BUSINESS JOURNAL

海外在住の専門人材を採る前に、勤務条件と手続きの確認を進める

株式会社Global Career Incubator 代表取締役CEO 井川真一

最終更新:2026年10月29日。本文・参考資料は更新日時点の情報です。

海外在住の専門人材を採る前に、勤務条件と手続きの確認を進める

必要な専門経験を持つ人が見つかった。ただ、現在は海外に住んでいる。採用企業がこの段階で確認したいのは、候補者の適合に加え、どこで、どの雇用主体のもとで、いつから仕事を始める想定かです。

採りたい人が見つかるほど、開始日を早く答えたいはずです。ただ、オンラインで働く場合も、来日する場合も、本人の予定だけでは決まらない条件があります。まず勤務する場所、雇用する会社、開始時期の希望をそろえましょう。

採用担当がすべての制度を一人で判定する必要はありません。本人と話し合う条件を整理し、人事・法務や対象国の制度を確認できる担当へ、何を判断してほしいかを具体的に渡してください。未確定の点があっても、次に誰へ何を聞くかは決められます。

海外在住と、外国籍を同じ条件として扱わない

海外に住む候補者には、日本国籍の人も、外国籍の人もいます。日本へ移る前提の人もいれば、海外に住み続けて働くことを希望する人もいるでしょう。居住地だけで、必要な手続きや就業の可否を決めつけないでください。

まずは、募集している職務の勤務地、雇用主体、勤務形態を企業側で確認します。そのうえで、候補者の希望と、仕事を始めるために必要な条件を確かめましょう。在留等の情報を扱う場合も、採用担当は、何の確認に使い、どの段階で誰が扱うかを人事担当と決めてください。

厚生労働省の公正採用選考FAQは、日本での就労資格の確認について、選考段階では口頭または書面による確認とし、在留カードによる確認は内定後とする考え方を示しています。海外から新たに入国する人など、状況が違う場合の必要資料と取得時点は、在留手続きを扱う担当へ確認します。海外在住者全員に、最初から同じ書類を求める運用にはしないでください。

外務省の就労・長期滞在に関する案内では、就労などの活動に応じた区分が示されています。専門職という呼び方だけで、全員に同じ手続きが当てはまると考えないようにしましょう。人事の在留手続き担当には、実際に行う業務と本人の状況を渡し、個別の要件を確認できる専門家等へつないでもらいましょう。

「一か月後に働ける」の意味が違っていた

以下はGCIが作成した仮想例です。

日本の企業が、海外在住のソフトウェア専門職Aさんを選考しています。求人は、日本の会社が雇用し、国内拠点で働く前提です。採用責任者は、顧客案件の準備に間に合わせたいと考えています。

Aさんは「一か月後なら仕事を始める調整ができそうです」と話しました。採用担当は、来日して勤務を始められる意味だと受け止めました。しかし、Aさんが考えていたのは、現職の退職について調整した後、現在の居住国からオンラインで働き始める形でした。

会社側では、海外から勤務する場合の労務、税務、情報へのアクセスなどをまだ確認していません。来日する場合の手続きと時期も未確認です。専門経験への評価が高くても、「一か月後に開始」という条件は、まだ双方でそろっていません。

ここで、候補者が約束を変えたと考える前に、働く場所と開始の意味を確かめ直しましょう。一方、会社側が未確認のまま、海外からの勤務を認めたことにするのも避ける必要があります。

国内勤務を必須とするか、海外勤務も検討するか

採用担当は、この案件の記録を「求人は国内勤務、日本の会社が雇用。本人の一か月後は海外からの開始希望。海外勤務の承認と来日時期は未確定」と書き直します。開始希望日を一つ書くだけでは、双方の違いが消えてしまいます。

次に現場責任者へ、国内勤務を必須とする理由を確かめます。国内拠点でしか扱えない業務が最初の任務なら、国内で担当できる時期の確認を先に進めるべきでしょう。海外から働く案を急いで調べても、任せる仕事がなければ、顧客案件を進める答えにはならないからです。国内勤務の条件を本人へ伝え、移動の希望を聞きます。人事担当は本人の状況から必要な手続きを整理し、在留に関する確認が要る場合は、その担当へつなぎます。

一方、現場責任者が海外から担当できる仕事を切り出せるなら、人事責任者に、海外勤務案も検討するかを決めてもらいます。検討する場合は、勤務する国、雇用主体、業務内容をそろえ、勤務国の労務を扱う担当・専門家と、税務を確認する担当へ照会します。情報管理担当には、使う情報、会社の機器、アクセス方法を確認してもらい、現場責任者は時差や連絡時間を含む働き方を整理してください。来日までの一時的な勤務であっても、日本の会社と契約するという理由だけで、この確認を省かないことが重要です。

企業が手続きを支援する範囲、本人が準備すること、費用と責任も、人事担当が取りまとめます。照会する人と、勤務を承認する人は同じとは限りません。採用担当は回答を集めた後、残った条件とともに正式な判断者へ渡し、会社が承認した範囲を記録します。依頼を送った時点で、海外勤務を認めたことにはしないでください。

「確認中」を、担当への依頼と本人への説明にする

同じ案件で、木曜日を候補者への次の連絡日にできるなら、採用担当は人事責任者へ次のように依頼できます。

国内勤務の求人ですが、本人は一か月後に現在の居住国から始める希望です。現場責任者には、国内勤務が必須か、海外から担当できる仕事があるかを確認します。海外勤務も検討する場合に備え、労務・税務・情報管理の照会を引き受ける担当を決めてください。水曜日までに、担当者、追加で必要な情報、次に状況を更新できる日を教えていただきたいです。木曜日には、分かったことと残る確認を本人へ伝えます。

ここで水曜日に求めているのは、すべての専門判断の完了ではありません。誰が何を調べるかと、次に進捗が分かる時期です。採用担当は、送付日、引き受けた担当、追加資料、次の回答予定を記録し、まだ返事がない欄を確認済みにしないようにしましょう。

本人への説明も、会社側の受け止めを修正するところから始めます。

一か月後というお話を、当社は来日後の勤務開始と受け止めていました。現在の居住国から始めたいというご希望との違いを、確認させてください。求人は国内勤務を前提としており、海外勤務はまだ承認されていません。国内勤務の開始条件と、海外勤務も検討できるかを社内で整理し、木曜日までに状況をご連絡します。

採用担当者の方は、説明の行き違いを訂正することまで候補者に任せないでください。本人が何を希望し、会社が何を確認するかをそろえれば、開始日をまだ答えられなくても、次の会話を具体的にできます。実際に連絡した後で、伝えた内容と本人の返答、次回連絡日を記録します。

開始日は、本人が調整できることと審査を分けて考える

候補者は退職や移動の希望を説明できますが、在留などの審査を伴う場合、その結果や完了時期まで、自分の意思だけで約束できるとは限りません。会社側も、事業上の希望日と、確認済みの開始条件を分けて扱いましょう。

外務省の査証に関するFAQは、在留資格認定証明書が査証の発給を保証するものではないと説明しています。書類の準備や交付の一段階が済んだことから、就業開始までの条件がすべて整ったと考えないことが重要です。

採用担当は、在留手続きを扱う人事担当に必要な手続きと照会先を整理してもらい、何が完了し、何が残り、次の情報がいつ分かるかを確認します。一律の所要日数を候補者へ約束したり、過去の別人の例から今回も同じ日程だと決めたりしないでください。

具体的な雇用条件や開始日の定め方、手続きが予定どおり進まない場合の扱いは、人事・法務等の確認を受け、書面の条件とも整合させましょう。曖昧な口頭の期待だけを残さないことが大切です。

事業側には、採用と開始の未確定を正確に伝える

顧客案件や開発計画に必要な人材ほど、現場は開始日を早く知りたいはずです。それでも、未確定の日を確約して計画へ入れると、候補者へ無理な対応を求めることになりかねません。

採用担当は、本人への説明と同じ状況を、現場にも返してください。先ほどの案件なら、「専門経験の選考は進めていますが、一か月後に案件を任せられるとは確定していません。国内勤務の開始条件と海外勤務案の検討可否を整理し、木曜日に状況を更新します」と説明できます。採りたい人が見つかったことと、仕事を始められる条件が整ったことを一つにしないことが重要です。

希望日までに整わない可能性があるなら、現場側も、既存担当での対応、対象業務の調整、計画の見直しなどを検討します。必要な確認を候補者の努力だけで短縮させる前提にしないようにしましょう。

確認する情報は、必要な担当者へ必要な範囲で渡す

手続きのために情報が必要な場合も、選考の関係者全員がすべてを見る必要はありません。取得する目的、保管する場所、共有する担当、削除等の扱いを会社側で定めてください。

本人の家族や生活の事情を、職務適性の評価へ広げることも避けましょう。移動や勤務の希望を確かめる際は、仕事上必要な条件を聞く形にし、不要な私生活の情報まで求めないことが大切です。個別に必要な手続き上の情報は、適切な担当者が目的を説明して扱います。

勤務地の条件を変えたら、依頼先も変わるか

採用担当者の方は、いま担当している一件について、候補者へ返す説明を短く書いてみてください。その後、最初の仕事が「国内拠点でしか扱えない」から「海外からも担当できる」へ変わったとして、答え直してみましょう。開始希望日や本人の専門経験は変えません。

この変更で進められるのは、人事責任者へ海外勤務案の検討を求めることです。業務を遠隔で行えるという事実だけでは、勤務国の労務・税務や情報アクセスの条件まで整いません。「海外から始められます」と答えが飛んでいないかを確かめてください。一方、元の国内勤務の条件がなぜ必要かを誰も説明できないなら、候補者へ書類を求める前に、現場責任者が任務を整理する必要があります。

二つの説明を比べ、変わった判断と、その判断に必要な情報を一つずつ挙げてみましょう。必要な確認先を言えない箇所があれば、人事責任者にその担当を決めてもらうことが、次の仕事です。採用担当が制度の答えを抱え込まず、専門家へ渡せる問いを作るところまで進めてください。

職務と勤務条件の、どこが未確定かを相談する

GCIの人材紹介へご相談いただく際も、必要な専門経験と、勤務場所・雇用主体・開始時期の想定を合わせて整理していきましょう。個別の在留・労務・税務などの判断は、適切な専門担当へ確認する事項として分ける必要があります。

企業の採用担当者の方は、採用したい職務と、勤務する場所・雇用主体・開始時期のうち未確定の条件を、企業向け相談フォームからお知らせください。旅券や個人の申請資料を先に送らず、必要な確認と共有する範囲を整えるところから進めましょう。

参考にした公的資料の確認日:2026年10月28日。外務省は活動等による区分と認定証明書・査証の関係、厚生労働省は採用時の情報確認の方法を参照しています。