BUSINESS JOURNAL

日本市場に強い人材を採るとき、日本語力と顧客理解を分けて確かめる

株式会社Global Career Incubator 代表取締役CEO 井川真一

最終更新:2026年10月29日。本文・参考資料は更新日時点の情報です。

日本市場に強い人材を採るとき、日本語力と顧客理解を分けて確かめる

日本語の面接では自然に話せる。本社との英語の会議にも参加できる。それでも、日本の顧客がなぜ購入を保留しているのか、次に誰へ何を確かめればよいのかまでは分からない。日本事業の採用では、言語でやり取りする力と、顧客の判断を確かめる力を分けて見る必要があります。

海外本社の採用責任者にとって、日本語でのやり取りを任せられることは心強いはずです。ただ、その安心感だけで顧客理解まで評価してしまうと、入社後に「通訳はできるが、案件を進める提案が出てこない」という期待のずれが生まれかねません。ここでは、顧客の事情を確かめ、本社への提案につなぐ営業企画などの役割を考えます。

本社は提案できる人を求め、日本側は商談への同席や資料の翻訳を期待している。採用責任者は、候補者を比べる前に、この違いが社内にないかを確認してください。「日本市場に強い」を広いままにせず、入社時から任せる仕事と、会社が支える仕事をそろえるところから始めましょう。

「日本の商習慣を知る」を、顧客の判断を確かめる仕事に変える

「日本企業は意思決定が遅い」「日本の顧客は品質に厳しい」。こうした説明だけでは、採用で確認する基準として粗すぎます。同じ会社でも、利用部門が試用を決める段階と、情報管理の確認を経て全社契約を結ぶ段階では、必要な働きかけが異なるからです。

採用責任者は、入社する人が関わる顧客、商品、購入の段階を具体化してください。新規顧客への提案なのか、導入後の利用拡大なのか。価格や機能の変更を本社へ提案するところまで求めるのか。その範囲によって、探すべき経験が変わります。

Amazonの日本Books部門のProduct Manager求人では、顧客や事業の理解、商品企画、部門をまたぐ仕事と、言語の要件がそれぞれ示されています。職務例の確認日は2026年10月28日です。この求人では英語は必須、日本語は強く望まれる条件として記載されていますが、言語だけで職務全体を表してはいません。

この一職務を、営業企画を含む日本市場担当者全員の必須条件へ広げることはできません。別の会社が採用する際にも、言語の水準と任せる仕事を分け、自社の顧客に即して確認することが大切です。

面接官の評価が割れたら、何を任せるかへ戻る

以下はGCIが作成した仮想例です。

海外の業務ソフト企業が、日本の営業企画担当を採用します。日本語での提案資料づくりに加え、顧客の反応を基に本社へ販売方法の改善を提案する役割です。値引きや契約条件の最終承認は、本社の責任者が担います。

候補者Aさんは、日本の大手企業への商談に多数参加していました。日本語での受け答えも滑らかです。面接で「導入が進まなかった理由」を聞くと、Aさんは「日本では慎重な検討が必要だからです」と答えました。

採用担当が具体的な一件を尋ねると、Aさんは商談の通訳と議事録を担当し、購入を保留する理由の確認や次の提案は上司が行っていたと説明しました。この説明からは、会話をつなぎ、情報を正確に残す担当経験が分かります。

本社の面接官は「市場への提案経験が足りない」と述べ、日本側の面接官は「顧客との会話には十分対応できる」と述べました。ここで点数だけを平均しても、違いは残ります。本社は顧客条件を調べて販売方法を提案する仕事を、日本側は商談の支援を評価しているからです。

採用責任者は、「通訳と議事録は本人の担当として説明された。購入条件を自ら確かめて提案した経験は未確認」と整理しました。担当する機会がなかった可能性もあるため、「顧客理解が浅い」と能力の結論へ急ぎません。

会社として顧客理解から企画まで任せたいなら、次の対話で、その判断を確かめます。商談と資料づくりの支援から始めるなら、現在の経験を評価したうえで、顧客への確認を誰が教え、提案を誰が見直すかを決めます。どちらを採るかは、候補者の印象に合わせず、日本事業で今必要な仕事から考えてください。

顧客への一つの問いを、本社への報告までつなぐ

先ほどの会社は、顧客への確認と本社への報告を入社時から担う人を求めることにしました。共通の対話課題では、「利用部門は試したいと話しているが、次回の打ち合わせ日が決まらない」という情報を渡します。そのうえで、候補者に顧客への最初の問いを考えてもらいます。

「上司の承認が必要だと思います」という答えなら、採用担当は、その推測を相手にどう確かめるのかを尋ねます。たとえば、次のように聞けます。

試用を進めるうえで、利用部門で判断できる範囲と、別の担当者への確認が残っている点を教えていただけますか。確認に必要な資料も、こちらで用意したいと考えています。

顧客役の面接官が「利用部門は試したいのですが、データの扱いについて情報管理担当の確認が必要です」と答えたとします。候補者が次に「いつなら会えますか」と日程だけを聞くと、日を決めても、必要な説明がそろわないままになるかもしれません。

この答えを受けたら、情報管理担当が何を確認したいのか、どの資料や説明が必要なのかを尋ね、社内の技術担当が回答できる範囲を照合する理由があります。本社への報告も、次のように具体化できます。

利用部門には試用の意向があります。購入の承認は確認できていません。次の打ち合わせを決める前に、顧客の情報管理担当が確認する項目を聞き、当社の技術担当から説明できる内容を整理したいです。値引きや追加機能が必要かは、今の回答だけでは判断していません。

採用担当者は、この文を再現できるかを見るのではありません。相手の答えから次に確かめる相手と材料を選び、試用の意向を購入の承認へ広げずに伝えられるかを見ます。面接記録には「対話では、情報管理の確認を次の行動へつなげた」と残し、過去の顧客対応で同じ判断を実行したかは、別の経験の説明で確かめます。

では、顧客の答えのうち、「情報管理の確認は完了している」という条件だけを変えたらどうでしょうか。次回の日程が決まっていない点は同じです。候補者が先ほどと同じ技術確認を繰り返すなら、答えを行動へ反映できているかを聞き直す必要があります。この条件なら、同じ確認を重ねる前に、試用を決められる範囲と、日程を決めるために残る条件を顧客へ尋ねます。必要な参加者と候補日をそろえる商談支援を進められるか、そこで確かめましょう。情報管理の確認が済んだことから、購入の承認まで済んだとは判断しません。

質問の数より、答えによって何を変えたかを見てください。日本の顧客は慎重だという説明から一歩進み、その一社が今止まっている理由を扱えるかが、この対話で確かめたいことです。

顧客の要望を、そのまま本社への要求にしない

日本側で要望を聞いても、本社へ「日本には特別な対応が必要です」と伝えるだけでは、追加の人員や機能開発を判断しにくいでしょう。採用する企業は、候補者が何を聞いたかに加え、何を比較し、誰の判断を支えたかを確かめてください。

先ほどの顧客が、試用の前に追加機能を求めた場合には、「一社だけの要望か」「既存機能の使い方で対応できるか」「契約前に必要か」を本社へ説明する材料にできます。顧客が述べた条件と、候補者自身が推測した市場の広がりを分け、対応の負担と代替案を並べることが必要です。今回の機能が足りないのか、使い方の説明が足りないのかで、技術確認と企画提案の進め方は変わります。

候補者が過去にこうした整理をしたのであれば、本人が集めた情報と、上司や技術担当が検討した内容を分けて聞きましょう。顧客が決めたこと、本社が承認したこと、日本側が実行したことも、同じ「案件を進めた」にまとめないでください。

本社が提案を採用しなかった経験にも、見るべきものがあります。対応費用が見合わず別案を顧客へ説明したのであれば、何の負担を比べ、どの条件を残し、相手へどう説明したのかを確認できます。採用された企画の数だけで比べると、難しい条件を丁寧に扱った経験を見落としかねません。

提案後の変化も、資料へ反映したことと、受注や利用の結果を分けて尋ねてください。提案が承認されても、顧客が選ぶとは限りません。結果を追っていなかったなら、その範囲を明らかにしたうえで、本人の確認・比較・説明の仕事を評価しましょう。

言語の確認にも、同じ仕事の流れを使う

日本語力を軽く見てよいという話ではありません。契約条件の説明や顧客の懸念の聞き取りを任せるなら、仕事に必要な精度を確かめることが重要です。ただ、日常会話の自然さと、曖昧な要望を確かめる力は同じではありません。

選考では、先ほどの顧客メモを用いて、「顧客へ日本語で聞き返す」「本社へ英語で相談する」という二つの場面をつなげられます。内容を変えずに本社へ伝えるなら、たとえば次のように話せます。

The user department is interested in a trial, but we have not confirmed purchase approval. The customer’s team responsible for reviewing data handling still needs to complete its check. I propose confirming their questions first, then asking our technical team what information we can provide. We have not established a need for a discount or additional features.

評価者は、表現の流暢さに加え、未確認のことを確定したように伝えていないか、顧客が決めることと本社へ依頼することを区別しているかを見てください。「確認したい」という提案が、英語にすると「確認済み」に変わっていないかも、内容の精度に関わります。

実施する場合は、目的、時間、使える資料、評価する点を候補者へ事前に伝えましょう。候補者の勤務先の顧客資料や、実案件にそのまま使う提案書を求める必要はありません。言語と職務の双方を評価できる人を企業側で用意することも欠かせません。

国籍や出身地から、この力を推測するのは避けてください。日本での勤務年数が長い人にも、海外で日本の顧客を担当した人にも、今回の役割へつながる経験はあり得ます。必要な仕事を同じ基準で確認していきましょう。

入社時から任せる仕事と、会社が教える範囲を決める

候補者に顧客理解から企画まで期待するなら、会社が渡せる条件も確認してください。値引きや契約条件を本社が決めるのであれば、日本側の担当者は、何をそろえて誰へ相談するのかを知る必要があります。入社後に育てる範囲があるなら、顧客訪問へ同行する人、提案を見直す人、そのために使える時間を決めましょう。採用の期待を下げるためではなく、任せる仕事を実現するための準備です。

今回必要なのが提案資料と商談の支援であれば、まだ任せない市場戦略まで必須条件に入れると、探索する人材像が広がりすぎます。将来期待する仕事と入社時に必要な仕事は、求人の説明でも分けて伝えてください。

採用前に、日本事業の責任者と本社の採用責任者で、「入社する人が、どの顧客の、どの判断を前へ進めるのか」を一件書き出してみましょう。先ほどの場面を使うなら、顧客への問いと、本社への報告をそれぞれ短く書きます。その後、変える条件を「情報管理の確認は完了している」の一つに絞り、次の行動と報告を答え直してください。

答えを変えた理由を説明できなければ、顧客の返答を仕事の判断へつなぐ部分が不足しています。聞く相手を挙げられても、社内で誰が回答するか分からないなら、会社側の分担を先に決める必要があります。二人の答えが食い違った箇所は平均せず、入社時に求める経験と、教える仕事のどちらに置くかを話し合いましょう。その結果を求人の任務と面接の問いへ反映すれば、読んだ知識を採用の準備へ移せます。

日本語と英語ができる人へ、日本事業のあらゆる課題を背負わせる採用にはしたくありません。顧客の事情を確かめる担当、本社が答える条件、日本側へ渡す権限も整え、専門人材が力を発揮できる採用へつなげていきましょう。

GCIのTalent Search|人材紹介では、採用企業が必要とする役割と、候補者の経験を整理するところからご相談いただけます。本社と日本側で期待が分かれている仕事や、入社時から任せたい顧客対応を持ち寄り、採用についてご相談ください。