執筆者:株式会社Global Career Incubator 代表取締役CEO 井川真一
最終更新:2026年10月29日。本文・参考資料は更新日時点の情報です。

部署の新設や再編を検討するときは、顧客への提供が完了するまでに、誰が何を受け取り、何を決め、次へ渡すのかを確かめてください。そのつながりを説明できてから、仕事をどの部署へまとめるかを考えましょう。
人事の方が各部長の要望を聞き、人員配置と管理職の負担を調整しながら再編案をまとめるには、相当な労力がかかると思います。経営者の方も、今の分担では成長に対応しきれないと感じ、変えるなら早く決めたいはずです。ただ、所属と上司を決めても、前の部署から何を受け取れば着手できるのかが曖昧なままでは、担当者は異動後も確認のために社内を回ることになります。
再編に向けて集めた情報を、顧客の仕事が進む順番に並べ直してみましょう。各部門が努力しているのに提供がつながらないなら、その間を埋める役割を会社として決める必要があります。担当・承認・協力・例外対応を具体化すると、既存の分担を直せば足りるのか、継続して仕事を引き受ける部署が要るのかを、根拠を持って比べられます。
顧客へ何を渡せば、提供を終えたと言えるか
組織図の見直しを始める経営者には、まず、対象の事業で顧客に約束している状態を一文にしていただきたいと思います。商品を届ければ完了なのか、設置して使える状態にするところまで含むのか。その違いによって、必要な仕事と責任の範囲が変わるからです。
売上を伸ばす方針に合わせて、提供範囲を広げている会社もあるでしょう。以前は各部署が自分の工程を終えれば済んでいたとしても、今の約束には、複数の工程をつないで最後まで確かめる仕事が含まれているかもしれません。新しい約束を、以前の分担の隙間で担当者に支えてもらい続けていないか。経営側から確かめてください。
人事や事業責任者は、実際の顧客案件を一件選び、見積もり、合意した仕様、作業指示、引渡し記録を仕事の順に並べてみましょう。各部署の業務一覧だけでは、資料を渡された側が何に困ったかまでは分かりません。受け手に、届いた情報で次の作業を始められたか、始められなかったなら何を聞き直したかを尋ねることが重要です。
ISO 9001:2015のプロセスアプローチを説明するISO文書でも、工程の入力・出力に加え、工程間のつながりや境界、責任と権限を明らかにすることが挙げられています[1]。この考え方を組織図の見直しに使うなら、線で結ばれた部署名の間に、実際に何が渡るのかを書き込んでください。
「営業から納入へ引き継ぐ」では、まだ広すぎます。顧客が合意した仕様、現地の条件、変更中の事項のうち、どれが揃えば納入側は手配できるのか。ここまで具体化すると、連携不足という言葉に隠れていた仕事が見えてきます。
受け渡すものから、四つの役割を決める
私は、経営者と人事の方に、仕事の境目を一行ずつ記録する「受け渡し設計シート」を提案します。部署を行に並べるのではなく、顧客条件の確定、作業準備、提供、引渡しと、その後の対応へ進む順番で書く道具です。
| 一行に残すもの | 確かめる内容 |
|---|---|
| 次に進める仕事 | 誰が、何を判断・実行できる状態になればよいか。顧客との約束のどこにつながるか。 |
| 渡すものと受取条件 | 資料や現物の内容、確定した版、必要な確認。受け手が不足を返す相手も書く。 |
| 担当と承認 | 渡すものをつくる人と、その内容の何を認める人か。単に「部長承認」と書かない。 |
| 協力 | 誰から、何の情報・専門判断・作業を、いつまでに受け取るか。 |
| 例外対応 | どの条件が外れたら、誰がどの工程へ戻し、何の変更を判断するか。 |
| 引き受ける時間と期限 | 作成・確認・修正に必要な作業枠、受け渡す期限、既存業務から振り替える仕事。時間の配分を決める人も残す。 |
| 受け渡しの確認 | 受け手、必要な時点、実際に受け取った内容と残る事項。送信した日だけで完了にしない。 |
担当には、成果物をつくり、不足を埋めて渡す責任を置きます。承認には、価格、仕様の妥当性、提供可能性など、判断する対象を付けてください。協力は、相談に参加するだけではなく、次の仕事に必要な情報や専門確認を返す役割です。例外対応には、条件が変わったときに元の計画をそのまま進めてよいかを判断する役割を置きます。
一人が複数の役割を担うこともあります。ただし、その人がいれば何とかなるという分担に戻さないようにしましょう。何の資料を見てどこまで決められるか、時間をどこから確保するかを、部門長と確認してください。担当者の名前を書いたことと、その仕事を引き受けられることは別です。
承認者が二人いる場合も、人数だけで重複と決めないでください。一人が顧客との約束を判断し、もう一人が技術上の成立を確かめているなら、二つの確認には異なる目的があります。同じ判断を二度している部分と、欠かせない別の確認を見分けてから、承認手順を変えていきましょう。
仮想ケースへ進む前に、いま検討している再編から実際の顧客案件を一件だけ選び、現在の再編理由を短く残してください。どの受け渡しが止まり、新部署へ移すと考えている仕事は何か、既存部署へ残す仕事は何かを、見積もり、合意済みの仕様、作業指示、引渡し記録など、いま手元にある同じ記録だけで書きます。次に、その同じ一件を上の受け渡し設計シートへ置き、受取条件、担当と承認、例外対応、必要な時間を確かめたうえで、同じ再編理由を書き直してください。最初の説明と並べ、部署を増やすこと自体が理由になっていた箇所が、どの仕事を移すか、あるいは既存分担を直せば足りるかという判断へ変わったかを確認してから、以下の例へ進みます。まだ確認していない件数や工数、後段で扱う数量・日程の変更を、この最初の比較の根拠に足さないでください。
仮想ケース:40席を引き渡すまでの仕事が、組織図ではつながらない
以下はGCIが作成した仮想例です。
法人向けのオフィス家具会社が、家具単品の販売から、レイアウト、納入、設置までをまとめて引き受ける方針を立てたとします。現在の部署は営業部、空間設計部、納入部、サポート部です。それぞれに部長と担当者がおり、事業担当役員が部門間の仕事の優先順位と費用配分を判断します。人事責任者は、経営者から再編案の整理を求められています。
営業部長は価格と顧客への約束、空間設計部長は図面の専門確認、納入部長は商品と作業枠、サポート部長は引渡し後の対応を所管しています。組織図には必要そうな部署が揃っています。ところが、顧客へ提供する過程を追うと、次の状態がありました。
| 一件の案件で分かっていること | 現在の記録・手順 |
|---|---|
| 顧客との約束 | 8営業日後に、承認済みの配置図第2版に沿って40席の家具を設置し、引き渡す契約。顧客側には配置変更と引渡しを承認する担当者が決まっている。 |
| 変更要望 | 顧客は40席のうち6席の配置変更を希望。設計担当者が第3版案をつくったが、顧客の承認はまだない。数量と希望日は変わっていない。 |
| 現地と手配 | 営業担当者のメールには、建物への搬入は9〜12時に限られるとある。納入部の計画は終日の搬入を前提とし、第2版に基づく商品と作業枠を確保している。 |
| 日付の承認 | 顧客へ回答する納入日の欄には、営業部長と納入部長の両方が押印する。各人が何を確かめたかは記録されていない。 |
| 提供の終え方 | 現行手順では、納入部の搬入完了の記録で営業案件を完了扱いにする。サポート部へ渡す情報は商品型番と顧客連絡先で、配置の照合、未完了事項、顧客の引渡し確認をまとめる担当と受取条件は決まっていない。 |
第2版・第3版のどちらも、午前中の搬入条件で契約期限に間に合うかは未確認です。9〜12時という制約は搬入の時間であり、設置や引渡しも正午までに終えるという意味ではありません。変更に伴う費用と作業量、担当者が調整に使える時間、同種案件の継続的な量も、まだ確認していません。
この状態で経営会議に出ているのが、「プロジェクト推進部を新設し、各部の連絡を集約する」という案です。新部署の人員、権限、具体的な仕事の移管は未決定とします。
新部署へ連絡を集める案に、何が足りないか
改善前の再編案は、次のように説明できます。
営業、設計、納入、サポートの間をプロジェクト推進部が調整する。各部の連絡先を一本化し、案件の進捗を確認する。専門業務は今の部署に残す。
担当者を揃えれば、連絡先を探す手間を減らせる可能性はあります。忙しい部門間の調整を誰かに引き受けてもらいたいという要望も、理解できます。
ただ、この案のままでは、推進部は第2版と第3版のどちらを納入部へ渡すのでしょうか。搬入時間を計画へ反映する人、実行可能性を確かめる人、未完了のまま残った仕事を持ち続ける人も決まっていません。連絡を受け取る部署を増やしても、受け取った後の判断が決まらなければ、確認の往復が一段増えるおそれがあります。
人事の方が組織図を何度描き直しても、この空欄は埋まりません。経営者と事業担当役員には、新部署の名前を求める前に、何を受け取り、何を完成させる責任を持たせるのかを、関係部門と決めていただきたいと思います。
同じ資料で、顧客までつながる分担案に直す
まず、現在の四部門に、足りていない受け渡しを割り当てる案を具体化します。その仕事を新部署へまとめる案にも同じ役割を置き、どちらなら提供をつなげられるかを比べていきましょう。
まず、正式な指示と検討中の案を分ける
最初に営業担当者がまとめるのは、契約上の第2版、顧客が求めた変更、第3版が未承認であること、搬入時間の四点です。営業部長から設計と納入の両部長へ、この情報を基にした確認を依頼する案です。設計には変更の影響を、納入には両方の版について午前搬入で成立する工程を確かめてもらいます。
第3版は、検討用として渡すことはできます。ただし、正式な作業指示として扱うには、設計上の確認、費用と工程への影響、顧客が変更条件に合意した記録が必要です。営業担当者は、最新のファイルだからという理由で、第2版を置き換えてはいけません。
一方、第3版が難しければ第2版へ戻せばよい、とも決められません。第2版の手配も終日搬入を前提にしています。確保済みの作業枠を、そのまま実行可能性の証明として扱わないことが重要です。
この段階で納入部長が引き受けるのは、未確認の条件に左右される出荷・搬入指示を確定させないことです。納入担当に保留する対象を伝え、既に指示を渡していれば、その受け手にも保留が届いたことを確かめる役割を置きます。確保済みの商品や作業枠を直ちに取り消すという意味ではありません。納入部長は、保持・変更にかかる費用と変更できる期限を確かめ、配分の判断が必要なら事業担当役員へ上げます。
受け渡しの四行を、役割と結びつける
この案件の分担案を、仕事の順に並べると次のようになります。各部長は、部内で誰が実作業を担うかまで決めてください。
| 仕事のつながり | 渡すもの・受け取れる条件 | 担当・承認・協力の案 |
|---|---|---|
| 顧客条件から設計・納入の検討へ | 契約の範囲、承認済み図面、変更要望、搬入条件を分けた案件記録。設計と納入が同じ前提で影響を調べられること。 | 営業担当が作成。営業部長が顧客との合意内容を確認。設計・納入の担当は不足条件を具体的に返す。 |
| 設計・納入の検討から正式な作業指示へ | 使用する図面の版、商品、搬入・設置の工程、変更費用、顧客合意が揃った指示。変更が未合意なら確定扱いにしない。 | 設計担当が図面を、納入担当が工程を作成し、各部長が専門領域の成立を確認する。営業部長は顧客への回答条件を承認する。営業担当は顧客合意を得て、確定版と確認記録を納入部へ発行する。 |
| 現地作業から引渡し確認へ | 承認された図面との配置照合、数量、未完了事項とその影響。搬入済みという記録だけでは引渡し完了にしない。 | 納入担当が作業結果を記録し、納入部長が内容を確認。図面との不一致は設計が確認に協力。営業担当が顧客の承認担当者へ確認を求める。 |
| 引渡し確認からサポートへ | 顧客が確認した範囲、実際の配置、残る仕事、その担当・回答予定をまとめた記録。問い合わせ対応担当者を移す前に、サポートが必要な内容を受け取れること。 | 営業担当が記録をまとめ、営業部長が契約との整合を確認。サポート担当が受け取り、サポート部長が内容の充足を確認。不足は営業へ返し、残る作業の担当は引継ぎ前後とも記録する。 |
指示を切り替え、作業を再開する
正式な指示を受け取った納入担当は、使用する図面と工程が揃っているかを確かめます。既に旧指示を渡している場合は、手元と作業先で差し替えたことを納入部長へ返す役割です。納入部長は、必要な確認と、旧指示があればその切替も揃ってから、保留していた仕事の開始を認めます。営業が送信しただけで、現場も切り替わったと扱わないようにしてください。
問い合わせ対応を移し、残る作業を持ち続ける
最後の行を設けるのは、サポートへ連絡しただけで、残る仕事を誰も持たなくなることを避けるためです。サポート側の受取りが成立するまでは営業が問い合わせ対応を担い、成立後は営業担当が顧客へ担当者の変更を知らせる案です。納入側の手直しが残るなら、その実作業は納入側に残します。サポートが問い合わせ対応を引き受けることと、修正作業そのものを引き受けることを分けてください。
案件を閉じる条件と、担当する時間を決める
営業案件の完了を認めるのは、営業部長の役割に置きます。契約で必要な配置・数量と顧客の引渡し確認が揃い、サポートへの受渡しも成立したことを確認する条件です。契約上必要な仕事が残っていれば、サポートへ情報を渡しても案件を完了扱いにしません。顧客が一部だけを確認した状態と、契約全体の完了を区別しましょう。
この案では、営業担当者に案件記録を突き合わせる役割を置きます。ただし、配置の妥当性や納入の成立を、その担当者だけに判断させることはありません。営業部長は、記録をまとめる時間を見積もり、現在の仕事の何を振り替えるかを事業担当役員と決める必要があります。時間を確保できなければ、この割当て案はそのまま採用できません。
部門の間をつなぐ仕事を見つけられたことには意味があります。その仕事を、気づいた人の善意へ追加するところで終えないでください。
承認の重複と、条件が変わったときの戻り先を明らかにする
納入日の二つの押印は、確認内容が分からないため、不要な重複だったとは断定できません。改善案では、営業部長は「顧客へどの条件を約束するか」、納入部長は「その条件で搬入・設置を実行できるか」と、承認の対象を分けます。
もし両部長が同じ日付の転記だけを確認していたなら、同じ確認を二度行う手順は整理できます。ただし、その代わりに必要なのは、納入部の実行可能性を確かめた回答を、営業の約束の前に渡すことです。押印を一つ減らすことだけを改善にしないでください。
6席の変更で工程や費用が変わるなら、設計担当者は図面を直して終わりにせず、納入担当へ影響確認を戻します。契約期限と他案件の作業枠が両立しない場合は、納入部長が選択肢と影響を事業担当役員へ上げ、役員が社内の配分を判断します。その判断を受けて営業部長が顧客へ提示する条件を決め、営業担当者が合意を取り直します。社内で優先順位を変えても、顧客との約束まで変わったことにはなりません。
この案件なら、事業担当役員は次の確認を、たとえば翌営業日の正午に置く案が考えられます。設計部長は変更の影響、納入部長は両方の版と午前搬入の条件を照合し、工程と費用の見込みを返します。回答にまだ時間が要る部分は、理由と次に返せる時点を示してください。営業部長はその内容から顧客への説明を決め、営業担当者が現状と次の回答予定を伝えます。
第3版でも9〜12時の搬入と8営業日後の設置・引渡しを両立できると確認できたなら、営業部長は追加費用や条件を含め、変更案を顧客へ提示する判断へ進めます。営業担当者は承認する担当者へ図面と条件をそろえて送り、合意を得た範囲を正式な指示として発行します。納入部長はその受取りと切替を確かめて、対象の作業を再開させます。
第3版は間に合わず、第2版なら契約期限を守れると分かった場合は、営業部長が、期限を優先して第2版で進める案と、6席の変更を含めて日程を相談する案を用意します。どちらを優先するかを顧客と確かめ、合意した版と日程に沿って指示を確定します。第3版が難しいという理由だけで、変更要望への返答をせずに第2版を進めることは避けてください。
いずれの案も契約期限に間に合わない見通しなら、役員と営業部長は、日程や提供範囲を変える選択肢を準備し、早い段階で顧客との協議を引き受けてください。担当者に連絡を急がせるだけでは、選べる案は増えません。
確認結果が変われば、選ぶ図面や日程も変わります。営業と納入は、採用した案、選ばなかった案、その理由を同じ案件記録へ残してください。次の担当者が、最新の図面だけを見て、顧客との約束や保留の理由を失わないようにするためです。
どこまで整えば、新設・再編を選べるか
仕事の受け渡しが見えると、組織を変える必要がない案件も、変えなければ続けられない案件も、具体的に検討できます。ガルブレイスの組織設計に関する論考は、部門間をつなぐ方法として、日常の関係づくりから正式なチーム、複数の管理軸を持つ仕組みまでを挙げています[2]。つなぐ仕事があるからといって、その形を新部署一つに固定する必要はありません。
経営者と人事の方は、受け渡しの不備を確かめた後、次の条件で案を比べてみてください。これは本稿で提案する選び方です。
| 確かめられた状態 | 検討する形と、採用前に決めること |
|---|---|
| 渡す資料、版、受取条件を揃えれば、既存担当の仕事としてつながる | 既存部署の分担と手順を修正する。担当時間を確保し、誰が不足を返すかまで定める。 |
| 専門業務は各部に残す方がよいが、案件ごとの横断調整が繰り返し必要 | 部門をまたぐ案件責任者やチームを検討する。案件全体の確認、専門判断、資源配分の権限を分け、兼務の時間を確保する。 |
| 一体で提供する仕事が継続的にあり、人員・予算・案件の優先順位を同じ責任の下で扱う必要がある | 専門部署の新設や既存部署の再編を検討する。移す仕事・権限・人員と、元の部署に残す仕事を特定し、新たにできる境目の受渡しも設計する。 |
新部署案にも、同じ四つの受け渡しを置く
今回の40席の案件で比べる仕事は、顧客条件をまとめること、正式な作業指示を発行すること、引渡し確認をまとめること、サポートが受け取れる記録を渡すことです。既存分担案では、営業担当がこの四つをつなぎ、設計・納入・サポートがそれぞれの専門判断と実作業を返します。営業部長は、案件記録の作成・更新・確認に必要な時間と、営業担当から振り替える元の仕事を役員へ示してください。
新部署案では、この四つをつなぐ担当をプロジェクト推進部へ移す形まで具体化します。営業は顧客との合意を取り、設計と納入は専門上の成立を確認する。その回答を新部署の案件担当がそろえ、確定版を発行し、引渡しとサポートへの受取りまで追う案です。顧客への約束を承認する営業部長、配置を確かめる設計部長、実作業を判断する納入部長の役割は、この案でも残します。
人事は両案に同じ四つの仕事を書き、記録を作る時間、専門判断を返す時間、元の仕事の引継ぎ時間を並べます。新部署案には、営業から顧客条件を引き継ぎ、回答を戻す時間も含めてください。営業が同じ記録を引き続き作り、新部署も作り直すなら、仕事を移したことにはなりません。どちらの案でも、受け手が何を確認したら受け渡し完了とするかまでそろえて比較します。
確認した結果から、会社が採る形を決める
四つの受け渡しを整え、営業担当の時間を確保すれば、次の工程が迷わず着手できると分かった場合は、役員は既存分担の修正を選べます。人事は担当職務と役割説明を更新し、各部長が実際に使う資料・承認経路へ反映します。今回の不備が、情報の版と受取条件で直るからです。新部署をつくること自体を目標にせず、直った受け渡しを次の案件でも維持できるかを見ます。
専門判断は各部に置けても、複数案件の状況を追う仕事が毎回営業担当の枠を超えるなら、横断する案件責任者やチームを選ぶ理由になります。役員はその担当の時間を確保し、調整できる範囲と、予算・優先順位の判断を役員へ戻す条件を決めます。人事は元の担当業務を引き継ぐ相手と開始日まで合わせ、名目だけの兼務を増やさないようにしてください。
さらに、案件をまたいだ優先順位、人員、費用の配分を一体で決める仕事が継続し、役員へ戻すたびに提供が止まると記録から分かった場合は、新設・再編の案へ進みます。役員は新部署へ移す仕事と決定権を明示し、人事と各部長が人員・元業務の引継ぎをそろえます。専門部門へ残す確認と、新部署が決められる範囲を受け渡し設計シートにも反映してください。連絡の集約に加え、継続して必要な配分判断を担わせることが、この案を選ぶ理由です。
現時点では、同種案件の継続的な件数と、調整に必要な時間を確認できていないため、新設の採否までは決められません。そこで役員は、今回の40席を担当する四部門の確認作業と時間を先に決め、人事には同種案件の記録から上の三つのどこに当たるかを示してもらいます。既に十分な記録があり、兼務では継続できないと分かっているなら、追加の試行を待たず、新設案の仕事・権限・人員を具体化して採否を決めましょう。
一方、受け渡しも判断者も明確なのに、着手できる仕事が積み上がっているなら、作業量と使える時間を確かめる段階です。その状態を、部署名を変えるだけで解消できるとは考えないでください。必要なのが仕事の配分や処理能力なら、その不足を経営側で引き受ける必要があります。
人事は、現場の記録を基に役割の違いを整理し、決まった分担を職務、評価、所属や報告先へ反映する役割を担いましょう。どの顧客への提供を優先し、どの予算と人員を動かすかは、経営者と事業責任者が判断することです。人事だけで部門間の利害まで収めようとせず、選択肢と影響を、経営が決められる形にしてください。
新しい組織図を示す際は、受け渡し設計シートや役割の説明を添え、どの仕事を移し、そのための権限と時間をどう確保するかも伝えてください。ここまで考えて初めて、新部署へ何を移すかを、所属する社員にも説明できます。
再編案を見せる前に、一件の仕事を受け渡してみる
ご自身の会社で確かめるときは、人事か事業責任者が進行役となり、実際に仕事を渡した人と受け取った人に、一件の資料を持ち寄ってもらいましょう。管理職に加え、その資料を使って作業した担当者にも参加してもらうことが重要です。
参加者は、最初は組織図を脇に置いてください。渡した側は、相手に何を始めてもらうつもりだったかを説明し、受け取った側は、その資料だけで実際に始められたことと、聞き直したことを答えます。進行役は、その食い違いを受け渡し設計シートへ記録してください。「普通は分かるはず」という説明では、次の担当者にも同じ負担が残ります。
次に、その案件で起こり得る変更を一つ置いてみましょう。顧客が数量や日程を変えたら、誰がどの資料を更新し、誰の判断が必要になるか。既に渡した指示を誰が止め、受け手は何を確認して再開するかまで追ってください。ここで止まった箇所は、個人の対応力を試す問題として扱わず、役割や条件の空欄として直すことができます。
人事と事業責任者は、修正したシートを現在の組織図、検討中の再編案と照合してみましょう。新部署へ移すと決めた仕事が、どの受け渡しを成立させるのか。元の部署に残した承認が、同じ判断をもう一度求めていないか。空欄が別の部署へ移っただけなら、再編案へ戻って修正してください。
受け渡しを試した後は、受け手が必要な情報と判断を得て着手できたか、変更が関係する工程へ戻ったか、未完了の仕事を誰が持つかを、実際の記録で確かめます。資料を直したことで着手できたなら、その受取条件を次の案件へ使います。必要な回答は返ったのに手が空かなかったなら、資料の項目をさらに増やさず、事業責任者へ作業の配分を戻してください。
新しく担った人の時間と、元の仕事への影響も残します。その人が既存業務を後回しにして何とかつないでいたなら、分担案をそのまま定着させる前に、役員が時間の振替か担当の変更を決める必要があります。人事は、確認できた結果と残る負担を再編案へ反映し、どの仕事を移すと判断が前へ進むかを説明しましょう。
現場がこれまで補ってきた仕事を言葉にできれば、その努力を会社の役割として引き受ける一歩になります。経営者の皆さんには、人事へ次の組織図を求める際に、顧客への提供がどこでつながるようになるかも説明してもらい、そのための権限と時間を一緒に決めていただきたいと思います。
再編案と、顧客への提供過程を照らし合わせたい方へ
新しい部署へ仕事をまとめたいものの、専門判断をどこへ残すか、誰が案件全体を見届けるかが定まらない。その段階なら、現在の組織図と、実際の一件で使った資料を手掛かりに、相談する論点を整理できます。完成した再編案を用意する必要はありません。
私たちGCIの経営・組織コンサルティングでは、事業の方針と、役割・権限・組織構造・日々の運営を照合し、必要な設計と合意した範囲での実行・改善を支援します。顧客自身が判断と運営を続けられる状態を目指す考え方です[3]。初回相談では課題と進め方を伺い、調査・分析・報告を伴う診断は、対象・成果物・費用を合意してから開始します。
お問い合わせには、「新設・再編で変えたいこと」と「顧客への提供で、今つながっていない仕事」をお書きください。専門判断を残す場所と、まとめて引き受ける仕事のどこで迷っているかも伺い、比較する案と支援の進め方を整理します。
組織の新設・再編について相談する
参考資料
[1]ISO/TC 176/SC 2 The Process Approach in ISO 9001:2015、付録Aの工程の順序・相互作用、責任・権限、工程内の活動に関する項目(PDF 4〜5頁)。
[2]Jay R. Galbraith The Future of Organization Design、Journal of Organization Design, 1(1), 2012, pp. 3–6。「Coordination Mechanisms」を参照。
[3]株式会社Global Career Incubator FY31中期経営戦略。
資料の確認日は2026年10月28日です。
