株式会社Global Career Incubator 代表取締役CEO 井川真一
最終更新:2026年10月29日。本文・参考資料は更新日時点の情報です。

成長に合わせて、成果をより重く見る評価制度へ変えたい。評価項目や配点を見直せば、社員も必要な仕事へ向かうのではないか。制度改定を検討する経営者や人事の方には、そうした期待もあるでしょう。
ただ、期待する成果と、本人が判断・実行できる仕事が食い違っている場合、配点を変えるだけでは矛盾が残ります。まず、成果の責任、決められること、必要な協力、使える情報を確かめてください。
評価の仕組みは、会社が誰へ何を期待するかを伝えるものでもあります。人事責任者は、評価者と本人に一つの役割を選んでもらい、目標と実際の仕事を並べるところから始めましょう。成果を厳しく見るためにも、会社が何を任せ、何を用意したのかを曖昧にしないことが重要です。
評価項目の前に、成果を生む条件を確認する
人材・組織に関する専門団体CIPDの「Performance management: An introduction」(2026年1月29日付)も、期待を本人が理解することと、必要な技能、資源、支援を得ること、仕事への責任を持つことを合わせて扱っています。
成果を求める厳しさと、成果を出す条件を整えることは、同時に考える必要があります。外部の条件に影響されるから何も評価できない、という話ではありません。本人が何へ働きかけ、どの情報を見て判断し、何を確認したかを、役割に沿って見ます。
また、同じ成果へ複数の部門が関わるなら、それぞれの責任を分けてください。協働を求めながら、相手部門の仕事を待つほど本人の評価が下がる仕組みになっていないかも確かめましょう。
仮想例:採用人数の目標は六人、正式に進められる枠は三人だった
以下はGCIが作成した仮想例です。
ある企業で、次の事業拡大に向けて、四半期に六人を採用したいという計画がありました。人事の採用担当Aさんには、その人数が目標として置かれています。
しかし、正式に募集を進める承認が出ていたのは三人分で、残る三人分は、経営側で予算と役割を確認している段階でした。募集する職務の条件や、現場の面接に使える時間も、部門によって確定の進み方が違っていました。
四半期末には二人が入社しました。会社は、成果を重視する制度へ変えるにあたり、採用人数をさらに重く評価する案を考えていました。
ここで、二人という結果だけを、六人の目標に対するAさんの成果として判定すると、正式に進められなかった枠と、実際に募集した枠での仕事が混ざります。
一方、未承認の枠があったから、Aさんの仕事を何も確かめなくてよいということでもありません。どの時点で未確定を把握し、上位者へ何を伝え、承認済みの採用で何を行ったかは、別に見る必要があります。
役割の責任を、結果までの仕事へ分ける
会社は、採用に関わる責任を次のように整理しました。
| 確認する仕事・判断 | 主に担う人 | 評価を考える前に確かめること |
|---|---|---|
| 必要な人数と募集枠の承認 | 経営と部門の責任者 | 事業上の希望と、進めることを認めた枠を分けているか |
| 職務の条件と選考の準備 | 現場の責任者と人事 | 求める役割、選ぶための情報、担当者の時間がそろうか |
| 候補者との接点と進行 | 採用担当 | 条件に沿った活動、相手への連絡、停滞の把握と相談を行ったか |
| 選考と採用条件の判断 | 定められた選考・承認の責任者 | 必要な判断を、合意した時点と範囲で行ったか |
| 全体の採用結果の確認 | 経営、現場、人事 | 人数だけでなく、進められた枠と、途中の条件を合わせて見るか |
この会社では、役割と実際の権限を確認したうえで、目標の置き方を見直すことにしました。未承認の三人分を、Aさんだけが実行できる仕事として置くのではなく、経営側が決める計画上の課題として分けます。
承認済みの三人分については、Aさんの行動と、現場が担った判断を確かめます。二人が入社したからすべて良いとも、残る一人が決まらなかったから本人の活動が悪いとも、結果だけでは決めません。
会社として六人を必要とする事情が残るなら、その不足を誰がどう判断するかも、別に扱います。評価の説明を変えただけで、必要な人が増えたことにはしないでください。
本人が動かせないことと、働きかける責任を区別する
採用担当は、募集枠の承認や候補者の入社判断を、すべて自分で決められるわけではありません。一方、条件の不一致を見つけ、関係者へ確認し、必要な変更を提案する仕事はあります。
この例では、人事責任者がAさんと、承認済みの三枠について、募集条件を確定した記録、面接を依頼した連絡、現場からの回答、候補者へ伝えた内容を並べました。残る一枠では、Aさんは合意した期限までに面接に必要な情報を渡していました。現場から日程の回答が来なかったため、回答期限を過ぎた時点で再確認し、人事責任者にも判断を求めています。現場の責任者からは、既存案件を優先し、面接の時間を割り当てられていないという回答が残っていました。
この記録なら、「入社が二人にとどまったので、採用担当の活動不足」とだけ説明することはできません。人事責任者は、必要情報を期限までに渡した行動と、回答が止まった際の相談を評価材料へ残します。同時に、現場責任者へ、次の面接枠をいつ確保するか、そのために何の仕事を調整するかを返してもらいます。
面談では、例えばこう伝えられます。
二人が入社した結果と、残る一枠であなたが行った依頼・相談を分けて見ます。この一枠は、情報を渡した後の面接枠で止まっていました。私は現場責任者と枠の確保を相談します。あなたには、候補者へ現在の状況と次に連絡する日を伝え、回答がさらに遅れる場合は私へ判断を求めてほしいと思います。
ただし、情報と面接枠がそろっていたのに本人が連絡を止めていたなら、同じ扱いにはできません。上司は、止めた理由を本人と確かめ、役割上求められていた連絡や相談を行ったかを見ます。そのうえで、次に誰へ何を伝えるかと期限を決めましょう。条件の不足を確かめることは、本人の仕事を見なくてよい理由にはなりません。
未承認の三枠についても、本人が未決であることを進捗に明記し、経営側へ判断を求めていたかを別に確認します。人事責任者は、予算と役割を誰がいつ判断するかを経営側へ求め、本人の評価記録とは分けて管理してください。こうして本人の行動、他部門の判断、経営側の未決を分ければ、人数だけでは見えなかった評価の材料と、会社が直す条件を説明できます。
協働の目標が、互いを妨げていないかを見る
人事に採用の速さを求める一方、現場には通常業務だけの目標を置き、面接や育成の時間を認めない。その状態では、現場が協力するほど、自部門の仕事が圧迫されるかもしれません。
部門間の協力を必要とする目標では、何を誰の仕事として持つかを確認してください。協力した回数を増やすだけでなく、必要な時点で条件と判断を返せたかを見ます。
共通の成果を置くことが有効な場面もありますが、それだけで個人の担当が見えるわけではありません。共有する目標と、各人が担う仕事の両方を説明できるようにしましょう。
また、採用人数を増やすために、確認すべき職務条件を曖昧にすることも避けたいところです。速さと件数だけを強く見て、会社が求める仕事との一致を後へ送っていないか、確認します。
評価で使う根拠を、普段の仕事へ置く
役割が整理できたら、何を材料に確認するかを決めます。採用の例なら、承認した枠と職務、選考の進行、未決の条件、関係者へ判断を求めた記録、入社の結果などが考えられます。
すべての連絡を評価のために細かく記録する必要はありません。通常の管理情報の中で、本人の仕事と、条件の変更を追えるものを選びます。評価の時期だけ、記憶や印象から貢献を説明する負担を減らしましょう。
そのうえで、上司と本人が途中で話します。期待と実務がずれていたなら、結果が出た後だけで評価せず、役割、目標、支援を見直す必要があります。
人事責任者は、経営側がまだ決めていない枠、本人と確認した行動、会社が用意すべき支援を分け、制度改定の会議へ持ち寄ってください。役割や権限、必要な協力が未決のままなら、新しい配点案の確定を急がず、誰が何を決めるかを先にそろえます。今回の評価に使える記録を整えることと、今後の制度を変えることを、同じ判断にしないようにしましょう。
制度の設計と、正式な変更の確認を分けて進める
役割との食い違いが見えても、会社の正式な評価や処遇を、その場で変更できるとは限りません。制度改定を担当する人事責任者は、現在の評価・処遇の規程と変更案を、社内の労務・法務担当者へ示してください。規程の変更や処遇への影響がある場合は、必要に応じて社会保険労務士や弁護士にも、手続きと社員への説明について確認します。
ここで扱っているのは、その前提として、何を期待し、何を本人の仕事として見るかを整理する考え方です。特定の配点や等級、報酬制度を一律に勧めるものではありません。
制度を選ぶ前に実際の役割を確かめれば、配点では解けない問題を改定案へ持ち込まずに済みます。正式な変更を行う場合には、社員へどう説明し、実施後の仕事の進み方と受け止め方をいつ確かめるかも人事責任者が決めてください。評価者の説明力だけへ解決を求めず、会社が置いた責任と条件も見ていきましょう。
改定案を出す前に、一つの役割をたどる
成果を厳しく見たい一方で、本人だけでは変えられない条件まで負わせたくない。評価を考える人事責任者の方には、その迷いがあると思います。まず一つの役割について、本人へ期待した成果、実際に任せた判断、会社が用意した時間や協力を、手元の目標書と仕事の記録に沿って並べてみてください。
次の上司・本人との面談では、食い違っている箇所を一つ選び、双方に同じ記録から説明してもらいましょう。記録が残っていなければ、記憶だけで理由を決めず、確かめられない点と、次から残す情報を分けます。本人へ何を求め直すかだけでなく、会社が何を決め、いつまでに支援を整えるかも返してください。
面談後、人事責任者が改定会議へ持ち込むのは、点数だけではありません。「今の役割のまま評価できること」「役割や支援を変えてから求めること」を、確認した理由とともに残します。社員に責任を求める言葉を、働ける条件とセットにしていきましょう。
GCIと、役割と評価の前提を整える
GCIの経営・組織コンサルティングでは、事業の状況と、役割・権限、人材、現場の運営を照らして課題を整理します。評価制度の改定にあたっては、期待する成果と実際の仕事を確かめ、制度が何を伝えるべきかを一緒に考えていきましょう。
期待している成果と、本人が判断・実行できる範囲が食い違う役割を、法人向け相談フォームからお聞かせください。目標や権限、必要な協力のうち、まだ決まっていない点も、そのまま相談の材料になります。経営・組織コンサルティングの案内では、役割や制度の設計を含む支援範囲をご紹介しています。
