かめます。採用したい人に合わせて、必要のない職務を作ることは避けてください。
Bについては、本人が接点を作った八社のうち一社を聞きます。「初回の聞き取りで何が分かり、誰が購入を決めると判断しましたか。技術担当者を呼ぶ前に、どの条件を整理しましたか」と問いましょう。顧客規模、関与部門、案件の進み方が今回の中堅企業と近く、専門担当へ渡す条件を本人が揃えた説明が得られれば、その経験を次の選考へ進める根拠にできます。
顧客の意思決定が自社より単純な案件だけだった場合は、八社という件数を減点するより、違う条件にどう対応するかを確かめましょう。例えば、複数部門の購入判断が必要な職務なら、利用部門と購入判断者が異なる条件を課題として示し、誰へ何を聞き、どの情報を揃えて技術担当者へ渡すかを説明してもらいます。聞き取りの理由と受け渡す内容を具体化できれば、現在の判断材料になります。説明が一般論で止まるなら、その部分を支える人を置けるか、入社時の担当を絞れるかを会社側で考えます。
職務課題の回答が良かったとしても、複数部門を動かして受注した過去の実績が増えたわけではありません。営業責任者は、経験として確認した範囲と、課題で示した判断を分けて、選考を進める理由へ使ってください。
採用担当者は、追加面接の目的と結果を返す予定を候補者へ伝えましょう。何度も「もう少し詳しく」と求めるより、今回は接点づくり、今回は購入判断者と技術支援のつなぎ方、と焦点を説明した方が、候補者も適切な経験を選べます。確認しても入社時に必要な根拠が得られず、担当条件も変えられないなら、その理由を持って選考を終える判断が要ります。
商談の入口だけを変え、同じ二人で答え直す
採用責任者と営業責任者は、上の二人について、どちらを次の選考へ進め、何を確認するかをそれぞれ短く書いてみてください。「金額」「経験年数」で止めず、自社の仕事と、それを支える本人の説明を一組にします。まだ判断できないなら、どの回答があれば進めるかまで書きます。
次に、新規顧客との初回接点はすべて会社が用意できるという条件だけを変えて答え直します。対象は同じ中堅企業で、技術担当者の参加条件も、AとBの経歴・金額も変えません。
この場合、Aの自力での接点づくりが未確認であることは、先ほどと同じ重さではなくなります。購入判断を進める経験や、技術支援が限られる場面で本人が担う初期確認へ、追加質問の重点を移せます。Bの八社の開拓経験も価値はありますが、その件数だけで優先する理由は弱まります。両者の顧客条件と、受け取った商談をどう進めたかを比べる必要があります。
最初と二度目の答えを見比べてください。選ぶ人が同じでも構いません。なぜ同じ人を選べるのかを、自社条件と本人の行動で説明できるかが大切です。説明がまた二億円や六千万円へ戻るなら、購入判断者、案件期間、技術支援を使う前の準備のどこをまだ聞けていないか、一つ特定しましょう。その問いを次の面接へ持っていけば、金額の順位から一歩先へ進めます。
営業として積み重ねた成果は、候補者にとって大切な実績です。数字を小さく扱う必要も、条件を超えて大きく見せる必要もありません。どの仕事で生まれた数字なのかを確かめ、今回任せる仕事へつなぐところまで、採用側も取り組んでいきましょう。
売上額と新規開拓の評価で、社内の見方が分かれたときは
売上額ではAが目立ち、新規開拓の説明ではBが自社に近い。採用会議で結論が出ないなら、候補者を一人に絞る前に、判断が分かれた理由をお聞かせください。求人票と、代表的な一案件のメモがあれば、金額の定義、商談の入口、本人と支援者の仕事のどこが曖昧なのかを考えられます。
GCIのTalent Search|人材紹介では、任せる営業の範囲と、候補者が説明した経験・希望を照合し、探索条件や選考で確かめる事項の整理を支援します。採用責任者が判断に使いたい一件を、共有可能な範囲でお知らせください。GCIは、貴社の営業条件を確かめ、次の面接で何が分かれば選考を進められるかを一緒に具体化します。
参考資料
以下は2026年10月28日に確認しました。GitLabの記述は公開職務例として参照しています。
- GitLab Handbook:Commercial Account Executive Job Family(Mid-Marketの責任・要件。ページの最終更新表示:2026年3月12日)
- GitLab Handbook:Job Description Library(資料の鮮度に関する注意。ページの最終更新表示:2026年3月4日)
- U.S. Office of Personnel Management:Structured Interviews(定義、事前質問、共通の評価尺度)
- GCI:Talent Search|人材紹介、企業向け相談
