BUSINESS JOURNAL

日本法人が少人数から拡大するとき、役職を増やす前に機能を分ける

株式会社Global Career Incubator 代表取締役CEO 井川真一

最終更新:2026年10月29日。本文・参考資料は更新日時点の情報です。

日本法人が少人数から拡大するとき、役職を増やす前に機能を分ける

日本事業が伸び、営業、技術、顧客支援の人数が増えてきた。日本責任者は、個別の相談や部門間の調整に追われ、「そろそろ各部門にマネージャーが必要だ」と感じている。立ち上げ期から引き受けてきた仕事を、次の人へ渡したい。そう考えるのは自然です。ただ、役職を作るだけでは、判断が前へ進まない場合があります。

特に、海外本社の営業、技術、顧客支援へ、それぞれ報告する体制では注意が必要です。日本に新しいマネージャーを置いても、仕事の優先順位を変える権限が海外に残っていれば、その人が調整先を一つ増やすだけになるかもしれません。

役職の数を決める前に、日本で常設すべき管理機能と、地域の職能責任者に残す配分・評価の判断を分けてみましょう。ここでいう「機能」は、社員の育成、顧客案件の部門間調整、国をまたぐ人の配分のように、組織が継続して担う仕事です。日本で日常的に引き受ける管理機能と、地域側が最終判断する事項、その二つをつなぐ情報と返答の流れをそろえれば、管理職を置く範囲を具体化できます。

日本の事業責任と、人を動かす権限は一致しているか

日本責任者が売上や顧客への提供に責任を持っていても、日本にいる全社員の業務を自由に割り当てられるとは限りません。技術者が地域の技術部門へ、顧客支援担当が別の地域部門へ報告し、他国も含めた優先順位で動く体制もあります。

このとき、日本側の依頼を、日本の案件だからという理由だけで最優先にすることはできません。一方、日本責任者に事業目標だけを持たせ、必要な人の確保を毎回の説得に委ねても、計画を立てにくくなります。

まず、現在の組織図へ、所属だけでなく、次の判断がどこにあるかを書き加えてください。顧客への約束、専門的な可否、担当者の作業配分、評価と育成、採用する職務。この判断が、同じ上司に集まっているとは限りません。

書き加えた組織図は、そのまま初回版として保存してください。誰が最終判断するか分からない箇所は「未確認」とし、この時点では新しいマネージャー名で埋めません。後半で、同じ組織図へ日本に常設する管理機能と地域に残す判断を追記します。

報告先が複数あること自体を、悪い設計と決める必要はありません。専門性や各国の仕事を一緒に見る利点もあるでしょう。ただし、判断が衝突したときに、誰と誰が何を比べて決めるかは、会社として用意する必要があります。

仮想例:六人から十四人へ増えたが、優先順位は海外が決める

以下はGCIが作成した仮想例です。

海外企業の日本拠点は、日本責任者一人、営業三人、技術一人、顧客支援一人の六人で始まりました。その後、日本責任者一人、営業六人、技術四人、顧客支援三人の十四人へ拡大しました。人事・経理の専門業務は、本社側の担当が支援しています。

営業、技術、顧客支援の正式な報告先は、それぞれ地域の職能責任者です。日本責任者は日本の事業計画をまとめますが、技術者や顧客支援担当の作業配分、各人の最終評価を単独で決める権限は持っていません。

少人数のときは、日本責任者が直接担当者へ相談し、必要に応じて海外の上司へ連絡することで仕事を進めていました。ところが人数と案件が増え、日本責任者の予定は、優先順位の確認や、上司間の調整で埋まるようになりました。

そこで「営業、技術、顧客支援に日本のマネージャーを一人ずつ置く」という案が出ました。新しく三人を採用するか、既存社員を任命するかは未決定です。各マネージャーへ渡す権限も、まだ決まっていません。

ここで、役職を三つ作る承認へ進む前に、何が日本責任者の仕事を増やしているかを確かめたいところです。

同じ「調整」の中に、違う仕事が混ざっていた

最近の仕事を確認すると、日本責任者が担っていた相談には、三つの種類がありました。

一つ目は、営業担当の商談準備や、経験の浅い人への助言です。これは継続的な育成と仕事の確認であり、誰かが時間を確保して引き受ける必要があります。

二つ目は、営業、技術、顧客支援が一つの顧客案件で必要とする作業をそろえることです。担当者と情報の受け渡しを決めれば、日本のチーム内で進められる部分があります。

三つ目は、日本の顧客案件へ人を回すか、他国や地域共通の仕事を優先するかの判断です。日本側で必要な工数をまとめても、その時間をどの仕事から確保するかは、地域の職能責任者との合意が必要でした。

この三つを、すべて「日本マネージャーが調整する」と書くと、本人の権限で進められる仕事と、海外の判断が必要な仕事が混ざります。新しい役職者は、責任だけを持ち、同じ相談を海外へ繰り返すことになるかもしれません。

日本に常設する管理機能と、地域に残す判断を並べる

この拠点で検討するのは、仕事を誰かへ移す順序より、日本で常設する管理機能と、地域側に残す判断の接点です。次のように具体化できます。

必要な機能 日本側で引き受ける仕事の案 本社・地域側と決める条件
営業の育成と案件確認 経験のある担当が、商談準備や案件の根拠を確認し、助言する 正式な上司との評価・育成の分担、助言に使う時間、本人の営業目標の扱い
顧客案件の部門間調整 作業の条件、必要な担当と時間、顧客への回答をまとめる 各職能の専門判断を誰が返すか。日本側で確約できる範囲
国・案件をまたぐ作業配分 日本側が事業上の重要性、期限、必要工数、見送る影響を示す 地域責任者が、他の仕事と比べた優先順位と担当枠を判断する
採用と役割設計 日本で不足する仕事と、期待する責任を示す 採用枠、報告先、専門要件、受入れと育成を誰が担うか

日本側だけで表を完成させないでください。地域の責任者が、必要な判断と時間を引き受けるかまで確認します。日本事業の目標を認めても、そこへ使う人の配分に合意していないなら、計画の実行条件はまだそろっていません。

逆に、すべての判断を日本へ移す必要もありません。専門的な基準や複数国の配分を地域で担い、日本では顧客との約束と日々の仕事を進める形も考えられます。重要なのは、両方の責任がつながることです。

役職者を置いても、作業時間は自動的に増えない

例えば、営業六人のうち一人を日本の営業マネージャーへ任命し、残る五人の商談準備と育成を支援する案を考えます。任命した人自身の商談活動に使う時間も必要です。役職だけを付け、以前と同じ個人目標に加えて育成も求めると、どちらかが後回しになるかもしれません。

日本責任者は地域の営業責任者と、育成や案件確認へ使う時間を見積もり、本人が持つ案件や個人目標を調整してください。担当案件を他の人へ移すなら、受け取る側の時間も確かめます。任命した人の仕事を減らしたつもりで、残る五人へ無理を移していないかまで、会社側が見る必要があります。

また、日本での育成を引き受けることと、正式な人事上の管理職として評価・処遇を決めることは同じではありません。地域の上司が最終評価を担うなら、日本側がどの事実を確認し、どの意見を伝えるかを決めてください。二人の上司が別々の目標を渡す状態は避けたいところです。

役割に伴う制度や処遇を変更する場合には、人事と必要な専門家を交え、現行の条件を確認しましょう。組織図へ名前を入れたことだけで、その手続きが完了したことにはなりません。

顧客案件の一例で、新しい分担が機能するかを見る

日本の営業が、月末に開始したい顧客案件を持ってきたとします。技術と顧客支援の担当は、既に地域の別の仕事を割り当てられていました。

改善前の体制では、日本責任者が両部門の海外の上司へ個別に連絡し、返答を待って営業へ説明していました。新しい日本マネージャーを置いても、単に同じ連絡を代行するだけなら、事業上の判断は変わりません。

分担を見直すなら、日本側の案件調整を担う人が、必要な作業と期限、顧客が開始したい範囲、担当者の見積もりをまとめます。専門領域の確認は、それぞれの担当が行います。その情報を基に、日本責任者と地域の職能責任者が、どの作業を優先するかを判断する形です。

技術の時間を確保できても、顧客支援の時間が取れなければ、全体の開始を約束する条件はそろいません。別の担当を使えるか、開始範囲を変えられるか、日程を見直すかを、関係者と比べる必要があります。他国の仕事を動かす場合には、その仕事への影響も扱ってください。

この時点では、担当枠も顧客との開始条件も未決定です。日本側の案件調整担当は、技術と顧客支援それぞれの必要作業・見積時間・顧客への回答期限を一枚にそろえ、日本責任者へ渡す案から始めてください。日本責任者が地域の責任者へ判断を求め、両部門の配分を合意できたら、日本側の営業担当が承認された範囲と日程を顧客へ提示します。片方の配分が取れなければ、開始範囲や日程を変えた案を関係部門で確かめてから顧客へ戻します。

案件の回答を終えた時点で、調整担当は、必要な情報がそろった日、地域側へ判断を求めた日、回答日、顧客へ説明した条件を日本責任者と振り返りましょう。情報不足で止まったなら、日本側の準備と受け渡しを直す。材料がそろっても地域の配分判断が返らなかったなら、日本責任者が地域側の判断者と回答手順を見直す。どの仕事を変えるかまで、この記録から選んでいきます。

管理職を置く判断には、常設する機能と地域との接点を使う

この拠点で先に確かめるなら、営業・技術・顧客支援の三役職を同時に新設する前に、営業の育成を日本に置く常設候補の機能として、月末開始案件の調整を案件ごとに置く機能として分けて扱う案を勧めます。既に繰り返している育成と、一件の開始条件をそろえる調整では、必要な継続性が違うためです。国をまたぐ優先順位の配分と最終評価は、地域の職能責任者に残す判断として接続します。

営業六人のうち育成を担う一人を置く案では、日本責任者は正式な地域上司と、候補者の技能、育成へ使う時間、日本側が観察して地域へ返す事実、地域側が最終判断する評価事項、振り返る時点をそろえてください。本人の営業目標との両立も確認します。役職名を先に置くのではなく、日本でどこまで助言と案件確認を完了でき、どこから地域上司の判断へ戻すかを明らかにするためです。

一方、月末開始案件の調整は、回答を終えた後に同じ仕事が続かなければ、期間を区切った役割として終える選択ができます。似た案件で部門間調整が繰り返され、日本側で情報をまとめて顧客回答までつなぐ機能が継続して必要だと分かれば、常設化を検討する理由になります。それでも、専門判断や他国との作業配分まで日本の管理職へ移ったことにはしません。

ここで、冒頭に保存した同じ組織図へ戻ってください。育成、案件調整、国をまたぐ配分、評価について、「日本で常設する機能」「地域に残す判断」「両者をつなぐ情報と返答」を追記します。初回版と比べ、日本マネージャーを置けば決められると考えていたのに実際は地域権限が残る箇所、逆に日本側で日常的に完了できるのに判断者が曖昧だった箇所を確認してください。分からない権限や頻度は、無理に埋めず未確認として残しましょう。

日本責任者が引き受けてきた相談を、すべて抱え続ける必要はありません。次に地域の責任者と体制を話す際には、更新した同じ組織図を使い、「三人のマネージャーが欲しい」という人数案ではなく、日本に常設したい管理機能、案件ごとに置けばよい機能、地域に残す配分・評価判断を持ち寄ってください。その接点まで決めることから、拡大に合う体制をつくっていきましょう。

GCIと、日本事業の拡大に合う役割を設計する

GCIの経営・組織コンサルティングでは、海外企業の日本事業について、成長方針と役割・権限、現場の運営をつなぐ支援を行っています。日本の事業責任と本社の職能別の判断がかみ合わない場合は、必要な機能と分担から一緒に見直していきましょう。

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