BUSINESS JOURNAL

日本法人の報酬・職位を本社制度へ合わせる前に、役割の違いを確かめる

株式会社Global Career Incubator 代表取締役CEO 井川真一

最終更新:2026年10月29日。本文・参考資料は更新日時点の情報です。

日本法人の報酬・職位を本社制度へ合わせる前に、役割の違いを確かめる

本社のSales Managerと同じ職位だから、日本でも同じ報酬の考え方を使う。ところが、候補者へ説明すると、任せる仕事が広すぎると言われ、採用が進まない。こうした場合は、市場の金額を集める前に、比較している仕事が本当に同じかを確かめてください。

本社の制度を大切にすることと、同じ肩書を同じ役割として扱うことは分けましょう。事業の段階、顧客への責任、部下の有無、決められる範囲、本社から使える支援によって、求める人材は変わります。

報酬だけを上げるか、候補者の期待を下げるかという二択へ進む前に、会社が何を任せ、何を支えるかを具体化していきましょう。

肩書を翻訳しても、仕事は同じにならない

Managerという名前があれば、必ず部下を評価する職務とは限りません。2026年10月28日に取得したAmazon Jobsの職務記述「Global Account Manager, Automotive & Manufacturing, AWS」(Job ID 10489448)では、個人として貢献する職務であり、顧客対応を率いる姿勢や、販売・技術等の担当との間接的な責任も求められています。ここでは、肩書と人の管理責任を比べる一つの職務例として参照します。

この一例だけでも、肩書から人の管理責任を決められないことが分かります。一方、Country Managerと名付けても、実際には営業だけを担い、価格や採用の決定権がない場合もあるでしょう。自社の中で、その名前にどの責任を持たせるかが重要です。

本社と日本側で役割を比べるときは、職務記述書の表題だけでなく、日々どの判断を行い、何について説明責任を持つかを並べてください。日本法人の人数が少ないから役割も小さい、と人数だけで判断しないことも大切です。

担当者が少ないために、顧客の開拓、協業先への対応、提案資料、営業の管理まで広く求めるなら、その広さを資料へ残します。反対に、本社が専門部門や共通機能を用意しているなら、現地が使える支援として具体化しましょう。

役割を、五つの軸で比べる

本社の人事と日本側の責任者は、事業の段階、担当する成果、人の管理、判断の範囲、支援と負荷を同じ軸で比べてください。既存事業を運営する役割と、対象顧客や売り方から作る役割では、同じ人数を支えていても仕事が違います。成果の責任も、個人の営業、チームの実行、事業全体のどこまでを担うかで分けましょう。

人の管理も、「営業二人を見る」という説明で止めないことが重要です。活動を支えるのか、採用・配置・育成・評価まで担うのか。人事は決定権を確かめ、日本責任者は価格、提供条件、費用、人員について本人が決める仕事を示しましょう。そのうえで、技術・マーケティング・管理の支援を、いつ、どこまで使えるかを対応させます。

「本社へ相談できる」というだけでは、支援の条件として曖昧です。どの担当者が、何を、どの時点で返すかを確認してください。現地が担う仕事の広さは、本社から得られる支援によっても変わります。

また、責任と権限がずれていないかも見ましょう。売上計画を任せるのに、価格や提供範囲の変更をどこへ相談するか分からない。採用の責任を求めるのに、必要な人員や条件を提案する機会がない。この状態を、候補者の力量だけで埋めてもらう設計にしないことが重要です。

ここで、自社の採用案について、本社標準の職務のまま採るのか、日本で任せる仕事を変えるのか、現時点の案と理由を一、二文で職務案の先頭に残してください。本社支援や権限に未確認があっても、今の判断のままで構いません。後で同じ職務案へ戻り、日本に残す仕事、本社へ移す仕事、当初任務から外す仕事がどう変わったかを比べます。

同じ営業マネージャーでも、事業を作る仕事が加わっていた

以下はGCIが作成した仮想例です。

海外のソフトウエア会社が、日本法人の営業責任者を採用しようとしています。本社には、既存顧客の多い市場で営業チームを管理する標準の職位があり、日本の募集もその職位へ合わせる予定でした。

本社の標準職務では、対象顧客、主要な提供内容、提案資料がある程度整っています。専門の技術担当とマーケティング担当も、継続して支援します。営業マネージャーは、その条件の中でチームの活動を管理し、商談を進める役割です。

一方、日本の依頼案には、対象顧客を絞ること、日本向けの説明を作ること、協業先を探すこと、営業二人を支えること、本社との提供条件の調整が含まれていました。ところが、その職務を支える技術・マーケティングの担当は、まだ具体的に決まっていませんでした。

採用担当からは、「標準の営業管理職として説明しているが、候補者には立ち上げ責任者に近い役割に見える」という指摘が出ました。この時点では、報酬だけが原因で採用できないと確認できたわけではありません。役割の認識が違うことを、先に整理する必要があります。

日本責任者と本社人事が、いま分かる条件を五軸へ入れると、次の違いが見えます。

比較軸 本社の標準職務 日本側の当初依頼
事業の段階 既存顧客が多く、対象顧客・主要な提供内容・提案資料がある程度整っている 対象顧客、日本向け説明、協業先を検討する仕事から含む
担当する成果 営業チームの活動を管理し、商談を進める。個人とチームの成果責任の範囲は未確認 開拓の準備、営業二人の支援、本社との提供条件の調整を担う。事業全体の成果まで負うかは未確認
人の管理 チームを管理する。採用・配置・評価の決定権は、この資料だけでは分からない 営業二人を支える依頼。採用・配置・評価まで任せるかは未確認
判断の範囲 価格・費用・人員等の具体的な権限は、この資料にはない 本社との条件調整を含むが、本人が決められる範囲は未確認
支援と負荷 技術・マーケティング担当が継続して支援する 支援する担当者と作業の範囲が、まだ具体化されていない

本社人事がここから言えるのは、「同じ職位名でも、役割を支える前提が揃っていない」ということです。日本側の管理人数が少ないだけで、職務を小さく評価する理由にはなりません。同時に、未確認の人事権限を、立ち上げ責任者なら持つはずだと補わないでください。事業責任者と人事が、今回任せる決定を埋める番です。

報酬の比較表を作る前に、依頼する仕事を直す

日本側と本社人事は、募集文の「日本事業の成長全般を担う」という表現を、具体的な仕事へ分けました。対象顧客の検討、営業の実行、現地二人の支援、提案資料の準備、協業先の検討です。

次に、現地で担う必要のある仕事と、本社が担える仕事を比べました。本社の商品部門は提供条件の回答を、マーケティング担当は既存資料の基礎部分を支援できると確認しました。ただし、現地の顧客に合う説明や、優先する案件の判断は、日本側の責任として残りました。

ここまで整理してから、会社は二案を比較しました。一案は、立ち上げに必要な広い役割を任せ、その責任に対応する職位と報酬の扱いを見直す案です。もう一案は、対象と仕事を絞り、本社の支援を用意したうえで、営業責任者として採用する案です。

どちらも、肩書だけを変える案ではありません。候補者へ何を期待し、会社が何を用意するかを変える案です。

役割を絞るなら、本社も仕事を引き受ける

会社は、まず、現行商品の対象顧客を絞った営業を中心に進める案を、詳しく検討することにしました。先にこの案を扱う理由は、商品部門の回答とマーケティングの基礎資料を使える見通しが立ち、現地の営業計画と二人の実行支援へ仕事を寄せる分担を具体化できるためです。単に本社の職位や予算へ収めやすいから、という選び方にはしません。

そのためには、「日本事業の成長全般」を具体的に減らす必要があります。本社人事と日本責任者が事業責任者へ出す分担案は、次のようになります。

  • 日本責任者に残す仕事: 現行商品で応えられる顧客層を選び、営業計画、案件の優先順位、営業二人の実行支援を担う。顧客が理解しにくい点を拾い、日本向けの説明に反映する。
  • 本社商品部門へ移す仕事: 提供条件への回答と、その根拠を用意する。既存の条件を越える対応が必要なら、商品部門が実行条件を示し、事業責任者へ採否を求める。日本責任者一人に回答を作らせない。
  • 本社マーケティングへ移す仕事: 既存資料の基礎部分を用意し、修正する。日本側が示す顧客の問いを受け、どの資料をいつ返すかを約束する。現地の言葉や顧客への当てはめは、日本側と分担する。
  • 当初の募集職務から外す活動: 新たな協業先を探して販路を作る活動は、当面の採用任務から外す案とする。事業責任者が後ろへ置くことを判断し、再開を判断する時点も決める。継続する協業の仕事があれば、別の担当と時間を置き、名称を変えて新任者へ戻さない。

この分担を選ぶと、協業先を通じた成長機会の探索は遅くなります。既に使える商品と資料を生かして営業を進める代わりに、当初の事業範囲を狭める選択です。もし協業先を開拓しなければ対象顧客へ届かず、その活動を今止められないなら、この縮小案は採れません。事業責任者は、別の担い手を置くか、広い役割を任せる案へ戻り、職位・報酬・支援を見直してください。支援を確認する目的は、どちらの案でも同じ結論にするためではなく、この選択を変えるためです。

候補者へ説明する前の職務案は、「当初は現行商品の対象顧客を選び、営業計画と二人の実行支援を担う。提供条件の根拠と基礎資料は本社担当が用意し、日本側は顧客に合う説明と案件判断を担う。新たな協業販路の探索は当初任務から外す」とまとめられます。人事評価や採用の決定権、本社担当の作業枠・回答時点は、この案に別欄で記し、合意を得るまで候補者への確約に含めません。

本社各部門が担当と作業枠を引き受け、事業責任者が当面の範囲と後ろへ置く活動を承認したら、人事は職務記述書、選考で確かめる経験、入社後に使える支援を同じ内容へ直します。採用する人へは、営業の実行だけでなく、どこで本社の判断を求められるかも説明してください。条件を具体的に示してこそ、候補者も自分が責任を持てる役割かを判断できます。

また、本社が引き受けた支援は、実際の一件でも確かめましょう。日本側から提供条件の質問を渡し、担当から必要な根拠が回答予定までに返るか、現地が説明を作るために何の作業を追加したかを見ます。支援が使えず元の仕事が日本側へ戻るなら、本社責任者が配分を直すか、任せる役割と優先順位を見直します。忙しくなったという理由だけで、新任者に当初の広い任務を黙って戻さないでください。

ここまでで具体化したのは、承認を求める職務案と、合意後に確かめる仕事です。報酬額や採用の成否は、この分担案だけでは決まりません。次に、市場資料と比べる職務と給与の範囲をそろえます。

報酬調査の数字は、何を含むかを確認する

役割を定めたら、市場の給与情報を使います。ただし、調査の同じ肩書を見つけ、その金額を自社の総報酬へそのまま置くことは避けてください。

例えば、ロバート・ハーフの2026年版年収ガイドは、同社の紹介によって採用に至った人の報酬データを基に、新たな職務に就く際の給与の目安を示しています。公式の案内では、ボーナスや定期昇給は含まず、方法の説明では福利厚生も除外しています。採用時の給与は、新卒者の給与だけを意味するものではありません。自社の総報酬と比べるなら、含む項目をそろえる必要があります。

ガイドの職種区分、地域、経験、対象時期も確認しましょう。その資料が自社の採用条件と違う場合、差を残したうえで参考にします。一つの調査だけで、自社の職務に必ず必要な報酬額が決まるわけではありません。

本社人事は、金額を転記する前に、比較条件を一件記入してみてください。上の職務案なら、「日本側の対象=現行商品の営業計画と営業二人の実行支援、顧客向け説明。協業販路の新規探索は当初任務から外す案/本社支援=提供条件の根拠と基礎資料。具体的な作業枠・回答時点は合意が必要/市場資料=2026年版の採用時給与、賞与・福利厚生等を含まない/職種別の金額・職務範囲との一致=未確認」となります。

この記入を出発点に、人事が職種区分、地域、経験、対象時期を照合し、比較できる給与の範囲を選びます。自社側も、基本給、目標達成時の変動報酬、その他の条件を別々に置いてください。資料が含まない賞与を推測で足し、自社の総報酬と同じ条件になったことにしないようにしましょう。

条件をそろえた結果、自社予算との隔たりが残った場合も、数字を置き直すだけでは解決しません。事業責任者がその職務を現在の成長計画に必要と判断するなら、予算や社内の等級の扱いを見直す案を人事と作ります。予算を変えられないなら、本人へ任せる仕事をさらに減らせるか、本社がどの仕事を引き受けられるかを組み直してください。必要な仕事を残したまま、候補者の期待だけを下げる依頼にしないことが重要です。

基本給、変動報酬、職位、権限を分けて決める

変動報酬に結び付ける成果は、本人が実際に影響を与えられる範囲かを確かめてください。

例えば、日本側へ成長を求める一方、提供条件の回答や本社の担当配置が遅れているなら、その影響をすべて本人の営業活動の評価へ入れてよいかを考える必要があります。目標、支援、判断の範囲をそろえる仕事です。

職位についても、候補者に魅力的な肩書を付ければ解決するとは限りません。本社の会議へ参加できるか、必要な相手へ判断を求められるか、どの決定を任されるかが大切です。肩書だけが広く、実際の権限が狭い状態は、入社後の行き違いにつながるおそれがあります。

最終的な制度や契約の扱いは、人事・報酬・法務等の担当者と確認してください。市場へ合わせることと、社内の役割や公平性を説明できることを、同時に整えていきましょう。

制度の例外で済ませず、次の役割にも使える理由を残す

日本だけ特別に扱ってほしいという説明では、本社も判断しにくい場合があります。自社のどの標準職務と何が違い、そのためにどの扱いを変えるかを示してください。

逆に、本社制度を変えないために、仕事の広さを資料から落としてしまうのも避けたいところです。制度へ合わせるなら、任せる仕事と用意する支援も、その範囲へ合わせる必要があります。

役割を絞った場合は、事業責任者と人事が、どの条件で職務と職位を再検討するかも残してください。対象市場が広がる、現地の組織が増える、本社から使える機能が変わる。協業販路の探索を再開する際も、その活動を本人の役割へ加える前に、残る仕事と支援を照らします。再開を決めたことと、本人の職務・処遇を変更する合意は、別に整える必要があります。

採用できた後にも、職務記述書と実際の仕事を照合してください。立ち上げ期には仕事が増えることがあります。その変化を本人の成長として期待するだけでなく、会社が役割と支援を説明し直す機会にすることが重要です。

次の採用会議では、肩書の下に仕事を書く

例を見る前に残した職務案を、次の採用会議へ持ち戻ってください。本社人事は標準職務と報酬資料の対象範囲を、日本責任者は候補者へ任せたい仕事と使える本社支援を持ち寄ります。そのうえで同じ職務案を、日本に残す仕事、本社へ移す仕事、当初任務から外す仕事に書き直し、初稿と比べてください。事業責任者には、その差を踏まえて、仕事の広さを保って条件を見直すのか、当面の対象を絞り、本社が一部を担うのかを判断してもらいましょう。

会議で決まった範囲は職務記述書へ反映し、残った条件には決める担当と時点を置きます。候補者へは、その人が力を使う仕事と、会社が用意する支援を同じ説明の中で伝えてください。支援が未合意なら、選考を進めるうえでいつ何を確定するかも共有しましょう。

必要な人を迎えるために、会社も仕事と条件を引き受ける。その具体案を、候補者との次の対話へ持っていきましょう。候補者の力量を見極めるのと同じように、自社がその人へ渡す役割にも責任を持ちたいと思います。

日本法人の役割と人材条件を、整理したい方へ

経営・組織コンサルティングでは、役割・権限・人材の考え方と、実際の運営を照らして整理します。本社の制度と日本側の採用条件が合わない場合は、企業向け相談フォームから、本社の標準職務、日本側で任せたい仕事、用意できる支援をお知らせください。どの仕事と条件を変える必要があるか、候補者へ説明する役割から一緒に考えていきましょう。

参考資料

給与調査は情報源と集計範囲の確認に、職務記述は肩書と責任の違いの一例として参照しました。特定の報酬額やグレードの妥当性を示すものではありません。給与資料の説明と相談先は2026年10月28日に確認しています。