「いまの年収、あとどれくらい伸ばせますか?」
Amazon/AWSに移ると、同じスキルでも基本給(年俸)+RSU(株式報酬)+サイニングボーナスの設計によって、総報酬が一段上がるケースは少なくありません。
Amazon/AWSでは社員のポジションを「L(レベル)」で区分しており、L4が若手〜中堅、L5が経験者層、L6以上はマネージャー/シニア職に相当します。たとえばTech/PM職ではL5で1,300万〜1,900万円相当が十分に射程に入ります。Sales職はコミッション設計によって振れ幅が大きく、中央値は約1,060万円ながら、案件次第では大きく上振れすることもあります。
またAmazon特有の仕組みとして、RSU(株式報酬)が4年間で「5%→15%→40%→40%」という「後ろ寄せ」で分割付与されます。評価と株価が噛み合えば3〜4年目に大きくリターンが膨らむ設計です。
本コラムでは、20代後半〜40代前半の中途転職者を対象に、Amazon/AWSの年収を以下の観点から解説します。
① 年収の基本構造 ② 職種別・レベル別の日本相場 ③ 最新動向(2025) ④ 国内他社との比較 ⑤ 報酬以外の魅力 ⑥ 転職でリターンを最大化するアクション
読み終える頃には、自分がどの職種・レベルで、いくらを狙えるのかが具体的に描けるはずです。
Contents
年収構造(日本):基本給+RSU+サイニングボーナス
Amazonの年収は、シンプルな月給制ではなく、「基本給(年俸制)+RSU(株式報酬)+サイニングボーナス」を組み合わせた総報酬設計です。この仕組みを理解することが、オファーを比較・交渉するうえでの第一歩となります。
1) 基本給(年俸制)
日本法人では年俸制(月次12分割)が採用されています。求人票には「固定残業代:月70時間分を含む」と明記されており、超過分は法定割増で支給されます。
👉 安定したベース年俸がキャリア設計の土台となり、ほかの変動要素(RSUやコミッション)と組み合わせる形になります。
2) RSU(譲渡制限付株式)
RSU(Restricted Stock Unit)は、Amazonの報酬体系を特徴づける株式報酬です。一定の在籍期間を条件に株式が付与され、株価に応じて価値が変動します。
Amazonでは4年間で「5%→15%→40%→40%」という「後ろ寄せ」ベスティングが一般的で、3〜4年目に実入りが大きく膨らむ設計です。
👉 Amazonの株価は長期的に上昇しており、在籍期間が長ければ長いほど大きな資産形成につながりますが、短期で見ると、株価の下落や為替の影響で実際のリターンが目減りするリスクもあります。
3) サイニングボーナス(1〜2年目)
RSUの付与が少ない初期2年間を補うため、入社時にはサイニングボーナス(一時金)が設定されるのが通例です。
金額はレベルや職種、交渉力によって変動しますが、参考レンジとしては以下のような水準が多く報告されています。
- L4:50〜150万円程度(少額、または設定なしの場合もあり)
- L5:200〜400万円/年 × 2年間が一般的
- L6:400〜700万円/年 × 2年間といった高額設定も見られる
- L7:1,000万円前後を1〜2年で分割(交渉力によって大きく変動)
👉 サイニングはRSUの立ち上がりを補い、初期から一定の報酬水準を確保する仕組みであり、オファー交渉の大きな焦点になります。
注:上記はLevels.fyi・Glassdoor・OpenWork等の投稿データをもとにした参考値です。実際の金額は職種・部門・交渉状況によって大きく変動します。
職種別 × レベル別:年収テーブル(日本・総報酬の目安)
ここからは職種ごと・レベルごとに、どのくらいの総報酬が期待できるのかを整理します。
数値はLevels.fyiやOpenWorkなどの公開データを基にした目安であり、実際には部門・勤務地・個人評価によって変動する点にご留意ください。
A. 技術職(SWE:ソフトウェアエンジニア)
ソフトウェアエンジニアは外資系テックを代表する職種で、日本市場でも高水準の報酬が設定されています。L4で約1,210万円、L5で約1,871万円と、20代後半〜30代でもこのレンジに入ることが可能です。L6以上はデータが少なくばらつきがありますが、米国同様さらに高額となる傾向があります。
レベル | 目安(総報酬・税前) | 補足 |
---|---|---|
L4(SDE I) | 約1,210万円 | 東京の中央値。 |
L5(SDE II) | 約1,871万円 | 同上。 |
L6(Sr SDE) | — | 日本は投稿が少なくばらつき大。 |
L7(Principal) | — | 同上。 |
B. 技術職(SA:ソリューションアーキテクト/AWS)
AWSのソリューションアーキテクトは、エンジニアと営業の要素を併せ持つハイブリッドな職種で、需要が非常に高いポジションです。L4で約1,083万円、L5〜6で中央値1,749万円、L7では最大4,355万円というデータがあり、AWSジャパン全体でもトップクラスの水準とされています。
レベル | 目安(総報酬・税前) | 補足 |
---|---|---|
L4 | 約1,083万円 | 日本の投稿最頻レンジ。 |
L5〜L6 | 約1,749万円 | レベル混在の中央値。 |
L7 | 最大:約4,355万円 | 投稿上限事例。 |
C. プロダクト/プロジェクト/TPM
プロダクトマネージャーやプロジェクトマネージャー、テクニカルプログラムマネージャーも外資系転職で人気の高い職種です。PM L5で1,405万〜1,730万円、L7では2,888万円といった事例があり、役割が広がるほどレンジも大きくなります。プロジェクト系のL5〜L6も1,400万〜1,650万円前後が目安です。
職種 × レベル | 目安(総報酬・税前) | 補足 |
---|---|---|
PM L5(首都圏) | 約1,405万〜1,730万円 | L5下限〜全体中央値。 |
PM L7(日本) | 約2,888万円 | 上限事例。 |
Project Manager L5 | 約1,424万円 | 首都圏の中央値。 |
Project Manager L6 | 約1,650万円 | 日本の中央値。 |
TPM L5 | 約1,341万円 | 中央値。 |
D. セールス/アカウント(AWS含む)
セールス職はコミッション設計によって大きく報酬が変動します。
L4で約845万円、L5で約1,061万円、L6では2,330万円前後が中央値ですが、好案件を担当した場合はさらに上振れするケースもあります。実際に、L6アカウントマネージャーの上限は約2,447万円と報告されています。
レベル | 目安(総報酬・税前) | 補足 |
---|---|---|
L4 | 約845万円 | Account Manager L4。 |
L5 | 約1,061万円 | Sales全体の中央値。 |
L6 | 約2,330万円 | AM L6の上限は約2,447万円。 |
補足:AWS職種は職務等級やコミッション設計によってレンジが広い傾向があります。
OpenWorkの集計でも、AWSジャパンの開発・SA・コンサル系は高水準とのデータが出ています。
最新動向(2025):AI再編 × 高額レンジの強化
AI人材需要と上限レンジの拡張
2025年現在、生成AIの急速な普及とそれに伴う事業再編は、テック業界の報酬水準に大きな影響を与えています。ソフトウェア、データ、プロダクトといったコア職種では依然として人材需要が強く、高水準のレンジが維持されるどころか、さらに拡張される傾向にあります。特に生成AIや大規模言語モデル(LLM)関連のスキルを持つ人材は、オファー段階からL5で上限1,800万〜2,000万円に近い提示を受けるケースも見られます。
成果主義と格差の鮮明化
各社は同時にコスト最適化やリストラも進めており、成果主義と評価の厳格化が従来以上に強化されています。成果を定量的に示せる人材はレンジの上限に近づけますが、役割が曖昧な中間層は昇給・昇格が難しく、報酬差は一層鮮明になっています。「成果を出すスター人材には、破格の条件で応える」という方針が定着しています。
報酬設計のハイブリッド化
報酬設計にも変化があります。Amazonを含む大手は従来のRSU(株式報酬)を中核に据えつつも、株価変動リスクを補うためにサイニングボーナスや現金報酬を厚めに組み込むハイブリッド型オファーを増やしています。例えば、L5で年間300〜400万円のサイニングを2年間設定する事例があり、RSUの後ろ寄せと組み合わせることで「初期から安定、3年目以降で爆発的なリターン」という設計が主流となりつつあります。
AI再編がもたらす人材戦略の再構築
AI再編の影響は単なる職務変更にとどまりません。企業にとっては「誰を厚遇し、誰を切るのか」という選別の明文化に直結しており、報酬体系を通じて人材戦略そのものが再構築されています。今後数年間でこの流れはさらに強まり、報酬レンジの二極化は避けられないと見られます。
モデル年収シミュレーション(L5・仮定/税前・総報酬)
実際にL5技術職を想定した場合の総報酬モデルを見てみましょう。
ここではベース年俸1,200万円に加え、サイニングボーナス200万円(1〜2年目)、さらに初回RSU総額800万円を4年で分割(5%/15%/40%/40%)で付与されるケースを仮定しています。
年次 | ベース | サイニング | RSU受取 | 合計 |
---|---|---|---|---|
1年目 | 1,200 | 200 | 40 | 1,440 |
2年目 | 1,200 | 200 | 120 | 1,520 |
3年目 | 1,200 | — | 320 | 1,520 |
4年目 | 1,200 | — | 320 | 1,520 |
この試算では、1〜2年目はサイニングが加わることで1,400万〜1,500万円台を安定確保し、3年目以降はRSUの後ろ寄せによって同水準を維持するイメージになります。
株価や為替の変動を考慮すると、例えば株価が±30%動いた場合、4年目の総報酬は約1,424万〜1,616万円に振れます。実際には部門・評価・マーケット状況によっても上下するため、あくまで参考値としてご覧ください。
国内他社との比較(参考)
外資系テックの報酬水準を理解するには、国内大手との比較が分かりやすい指標になります。
たとえばGoogle日本法人の平均年収は自己申告データベースで約1,722万円と報告されており、職種ごとに見ても高水準です。
一方、楽天グループは有価証券報告書(2024年度)で平均年収約821万円と開示しており、国内大手企業の中では標準的な水準に位置します。
企業 | 平均年収(参考) |
---|---|
Amazon Japan(L5技術職例) | 約1,800万円前後 |
Google日本法人 | 約1,722万円 |
楽天グループ | 約821万円 |
これらを比べると、外資系テックの総報酬レンジは国内大手の1.5〜2倍に設計されていることが分かります。つまり同じスキルを持っていても、どの環境で働くかによってキャリアの経済的なリターンは大きく変わってくるのです。
注:Amazonの数値はL5技術職の参考レンジです。Googleの数値は自己申告ベース、楽天は有報ベースの公式数値であり、データの性質が異なるためあくまで目安として参照ください。
報酬以外の魅力
オーナーシップ文化
Amazon/AWSの特徴的なカルチャーのひとつが「オーナーシップ文化」です。成果がそのまま評価やRSUに反映され、自分の実績がダイレクトに資産形成につながります。他社では得にくい「成果=報酬」という経験は、働く上で大きな魅力となります。
昇格スピード
実力さえあれば年次や年齢に関係なく、上位レベルに昇格できるチャンスがあります。若いうちから責任あるポジションを任されることも多く、キャリアの成長曲線を一気に引き上げられる環境が整っています。
市場価値の向上
Amazon/AWSで培った実績は転職市場で非常に高く評価されます。特に外資系テックではAmazonでの経験が次のオファーに直結する強力なシグナルとなり、strong>キャリアの選択肢を大きく広げる武器になります。
次のアクション(転職でリターンを最適化するには)
1. ターゲット職種・レベルを明確にする
まず重要なのは、自分がどの職種・レベルを目指すのかを特定することです。SWE(ソフトウェアエンジニア)、SA(ソリューションアーキテクト)、PM、Salesなど、職種によって求められるスキルも報酬レンジも大きく異なります。総報酬レンジとカルチャーフィットの両面から、現実的なターゲットを見極めましょう。
2. オファー戦略を設計する
次に大切なのがオファー戦略の設計です。ベース年俸、サイニングボーナス、RSUの配分をどう最適化するかは交渉次第で変わります。事前に目安を知り、自分にとって有利な条件を引き出すことが、長期的なリターンの最大化につながります。
3. 面接対策を徹底する
最後に、面接対策を欠かすことはできません。STAR形式で成果を定量化し、Amazon特有のLeadership Principlesに沿った回答を準備することが必須です。面接の場で「成果をどう出したのか」を明確に語れるかどうかが、合否を左右します。
ここまで読んでいただければ、自分がどの職種・レベルで、いくらを狙えるのかが具体的に描けたはずです。そのうえで、実際の転職活動をどのように戦略化するかが重要になります。
データの見方・免責
本コラムで紹介した数値は、Levels.fyi・Glassdoor・OpenWorkといった公開データや社員投稿情報に加え、AWS公式ページや有価証券報告書などの公式資料をもとに整理した参考値です。
実際の金額は、部門(AWS/リテール)、職種、勤務地、個人評価、為替、株価など複数の要因によって変動します。あくまで目安としてご覧いただき、実際のオファーでは詳細条件を必ずご確認ください。
執筆者
株式会社Global Career Incubator 代表取締役CEO 井川真一
略歴:防衛省勤務(国家I種)およびオーストラリア国防省勤務を経てビジネスの世界へ。 不動産大手経験後、不動産ベンチャー立ち上げや国内ファンド・国内事業会社・海外テック企業での経営および採用を経験したのち、当社創業。
企業経営者・採用責任者としての経験をベースに、「キャリア版Y Combinator」とも言える独自のアクセラレータープログラムを開発。外資系・バイリンガル・ハイクラス人材に特化し、個人のキャリアアップと企業の組織力強化・効率化を支援しています。