株式会社Global Career Incubator 代表取締役CEO 井川真一
最終更新:2026年10月29日。本文・参考資料は更新日時点の情報です。

日本の顧客から寄せられた要望を英語にして本社へ送っている。それでも製品部門から回答がなく、営業担当は顧客への説明に困っている。顧客との関係を保ちながら、本社の返答も待ち続けるのは、営業担当だけでは進めにくい仕事です。
日本の事業責任者は、依頼を送り直す前に、製品部門が何を決めるために、どの情報を必要としているかを一緒に確かめてください。顧客の言葉を正確に転送するだけでは、開発を選ぶための情報が足りない場合があります。相手が必要としている業務、その要望が満たされない影響、既存機能や別の方法で対応できる範囲、日本側が続けている作業まで整理してみましょう。
本社側にも、判断の基準や確認すべき情報を返す責任があります。日本側へ「市場規模が小さい」と言うだけでは、何をそろえれば検討されるかが分かりません。要望を出す側と受ける側が、次に何を判断するための相談かをそろえていきましょう。
要望の名前より、止まっている仕事を聞く
「日本向けの機能が必要です」という依頼では、対象が広すぎます。画面の日本語表示、帳票、承認手続き、他のシステムとの接続では、解決する仕事も、確認する担当も変わります。
顧客が「帳票を日本仕様にしてほしい」と言ったときも、そのまま開発要件にしないでください。誰が、どの場面で、何を受け取れずに困っているかを聞きます。実際には、既存の出力項目の並びを変えたいのかもしれません。あるいは、必要な情報自体を製品が持っていないのかもしれません。
前者なら、別の出力方法や運用を確認する余地があります。後者なら、表示の変更だけでは解決しません。業務上の希望を、確かめていない製品仕様へ早く置き換えないことが重要です。
法令や制度への対応が理由とされている場合も、顧客の発言だけで必須仕様を確定しないでください。どの要件へ、どの範囲で対応する必要があるかを、担当部門や必要な専門家と確認します。営業上の要望と、専門的に確認すべき条件を分けましょう。
ここで、保留になっている顧客要望を一つ選び、いま本社へ送るならどう書くかを「製品判断依頼書」の初稿として残してください。手元にある顧客の困りごと、確認済みの事実、現在の暫定対応、本社に求めたい判断だけを使います。まだ聞いていない顧客条件や、製品側から返っていない回答は加えません。まず、現時点の依頼が何を判断してほしい文章になっているかを保存しておきましょう。
仮想例:十件の要望を、一つの開発依頼にしていた
以下はGCIが作成した仮想例です。
海外企業が法人向けの業務サービスを日本で販売しています。日本の営業チームは、顧客から集めた十件の要望を「日本市場への対応」として、本社へまとめて提出しました。
確認すると、十件は六社から寄せられた記録でした。内容と相手は次のように分かれます。
| 内容 | 記録の件数と顧客数 | 分かっている影響 |
|---|---|---|
| 出力データの項目の並びを変えたい | 既存顧客三社から六件 | 現在、日本側が各社向けに週二時間ずつ整形し、三社合計で週六時間を使っている |
| 部門をまたぐ承認を製品内で扱いたい | 商談中の二社から三件 | 年額三百万円と四百万円の提案中。ただし、承認機能のほかにも購入条件が残る |
| 顧客の認証基盤と接続したい | 商談中の一社から一件 | 年額一千二百万円の提案中。顧客の決定時期、必要な接続条件、他の購入条件は未確認 |
十件すべてが別々の顧客の声ではありませんでした。また、既存顧客への対応負荷と、未受注の商談を進める条件が混在していました。
日本側は当初、「十件もあるのだから、一括で日本向けの開発をしてほしい」と伝えていました。しかし、どの機能が、どの仕事を変え、何を先に確かめるべきかが見えないままでした。
顧客の声の多さと、事業上の優先順位を分ける
この例では、六件の出力要望が最も多く見えます。ただし、同じ三社が複数回連絡した記録です。記録件数だけで、六社分の需要があると説明してはいけません。
一方、認証の要望は一件でも、提案額は大きく見えます。しかし、一千二百万円という数字は受注額ではありません。認証に対応すれば必ず契約するという合意も、まだありません。
この段階で、「認証機能を作れば一千二百万円の売上が増える」「承認機能の開発効果は七百万円」とは言えないのです。提案額は商談の規模を考える材料として使い、残る購入条件、顧客の判断時期、他の選択肢を併記してください。
既存の出力対応にかかる週六時間も、そのまま開発後に削減できる時間ではありません。変更後にも確認や例外対応が必要かもしれません。現在の負荷として把握したうえで、どの作業が減り、何が残るかを検証する必要があります。
数字を慎重に扱うことは、要望の価値を弱めるためではありません。本社が期待できることと、まだ分からないことを同じ資料で判断できるようにするためです。
最初の判断を「全部作るか」から「何を先に確かめるか」へ変える
本社の製品部門は、三つの機能をすぐに開発できるとは回答しませんでした。一方、検討のために、次の二週間で担当者が情報を集めることは可能だとしました。
日本側と本社は、まず出力対応を具体化することにしました。既存の三社で繰り返している作業があり、現在のデータと作業手順を確認できるためです。日本側が整形前後の情報を、共有してよい範囲で整理し、本社の製品担当が既存機能で対応できるか、変更が必要かを確認します。
これは出力機能を最優先で開発する決定ではありません。短い期間で実態を確かめられるものから、判断材料をそろえる選択です。顧客の情報を本社へ渡す場合は、社内規則や契約に沿って、必要な権限と共有範囲を確認することも欠かせません。
同時に、営業担当は承認と認証の商談について、残る購入条件と顧客の判断時期を確認します。認証について、近い決定期限と具体的な必要条件が分かり、他の購入条件もそろっていると確認できれば、調査の順番を見直す理由になります。
最初の順番を決めた後も、新しい事実によって変えられるようにしてください。「声が大きいから先にする」「一度決めたから変えない」という運営から、判断の根拠を説明できる運営へ変えていきましょう。
先ほど保存した製品判断依頼書を、ここで一度書き直します。新しい顧客回答や製品部門の返答をまだ使わず、同じ既存情報だけで、顧客の課題、確認した事実、日本側の見立て、代替策、本社へ求める判断、顧客へ返せる範囲を分けてください。回答を求める時点を置く場合も、それは新事実ではなく、今回の判断を進めるための依頼条件として明示します。
初稿と改稿を並べ、最初は「この機能を作ってほしい」という要望の転送だったのか、改稿後は「何を判断し、何がまだ分からないか」を返してもらう依頼になったのかを比べます。二稿の比較を終えてから、顧客や製品側から新しい情報を受け取り、同じ依頼書を更新していきましょう。
一枚の依頼書に、顧客の言葉と自社の判断を混ぜない
要望を本社へ提出する際には、次の欄を分けると、誰が何を確かめるかが見えやすくなります。
- 顧客の課題:誰のどの業務が、現在どう止まっているか。
- 確認した事実:顧客数、作業内容、現行の対応、商談の段階など、確かめた内容。
- 日本側の見立て:何を変えれば改善すると考えるか。その根拠と、まだ確かめていない点。
- 代替策:既存機能や運用で対応できる可能性、負担、続けられる条件。
- 本社へ求める判断:適合性の確認、調査の担当、開発候補への採否など、今回決めたいことと、答えを返す日。
- 顧客へ返す内容:いま説明できる範囲、次に回答する内容、その担当と、顧客と相談する回答日。
この例の最初の依頼書であれば、「日本向け機能の開発をお願いします」より、次のように具体化できます。
「既存三社向けに、出力後の項目整形へ合計週六時間を使っています。現在の出力と顧客が必要な並びの差を確認するため、日本側で作業手順と共有可能なサンプルを用意します。合意した二週間の調査で、既存機能で対応できる部分、製品変更が必要な部分、判断に足りない情報を分けて返してください。製品側の確認者と回答日を決め、日本側にも共有をお願いします。この段階では開発時期を顧客へ約束していません」
二週間後に返答を受けたら、日本の事業責任者と製品担当は、その内容から次の進め方を選びます。依頼書を完成させるだけで終えず、調べたことを仕事へ戻していきましょう。
既存機能で対応できる部分が分かった場合は、日本側の担当が共有可能なサンプルで試し、顧客が必要とする出力を得られるか、確認や例外対応に何が残るかを確かめます。必要な出力を得られ、残る作業を引き受けられるなら、事業責任者が担当と確認手順を決め、営業担当が顧客へ切替えの範囲と時期を相談します。
製品変更が必要な場合は、その範囲と影響を製品担当が整理し、他の開発候補と比較する段階へ進みます。営業担当は、購入条件と判断時期に変化がないかを確かめ、比較に必要な情報を補います。開発の採否・着手・提供日は、権限を持つ製品側の責任者が決める事項として残します。
材料が足りない場合は、追加で必要な情報、集める人、次の回答日を両者で決めてください。顧客の判断期限までに調査を終えられないなら、営業担当は現行機能と提供可能な暫定対応を基に説明します。日本の事業責任者も、その対応をどこまで引き受けるかを判断しましょう。調査待ちの一語で顧客と現場を待たせず、その時点で選べる案を返すことが大切です。
日本側の暫定対応を、無期限のサービスにしない
本社の開発を待つ間、日本側が手作業で支える場合もあります。その対応が顧客にとって有益でも、いつまでも同じ体制で続けられるとは限りません。
週六時間の整形を、誰が担当しているでしょうか。その人が休んだ場合に、別の人が作業できるでしょうか。顧客が増えるたびに同じ時間が増えるのか、例外の確認が必要になるのかも確かめてください。
継続するなら、対応範囲と確認者、顧客へ説明する条件、見直す時点を決めましょう。未確認の自動化を前提に、新しい顧客へ同じ対応を約束しないことも大切です。
また、営業が善意で始めた対応でも、正式なサービスの範囲と合っているかは別に確認する必要があります。すぐに止めるか、無条件に続けるかの二択にせず、既存の約束と必要な作業を整理し、関係者と対応方針を決めていきましょう。
本社の回答と、顧客への約束を区別する
製品担当が「検討します」と答えたことを、営業が「対応予定です」と顧客へ伝えていないでしょうか。調査すること、開発候補として扱うこと、開発に着手すること、提供時期が確定することは、それぞれ違います。
営業担当が顧客へ返すのは、現時点で使える方法、その制約、次に確認できる内容です。利用開始日を伝える場合は、その日程に利用開始できると製品側で確認・承認された内容を使ってください。顧客にとって待てない条件が分かったら、その事実を本社へ戻し、調査や開発候補の比較に反映してもらいましょう。
本社側には、日本側が外部へ説明してよい内容まで返してもらいましょう。社内の可能性として話したことが、顧客向けのロードマップになってしまうのを防ぐためです。実製品の仕様や日程は、承認された最新情報で確かめてください。
保留になっている要望を一つ選び、顧客の課題、事実、自社の仮説、暫定対応、本社へ求める判断を書き分けてみてください。依頼を送るときに回答日と返してほしい内容を合意し、返答を受けたら、選んだ対応、その理由、顧客へ伝えた範囲を同じ記録へ追記しましょう。判断が変わった経緯まで残せれば、次の担当者も「検討中」の中身をたどれます。
GCIと、本社へ伝わる情報と役割を整える
GCIの経営・組織コンサルティングでは、海外企業の日本事業について、事業の前提、役割・権限、日々の運営を照らし合わせて改善を支援しています。顧客要望が本社へ届いても判断が進まない場合は、情報の整理と、営業・技術・製品部門の役割を一緒に見直していきましょう。
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