BUSINESS JOURNAL

英語必須の採用要件は必要か。実務の使用場面から決め直す

株式会社Global Career Incubator 代表取締役CEO 井川真一

最終更新:2026年10月29日。本文・参考資料は更新日時点の情報です。

英語必須の採用要件は必要か。実務の使用場面から決め直す

求人に「英語必須」と書いたものの、候補者をどこまで絞るべきか迷っている。高いスコアを持つ人でも、実際の仕事を任せられるかは分からない。一方、職務経験が合う人を、点数だけで見送ってよいのかも判断できない。採用責任者がそう感じるなら、英語を使う仕事の分解から始めましょう。

「英語必須」の要件は、実際の職務、入社時から求める行動、会社が用意できる支援の三つから決めます。誰と、何を、どの場面で進めるかを具体化すれば、候補者へ求める力と、選考で確かめることをそろえられます。

候補者を広く見たいと考えても、仕事を任せる責任は残ります。採用責任者と現場責任者で、いまの募集要項を実務の一場面まで戻してみましょう。

仮想例へ進む前に、まず自社の現在の求人へ戻ってください。「英語必須」に当たる一文をそのまま写し、なぜその要件が必要なのかを一文で添えて初稿として残します。ここでは新しい候補者の回答や、これから決める支援条件を根拠にしません。

次に、同じ求人票、職務分担の記録、現時点ですでに決まっている会社支援だけを使って、その同じ要件を一文で書き直します。誰と何をやり取りし、入社時からどの行動を求めるのかを入れ、会社支援が確定しているならその範囲を示し、未決なら未決のまま残してください。点数や「高い英語力」という言葉を別の抽象語へ置き換えるだけでは、要件を直したことにはしません。

初稿と修正版を並べ、英語を使う場面、入社時に求める行動、会社が用意できる支援のうち、同じ既存情報から何を具体化できたかを確認します。この比較を閉じてから、以下の仮想例で場面の分け方や選考課題を見ていきましょう。

「英語で仕事をする」を、具体的な動作へする

英文の資料を読めることと、会議で相手の懸念を聞き、代案を説明できることは、別に確かめる必要があります。短い連絡を送る仕事と、その場で不明点を問い直す仕事でも、使う力は変わります。

IIBCのTOEIC Listening & Reading Test公式説明では、同テストが「聞く」「読む」の二つの英語力を測ることを示しています。そのスコアを使う際も、面接や業務確認で何を別に見るかを考えましょう。

欧州評議会のCEFR自己評価グリッドの案内も、聞く、読む、やり取り、発表、書く活動を分けています。自社の職務を整理する際にも、英語を一つの印象でまとめない参考になります。

ただし、自己評価用の資料を、そのまま自社の採否を決める基準へ置き換える必要はありません。まず仕事の条件へ戻ります。

仮想例:海外会議に出るが、交渉の最終判断は担わない

以下はGCIが作成した仮想例です。

ある企業は、日本と海外本社をつなぐ業務改善担当を採用していました。求人案には「高い英語力」とだけ記載され、採用担当は英語スコアを中心に候補者を選ぼうとしていました。

現場責任者と仕事を整理すると、本人が担うのは、日本側の運営状況をまとめ、海外の責任者へ改善案を説明し、質問と確認事項を日本側へ返すことでした。英文資料も読みますが、契約条件の交渉や会社の最終決定を一人で担う仕事ではありません。

定例会議の前には資料を用意できます。一方、会議中に相手から新しい条件を聞き、その意味を確認する場面もあります。すべての発話を事前に作れるわけではありませんでした。

この仕事で何を入社時に求めるかを、場面ごとに整理しました。

場面、必要な行動、支援を並べる

実務の場面 入社時に確かめたい行動 会社として用意する条件
海外から届く手順を読む 重要な条件と不明点を捉え、確認が必要な箇所を示す 用語資料、内容を相談できる担当
会議前に状況と案を書く 事実、提案、判断を求めることを区別して伝える 合意した形式と、初期の内容確認
会議で質問を受ける 聞き取れない部分や曖昧な条件を確認し、分かる範囲を説明する 上司の同席範囲と、持ち帰れる判断の条件
会議後に日本側へ返す 決定、未決、担当と次の行動を区別して共有する 共有先と確認する手順

ここでは、専門用語を一つ知らなかっただけで不適合と決めません。何を理解できず、どう確認し、必要な仕事を進められるかを見ます。

反対に、用意した資料を読めても、会議での重要な条件を理解できず、確認もできないなら、その場面をすぐに任せられるとは言えません。支援で補えるかと、入社時に必要な能力を分けて判断します。

入社後の学習へ回すことを、仕事と時間から決める

「英語は入ってから学べばよい」とするなら、その間に誰が必要な仕事を担うかを決める必要があります。本人が学ぶ意欲を示しているだけで、会社側の受け入れ条件がそろったとは扱えません。

この企業では、少なくとも初回の定例会議までは、上司が資料の内容を確認し、会議にも同席することにしました。ただし、上司が全発言を通訳する前提ではありません。本人には、主要な内容を理解し、分からない点を確認して、必要な返答を組み立てる行動を求めます。

同席をいつまで続けるかは、学習期間の長さだけで決めません。初回の会議後に、本人がまとめた決定事項・未決事項・担当と次の行動を、上司の会議記録と照合します。資料の内容確認を続けるのか、会議中の確認に支援を厚くするのか、次回から任せる範囲を広げるのかを、そこで判断することにしました。

会社がその支援時間を確保できないなら、採用担当だけで「入社後に支援します」と約束することはできません。現場責任者が、当初の担当を資料準備と会議後の共有に絞り、会議中の応答は別の担当が持てるかを検討します。仕事を分担できない場合は、入社時から本人に任せる範囲と必要な力を見直します。募集条件を上げる前に、会社が変えられる仕事の配分も確かめたいところです。

より高い即時の交渉や専門説明が必要な別の職務なら、入社時の期待も変わります。今回の例を、すべての英語職務へ広げないことが重要です。

条件が変わる課題で、理解と確認を見届ける

この企業は、要件を確かめる課題を、一つの業務場面に絞りました。候補者へ、次の状況を伝えます。

日本側は、問い合わせの分類方法を変えたいと考えています。海外側はまだ承認していません。現行の区分による記録はありますが、集計に必要な時間は未確認です。来月の定例会議で変更案を話し合うため、現在の状況と、海外側へ判断を求めることを英語で説明してください。

候補者は、まず「We propose changing the inquiry categories. The change has not been approved yet. We would like to discuss the proposal at next month’s meeting.」と説明しました。分類の変更を、決定事項とは扱っていません。

面接官は、途中で「Before we change the categories, can you send one week of data using the current categories?」と条件を加えました。分類を変える前に、現行区分の一週間分のデータを送れるか、という依頼です。

候補者は次のように返しました。

「Which week should we use, and what would you like to check? I need to confirm with the team in Japan before I can give you a delivery date.」

面接官は、「Please use last week’s records. We want to see which categories account for most of the inquiries.」と答えました。先週の記録で、問い合わせがどの区分へ集まっているかを確認したい、という説明です。候補者は、先週の記録を現行区分で集計すること、必要な時間を日本側に確認して提出日を返すことを英語で確認しました。提出日を、その場で確約はしませんでした。

課題後に書いてもらった共有メモには、「分類変更は未承認」「先週の記録を現行区分で集計する依頼」「本人が日本側の担当に所要時間を確認し、海外側へ提出日を返す」と記載されました。採用担当は、応答とメモを照合して、次の観察記録を残しました。

「変更を提案として説明。追加依頼の対象期間と目的を質問し、回答を受けて確認し直した。所要時間が不明なため提出日は確約せず、確認先と次の返答を示した。共有メモも、変更の承認とデータ提出の依頼を分けている。」

現場責任者と採用担当は、条件を聞き返し、未決事項を区別して共有した行動を、入社時要件に照らした確認材料としました。選考を進める場合の初期担当案を、状況の説明、追加条件の確認、日本側への共有と定め、上司による資料確認と会議同席を条件に記録しました。契約条件の交渉や会社の最終決定を、一人で担わないという役割の範囲も維持しました。残る職務経験を次の選考で確認する方針も決め、採否の判断へつなぐことにしました。

もし、資料は読めても追加条件を聞き取れず、確認の問いも出なかったなら、同じ結論にはできません。日本語でも条件を取り違えるのか、考えは整理できても英語で理解・説明する部分が難しいのかを分けて確かめます。そのうえで、支援を付けて任せる範囲を絞れるかを現場責任者が判断します。

自社で課題を使う際は、職務を知る人と英語を評価できる人で、入力する情報、追加条件、見る行動を確認してください。ここで示した短い課題を、そのままあらゆる英語職務の合否基準にすることはできません。

発音の印象を、仕事ができる根拠にしない

聞き慣れた発音か、話す速さが近いかだけでは、必要なやり取りを進められるかは分かりません。聞き手が内容を理解し、相互に条件を確認できたかを見ましょう。

一方、伝える必要のある情報が分からない状態なら、「多様性があるから」で確認を省くのでもありません。業務で必要な情報をどう共有できるかを、具体的な課題で確かめます。

面接官同士でも、先ほどの応答と共有メモのように、見ている行動をそろえましょう。「英語が上手だった」「少し不安」だけでは、次の面接官に判断を渡せません。理解できた条件と、追加の確認が必要だった箇所を残します。

候補者の経験や話し方の違いを尊重しながら、会社が任せる仕事の基準を明らかにすることが大切です。

求人には、必要な使用場面を伝える

要件を整理したら、求人と面接案内にも反映します。この企業では、「高い英語力」という一文を、次の記載へ変えました。

英語で海外責任者へ業務状況と改善案を説明し、質問の意味を確認して、日本側へ決定・未決事項を共有できることを求めます。入社初期は上司が資料内容を確認し、定例会議に同席します。社内固有の用語と運営手順は、入社後に資料と実務を通じて習得いただきます。契約条件の交渉を一人で担うことや、会社としての最終判断は求めません。

入社時に必要な行動と、入社後に覚えること、会社の支援が分かれました。支援する上司との合意があるからこそ、求人にも書けます。

会議の頻度や資料の準備条件、初期支援も、確定している範囲で説明します。候補者が、自分の経験と必要な準備を考えられる情報になります。

スコアを要件として使う場合も、その理由と、別途確認する行動を社内でそろえましょう。点数の線引きだけで、必要な説明や確認を済ませないことが重要です。

次の求人で、英語を使う三つの場面を書き出す

いまの「英語必須」という一文の横に、本人が入社後に行う場面を三つ書いてみてください。読む内容、話す相手、やり取りで本人が決める範囲を具体化します。

その場面を支援なしで担う必要があるのか、どの支援を用意できるのかを、現場と確認しましょう。必要な力が見えれば、候補者へ説明する要件と、選考で確かめる行動も整えられます。

点数の線引きに迷ったときほど、この三つの場面が判断の支えになります。候補者へ求めることを明らかにし、会社も用意する支援を引き受ける。そこまでそろえて、次の募集へ進めましょう。

採用コンサルティングで、職務と言語要件をそろえる

GCIは、職務の要件定義や選考設計、グローバル人材の採用を支援しています。英語要件の置き方に迷う場合は、実務の使用場面と入社時の期待、支援できる範囲を一緒に整理しましょう。

採用コンサルティング・採用代行の案内をご覧いただき、対象職務と英語を使う場面を企業向け相談フォームからお知らせください。まず、どの場面の要件や確認方法に迷っているかを伺います。調査・診断が必要な場合は、対象範囲・成果物・費用を合意してから着手します。

参考資料・サービス案内の確認日:2026年10月28日。