株式会社Global Career Incubator 代表取締役CEO 井川真一
最終更新:2026年10月29日。本文・参考資料は更新日時点の情報です。

採用代行の担当者が、候補者への連絡文をAIで下書きする。文章を整える負担を減らしたいと考える企業もあるでしょう。日々の連絡が多いほど、少しでも作業を軽くしたいという思いは自然です。採用責任者の方には、下書きの速さだけでなく、入力前の確認、出力の照合、修正、送信まで含めて仕事が軽くなるかを見ていただきたいと思います。
AIを使うかどうかを決める前に、委託先へどのような指示を出すかを一度書いてみてください。自社でAIに任せたい採用連絡を一つ選び、何を入力してよいか、AIに何を作らせるか、誰が何を確認してから送るかを三、四文で残します。まだ答えが決まっていない箇所は、「確認が必要」と書いたままで構いません。後で同じ指示へ戻り、使う材料と人が担う仕事が変わったかを比べます。
入力を認める前に、委託先から利用方法を受け取る
文章の確認方法を決めるより先に、委託先がどのサービスへ何を入力するのかを確かめてください。会社がAIサービスの利用を認めることと、候補者の情報をその目的で入力できることは同じ判断ではありません。
個人情報保護委員会の2023年6月2日付の注意喚起は、個人情報を入力するとき、特定した利用目的に必要な範囲かを確認するよう求めています。また、事前に本人の同意を得ずに個人データを入力し、提供者が応答の出力以外の目的で扱う場合は、法違反となる可能性を示しています。機械学習への利用や規約・プライバシーポリシーを確認し、実際に使う契約・設定へ照らす必要があります。
採用責任者は、委託先から、サービスと契約プラン、アカウント、設定、入力予定の項目と目的、保存方法、送信までの手順を受け取ってください。法務・情報管理担当には、その資料と規約・契約を使い、提供者の利用目的、保存や共有の範囲、外部連携、委託契約との関係、本人への説明と必要な同意の有無・範囲を確認してもらいます。学習に使わないことや、同意があることだけで、ほかの条件の確認を終えないようにしましょう。
確認結果は、採用責任者から運営担当へ、許可した用途と入力できる項目、入力しない情報、契約や設定が変わったときの再確認先として渡します。口頭で「使ってよい」と伝えるだけでは、返信のどこまで扱えるかが担当者に残ってしまいます。毎日の作業で選べる範囲にするところまで、会社側で引き受けてください。
氏名を消しても、経歴、企業名、質問内容などを組み合わせれば、誰の情報か分かる場合があります。確認前の練習には、実在する人物の情報を加工して入れる方法だけでなく、実在情報から独立して用意した材料を使う方法も検討してください。
条件が確認できるまでは、返信全文をAIへ入れない
最初は定型案内しか作らない予定でも、候補者から届いた返信をそのままAIへ要約させるようになれば、入力する情報の範囲が変わります。健康や家庭の事情、他社の選考状況など、本人が特定の目的で伝えた内容が含まれるかもしれません。
返信全文の入力条件がまだ確認できていないなら、採用責任者はその入力を認めません。ただし、AIへの入力を止めることと、候補者への対応を止めることは分けてください。採用代行の担当者が返信を読み、選考運営に必要な問いを社内の採用担当へ渡し、人が現在の記録に沿って本人への連絡を続けられます。
ここで確認したいのは、AIを使わないこと自体ではありません。条件が分からない情報は入力しない。その間も、人が担える候補者対応は止めない。 この二つを同時に守れる指示になっているかを見てください。
短い出力検証で、「確定」を勝手に作らないかを見る
以下はGCIが作成した仮想例です。
ある企業は、委託先と、採用連絡の下書きにAIを使う運用を検討していました。実在する候補者情報を入れず、予定を設定した材料で、連絡文の確認方法を考えました。元の材料には、次のように書いてあります。
候補者には木曜午後が都合よいと確認できている。面接官の予定は未確認。面接日としては確定していない。
確認用に用意した下書きは、次の内容でした。
「木曜午後の面接が確定しました。当日はよろしくお願いいたします」
この一文だけでも、出力確認で見るべき点は分かります。候補者の都合と、面接官を含む日程の確定は別です。文章が自然でも、元の記録にない「確定」を作っていれば送れません。AIには回答の根拠を新しく決めさせず、会社が確認した材料を許可された範囲で文面にする役割だけを持たせます。
この企業では、水曜午前に社内の採用担当と採用代行の担当者が話し、面接官への照会は社内の採用担当が行い、同日17時までに採用代行の担当者から候補者へ状況を伝えると合意しました。その連絡に対応できる時間も確保しました。そこで、送れる文面は次の状態まで戻します。
「木曜午後のご都合をお知らせいただき、ありがとうございます。現在、面接官の予定を確認しており、面接日時はまだ確定していません。本日水曜17時までに、確認の状況を改めてご案内します。」
17時までに面接官の予定が決まらなくても、状況を伝える仕事は残ります。一方、17時の連絡を担う人の時間を確保できなかったなら、その時刻を文面へ残したまま送ることはできません。採用責任者が代わりの担当を決めるか、引き受けられる時点へ約束を直します。ここで確かめるのは日程調整の細かな手順ではなく、AIの出力が会社の確認状態と、会社が本当に引き受けた約束を越えていないかです。
許可された用途が汎用文面だけなら、作業もそこまでに絞る
同じ場面で、候補者からの返信全文をAIへ要約したいという提案があったとします。提供者の利用目的と、候補者への説明・必要な同意など、返信全文を入力できる条件はまだ確認できていません。この段階では、返信全文をAIへ渡しません。採用代行の担当者が返信を読み、必要な問いを社内の採用担当へ渡し、合意した17時の状況連絡は人が続けます。
その後、法務・情報管理担当との確認で、許可された用途が「個人情報を含まない汎用の案内文の作成」に限られると分かった場合を考えます。採用責任者が選ぶのは、返信全文の要約を始めることではなく、頼む作業をその範囲へ絞ることです。
AIには、特定の候補者と結び付けず、「面接日時が未確定で、確認状況を後で知らせるための案内文」のような汎用文面を求めます。返信全文、氏名、所属、本人の事情は渡しません。木曜午後や水曜17時という個別の日時と本人への回答は、採用代行の担当者が会社の記録を見て文面へ入れ、AIへ戻さず、送信前に事実と宛先を確かめます。
確認で使える範囲が分かったからこそ、指示は「条件が確認できるまで入力しない」から、「許可された汎用文面だけを作らせ、個別情報は人が扱う」へ変わります。AIの利用を一度許可したからといって、入力する情報と用途を後から無制限に広げないでください。
確認する人には、下書きだけでなく元の記録を渡す
「最後は人が確認する」と決めても、下書きしか渡されなければ、文章の自然さ以上の確認は難しくなります。会社側は、確認済みの事実と、まだ回答できない点が分かる記録を渡しましょう。
照合では、候補、確認中、確定のどれなのか、誰の返答を得ているのかを見ます。続いて、対象の人、募集、選考段階が合っているかを確かめます。別職種の古い案内から勤務場所や処遇が混ざれば、日程が正しくても送れません。最後に、文面が作る約束と、宛先、経路、添付資料を照合します。
承認済みの内容を整えるだけなら、合意した範囲で採用代行が確認を担える場合があります。一方、勤務地や処遇などの回答自体が未確定なら、先に会社が決める仕事が残っています。すべてを責任者へ戻して定型連絡まで滞らせるのでも、会社の判断まで外部担当者へ渡すのでもなく、どの変化なら社内へ戻すかを一件の文面で合意しておきましょう。
誤りを見つけたら、プロンプトより先に訂正する事実を決める
下書きで誤りを見つけたら、修正前後の文面と、どの意味が変わっていたかを記録します。同じ指示を追加すれば次から防げると決めず、使わせる材料や、人が確認する箇所を見直してください。木曜午後の例なら、日付の一致だけを見ていなかったか、面接官の確認状態まで元記録に含めていたかをたどれます。
送信後に誤りが分かった場合は、会社側の責任者へ、送った内容、正しい事実、影響する相手と範囲を伝えます。責任者が訂正の要否と伝える内容を判断し、連絡担当が候補者へ案内します。情報の誤送信などが関わる場合は、社内の対応手順に従い、情報管理担当など必要な担当へつないでください。
最初の指示を、入力範囲と人の仕事まで書き直す
冒頭で残した自社の指示へ戻ってください。何を入力してよいか、AIに何を作らせるか、誰が何を確認するか。その三点を、ここまでの判断を使って同じ連絡について書き直します。
仮想例であれば、次のように分けられます。
「面接確定の案内は送れません。面接官の予定は社内の採用担当が確認します。現在は未確定であることと、本日水曜17時までに状況を返すことを伝える文面へ直してください。社内の採用担当が状態と連絡期限を確認した記録を渡し、採用代行の担当者が対象の募集、宛先、経路、添付を照合してから送信します」
「返信全文の要約は行わず、AIは許可された汎用の案内文作成に限ります。個別の返信は採用代行の担当者が読み、必要な問いを社内の採用担当へ戻してください。日時や本人への回答は、会社の記録を基に人が文面へ入れ、AIへ戻さず、同じ送信前の確認を行います」
最初の指示と並べてください。「確認後にAIを使う」とだけ書いていた箇所が、入力しない情報、許可された用途、人が入れる個別情報、送信前の根拠まで具体化したでしょうか。条件未確認の段階では入力を止め、確認後も許可された作業だけへ絞る。その一方で、候補者への17時の約束は、人が引き受けられる限り継続する。この違いが同じ指示から読めるかを見ます。
作成の速さを、連絡全体の負担と比べる
導入を判断する際は、下書きができるまでの時間だけを測らないでください。入力前の材料整理、利用条件の確認、出力の照合、修正、記録まで含めます。比べる連絡の種類、件数、期間をそろえ、どの作業が減り、どの確認が増えたかを見てください。下書きの時間が短くても、毎回、確定状態や役割の意味を直すなら、使う場面を絞る理由になります。
一方、内容を固定した案内の表現を整える用途なら、固定する情報と確認する箇所をそろえやすい場合があります。採用責任者は、「便利そうだから使う」ではなく、どの入力と用途なら、候補者への説明の正確さを保ちながら連絡全体の負担を下げられるかで判断してください。
採用連絡の先には、仕事や時間を調整しながら選考へ向き合う人がいます。速さを求めることと、その人が説明を信頼して動けることを、同じ運営の中で守っていきましょう。委託先へ確認を増やすだけでなく、会社側から、使ってよい材料と確かな判断を渡すところから始めたいと思います。
連絡作成の負担と、会社に残る判断を相談する
AIを使いたい業務は決まっていても、入力してよい情報、確認を戻す相手、送信前に見る記録が曖昧な場合は、現在の材料整理、文面確認、送信の分担をお聞かせください。GCIの採用コンサルティング・採用代行では、候補者対応や選考運営の課題を伺い、合意した範囲の支援を行います。
企業向け相談フォームには、連絡作成のどの作業が負担になり、どの判断が社内で止まっているかをお知らせください。初回相談で課題と進め方を伺い、調査・分析・報告を伴う診断は、対象・成果物・費用を合意したうえで開始します。利用するAIサービスの可否や情報の扱いは、貴社の法務・情報管理担当等に、実際の契約・設定に照らして確認していただきます。
