株式会社Global Career Incubator 代表取締役CEO 井川真一
最終更新:2026年10月29日。本文・参考資料は更新日時点の情報です。

AIで資料の初稿は早く出るようになった。ところが、責任者は内容の確認と修正に追われ、以前より仕事が増えたと感じている。AIを使う社員が増えるほど、確認する人へ仕事が集まる状況はないでしょうか。
この場合、初稿をもっと速く出すことだけを目標にしないでください。材料をそろえるところから、事実を確かめ、判断し、使える版を渡すところまで、仕事全体を見る必要があります。
AIを使うか使わないかという二択の前に、どの仕事を任せ、人が何を確認し、誰が使うことを認めるかを整理しましょう。速さと品質を、同じ仕事の条件として確かめていきます。
初稿ができた時点を、仕事の完了にしない
生成AIは、もっともらしい文章を作っても、内容の正しさまで保証するものではありません。米国NISTが2024年7月に公表した『Artificial Intelligence Risk Management Framework: Generative Artificial Intelligence Profile』の§2.2でも、生成AIが誤った内容を自信のある形で示すこと、入力と食い違う出力や誤った根拠を作ることを扱っています。
そのため、「AIが書いたので、人が見てください」という分担だけでは不十分です。見る人が、元の事実を知らず、根拠にもアクセスできなければ、確認する仕事そのものが大きくなります。
また、文章の読みやすさを確認したことと、数値や意思決定の状態を確認したことは違います。何を確かめる人なのかを、具体的に置いてください。
仮想例の前に、AIを使っている定例報告を一つ選び、今の運営をそのまま短く書き残してください。誰が材料をそろえ、誰が元の記録と照合し、誰が報告を使ってよいと判断しているかを、直近の同じ報告と既存資料だけで説明します。次に、その報告で実際に起きた手戻りを一つ選び、誤りが元の材料にあったのか、初稿で変わったのか、事業判断が未了だったのかへ戻って、同じ三役の説明を書き直してください。最初の説明と並べ、確認が責任者へ一括していた箇所と、どの役割へ戻せるかが明確になった箇所を比べてから、以下の例へ進みます。後段の試行結果や新しい担当時間を、ご自身の初稿修正の根拠には使わないでください。
仮想例:初稿は二十五分早いが、報告の完成は遅くなった
以下はGCIが作成した仮想例です。
ある企業が、定例の事業報告の作成に、社内で利用を認めたAI環境を使い始めました。入力する資料も、当該環境での利用を認めた範囲へ限定しています。
作成担当は、関連する記録から初稿を生成し、責任者へ渡しました。文章は整っていましたが、検討中の案が決定済みとして書かれ、比較対象の違う数字が同じ指標として並んでいました。責任者は元の記録を探し、担当者へ聞き直し、文章を直す必要がありました。
会社は、同じ種類の定例報告1本について、材料の準備から確認した版の共有までを記録しました。表の単位は分で、各工程を順番に進めたときの経過時間です。生成を待つ時間も含み、複数の人の作業時間を足した人時ではありません。
| 工程 | 従来の方法 | 最初のAI利用 |
|---|---|---|
| 材料の準備 | 10分 | 10分 |
| 初稿の作成・生成 | 30分 | 5分 |
| 事実と条件の確認 | 10分 | 25分 |
| 確認後の修正 | 初稿と確認に含む | 15分 |
| 確認した版の保存・共有 | 5分 | 5分 |
| 合計 | 55分 | 60分 |
初稿は30分から5分へ短くなりましたが、報告を渡せるまでの工程時間は55分から60分へ、5分延びました。責任者が元の記録を探して修正する仕事も発生しています。ただし、この表だけでは、責任者本人の作業時間が何分増えたかまでは分かりません。
分担を見直す際は、総工程の時間に加えて、誰が確認と修正へ何分使ったか、待ち時間に他の仕事をできたかを記録してください。工程が短くなっても、限られた責任者へ仕事が集中するなら、別の案件が止まる可能性があるからです。
入力する前に、確かめた事実と提案を分ける
この会社は、入力する記録の量を増やす前に、報告へ使う材料の状態をそろえることにしました。
各情報の担当者が、対象期間、数字の定義、確認済みの事実、検討中の案、まだ分からないことを区別します。参照する元の記録も、確認する人がたどれる形で残します。
そのうえで、作成担当がAIへ構成や表現の初稿を作らせます。入力の指示にも、決定と検討を区別し、根拠のない補足をしないよう示します。ただ、指示を書けば必ず守られると置かず、出てきた内容は元の材料へ戻って確認します。
報告の結論として何を勧めるか、会社として何を決めたと書くかは、判断する責任者が引き受けます。AIが提案した文章を、そのまま決定の記録へ変えないことが重要です。
入力情報の利用条件は、使う製品、契約、設定、会社の規程に沿って確認してください。社内用と呼んでいるから、どんな顧客情報も入れてよいという意味ではありません。利用を決める社内担当者は、使える情報の範囲を作成担当へ伝え、判断できない資料は入力前に確認を受けるようにしてください。
確認の責任を、全部まとめて一人へ渡さない
報告を読む責任者が、すべての元データを一から確認する運営では、生成する量が増えるほど詰まります。この会社は、次のように確認する仕事を分けました。
情報の担当者は、使う数字と、その意味、判断の状態を確認します。作成担当は、報告にした際に情報が変わっていないか、参照先と対応しているかを確認します。責任者は、事業上の解釈、優先する案、外へ伝える内容を判断します。
この分担で、先に起きた誤りへの対応を具体化しました。
元の記録には「提供範囲の変更案を検討中。事業責任者の承認は未了」とあるのに、初稿には「提供範囲の変更を決定した」と書かれていました。情報担当が事業責任者へ確認すると、案は引き続き検討中で、承認されていませんでした。作成担当は「提供範囲の変更を検討中。承認は未了」と直し、案の採否は事業責任者へ戻しました。文章を直したことを、変更案を認めたことにはしていません。
数字の欄では、受注が確定した案件と、営業担当が受注を見込む案件が、同じ「受注」の見出しに入っていました。情報担当が元の案件記録と照合し、作成担当が確定と見込みを分けて表示します。その区別を踏まえて何を優先するかは、責任者が判断する仕事です。表現の修正、事実の確認、事業上の決定を、一つの確認印で済ませないことが大切です。
同じ人が複数を担う場合もあるでしょう。その場合も、何の確認を終えたかは分けて残してください。文章を読みやすくした人が、契約状況や顧客の意思まで確認した扱いにならないようにします。
また、未確認の重要情報が残る場合は、見栄えのために消さず、未確認として記載するか、必要な確認を終えてから使います。誰が判断するか不明な状態のまま、下流の読み手へ預けないことが大切です。
見直した後も、同じ範囲で時間と品質を見る
この会社は、材料の整理と確認の分担を準備するために、初期の作業として90分を使いました。その後の1回の試行では、材料準備15分、生成5分、確認15分、修正5分、保存・共有5分の、合計45分でした。先の表と同じく、工程を順番に進めた時間で比べています。
この試行では、事実、数値の対象、検討と決定の状態を確認し、責任者が報告に使うことを認めました。初稿を受け取っただけで完了にしていません。
従来の55分に対し、この試行は10分短い結果です。一方、初期の90分は45分へ含めていないため、1回で導入の負担まで取り戻したとは言えません。報告の内容や資料量が変われば、必要な確認も変わります。
今後も同じように短くなるか、確認漏れが増えないか、誰の負担が変わったかを見て、次の利用範囲を判断します。単発の結果を、全業務の生産性向上へ広げないでください。
使う範囲を広げる判断にも、人の担当を置く
社内の定例報告で使えたからといって、顧客へ渡す提案や、専門的な判断を含む文書へ、そのまま同じ確認を当てはめてよいとは限りません。
利用する場面が変わるなら、誤りがあったときの影響、必要な専門性、入力できる情報、承認する人を確認します。担当者が事実を確かめられない領域で、文章が整うことだけを理由に利用を広げないようにしましょう。
また、AIの出力や入力の資料が変わった際、過去に確認した内容が、そのまま保証されるわけでもありません。保存する際は、実際に確認した版と、その根拠が対応するように残します。修正前の初稿が、確認済みとして共有されることを防いでください。
これは、記録を増やすためではありません。次の担当者が、どこまで確かめられていて、何を自分で確認する必要があるかを判断するためです。
確認者が詰まったら、生成量を増やす前に分担を見る
責任者の確認待ちが増えたときに、作成側だけへ「もっと良い入力指示を」と求めても、解決しない場合があります。確認に必要な情報が不足している、判断できる人が限られる、使ってよい基準が共有されていないなど、組織側の条件もあるからです。
どの誤りで手戻りが起きたかを見て、材料の準備、担当者の学び、確認の順序、利用する業務の範囲を変えましょう。すべてを経営者が見直す状態から、役割に応じて確認できる形へ進めます。
反対に、その業務では確認の負担が大きく、従来の方法の方が適していると分かったなら、利用範囲を狭める判断もできます。使った人数や生成した文書数だけを、成功の指標にしないでください。
まず一つの業務で、最後までの仕事を並べる
業務を担当する責任者は、次回の定例報告を一つ選び、作成担当と情報担当に、材料から共有までの仕事を並べてもらってください。時間を測る前に、未承認の案を決定と書かないこと、異なる定義の数字を混ぜないこと、確認した版から根拠へ戻れることを、今回の確認条件としてそろえましょう。
担当者には、誤りが見つかった文章だけでなく、直すために誰が何を調べたかも残してもらいます。情報の状態が元の材料で混ざっていたなら情報担当へ、材料は正しいのに初稿で変わったなら作成担当の照合へ戻す。案の採否が決まっていないなら、文章の手直しで埋めず、責任者が判断する議題へ残してください。手戻りの場所に合わせて、次に変える仕事を選びます。
試行後は、責任者が担当別の作業時間と確認結果を見て、次回の使い方を決めます。条件を満たし、担当別の作業時間も確保した枠に収まるなら、同じ用途で試行を続ける。責任者が同じ事実確認を一から繰り返しているなら、生成量を増やす前に、情報担当と作成担当の確認範囲を直します。必要な確認を確保できなければ、その用途は従来の方法を残しましょう。速さだけを理由に、使う範囲を広げる必要はありません。
初稿が速くなった価値は生かしながら、その後に必要な仕事も正面から見てください。試してきた社員を確認不足として責めるだけでも、責任者の頑張りに任せるだけでも、分担は変わりません。双方が直近の報告を持ち寄り、一つの手戻りを誰の仕事へ戻すか決めるところから、次の試行を始めていきましょう。
GCIと、AIを使う仕事の役割と運営を見直す
GCIの経営・組織コンサルティングでは、事業と現場の状況から、役割・権限、業務の進め方を整理します。AI導入後に確認や手戻りが増えた場合は、成果物を使える状態にするまでの分担と判断を、一緒に確かめていきましょう。
負担が増えた工程と、そこで誰がどの誤りを直しているかを、法人向け相談フォームからお知らせください。経営・組織コンサルティングで、成果物の条件と確認の分担を照らし合わせ、どこから見直すかを一緒に考えます。
