“英語力”ではなく“英語での価値創出力”が問われる時代へ

ビジネスのグローバル化が加速度的に進む中で、英語はもはや「できると便利」なスキルではなく、「競争力を高めるうえで必須の基盤」となりました。しかし、単純な読み書き能力やTOEICの高スコアだけで、本当に企業が求めるグローバル人材になれるでしょうか。

本記事では、「英語力」ではなく「英語を使って戦略的に価値を創出する力」が今求められている理由を解説するとともに、AIの活用事例や具体的な業務シーンでの要件を提示します。最後には、「自社のグローバル人材要件が単なる『空文化』になっていないか」を見直すきっかけとしていただけるよう、問いかけを整理しました。「では、どう育成すればいいのか?」という視点が自然と湧いてくるはずです。


1. TOIECの点数だけでは測れない“英語の価値創出”

ビジネスシーンで「英語が必要です」と言うと、多くの方がTOEICや英会話テストなどのスコアを想像します。もちろん、ある程度の語学力がなければ海外とのコミュニケーションは成り立ちません。

しかし、グローバルマーケットで競争する企業にとって本当に大切なのは、英語でいかに戦略を立案・推進し、事業成果を創出できるかです。いくらネイティブ並みの流暢さがあっても、ビジネスゴールに繋がらない会話だけをしていては組織として大きな付加価値を得られません。逆に、英語が多少ぎこちなくても「現地顧客の要望を的確に捉え、新たなサービスを立ち上げる」「グローバルチームとの協働を通じてイノベーションを起こす」といった具体的成果を出せる人材こそが評価される時代となっています。

言い換えると、語学の流暢さと“ビジネス課題を英語で解決する力”はイコールではないということです。多くの企業が採用や研修でTOEICのスコアのみを重視する背景があるかもしれませんが、それだけでは真にグローバルで戦える人材を育成・評価できていない可能性があります。


2. AI時代の英語活用:翻訳ツールは“手段”であってゴールではない

近年、AI技術の進歩により、機械翻訳や文章生成ツールが急速に普及しています。初歩的なやり取りなら、これらのAIツールを活用することで言語の壁を低くすることが可能です。たとえば、社内文書やプレゼン資料を自動翻訳にかけるだけで、英語へのハードルを一気に下げることができます。

しかし、ここでも重要なのは「AIが翻訳した英語を、そのまま鵜呑みにして終わる」のではなく、それをベースにどう思考を広げ、戦略的なコミュニケーションを組み立てるかという点です。AIはあくまでツールであり、「どの情報をどのように伝えれば、相手から必要な反応を引き出せるか」を考えるのは最終的に人間の役割になります。

AIが提供する翻訳や情報を取捨選択し、的確なストーリーを英語で発信できる人材こそが、今後のグローバルビジネスで強みを発揮するでしょう。「AIを使えば英語学習は不要」という極端な話ではなく、AIを補助輪として使いつつ、ビジネス価値を高める本質的なコミュニケーション力を磨くことがますます重要となっています。


3. “英語で価値を生み出す”具体的なシーンと必要要件

英語のスキルセットを測るうえでは、「どんな業務シチュエーションで、どんな結果を求められるか」という視点が欠かせません。ここでは、よくある場面別に必要とされる英語での“価値創出力”をまとめます。これらを自社の現状と照らし合わせてみると、真に求められるスキルセットが見えてくるはずです。

3-1. 海外チームとの協働

要件
– コミュニケーションツール(メール、チャット、オンライン会議など)でのやり取りが円滑にできる。
– 文化的背景や業務スタイルの違いを理解し、誤解を生まないように情報を整理・伝達できる。
– コラボレーションを前提としたプロジェクト管理能力(英語でのスケジュール調整、タスク分担、成果物レビューなど)。

価値創出ポイント
グローバルチームと連携して新規事業を立ち上げたり、海外市場向けのマーケティング施策を開発したりといったプロセスで、リーダーシップと調整力を発揮することが求められます。ここで必要なのは、英語での指示や報告だけでなく、背景にある経営戦略や組織文化を考慮しつつ、成果物のクオリティを高める姿勢です。

3-2. 英文資料の作成・活用

要件
– 製品仕様書や企画書、提案書を英語で論理的に構成できる。
– 数字やグラフを使ったプレゼンテーションを、英語で簡潔かつ説得力のある内容に仕上げる。
– AI翻訳ツールの結果をそのまま使うのではなく、専門用語やニュアンスを適切に修正・校閲するスキル。

価値創出ポイント
クライアントやパートナー企業との商談資料、投資家向けプレゼンなどで「シンプルかつ魅力的に伝える力」が必要です。英語で作ったドキュメントを通じて、製品の優位性やサービスの可能性を明確に打ち出し、新規ビジネスや投資を獲得することがゴールになるでしょう。

3-3. グローバル会議での発言・リード

要件
– 会議のアジェンダとゴールを踏まえ、議論をリードするための英語ファシリテーション能力。
– 異なるアクセントや英語レベルを持つ参加者同士の橋渡し役を担い、合意形成を図れるコミュニケーション力。
– 争点や優先事項を明確にし、次のアクションアイテムをロジカルに提示するスキル。

価値創出ポイント
国際会議やオンラインミーティングでただ参加するのではなく、主体的に議論を設計し、結論を導くファシリテーションができるかどうかが鍵となります。ここで英語力が不十分だと、せっかくのリーダーシップやアイデアが埋もれてしまい、もったいない結果に陥りがちです。


4. “空文化”したグローバル人材要件を見直そう

多くの企業が「英語力を重視する」「グローバルで活躍できる人材を育成する」というスローガンを掲げています。しかし、その具体的な要件や評価基準、育成プログラムはしっかりと整備されているでしょうか。あるいは、形式的にTOEICスコアを設定しただけで、実際の業務に活かせる仕組みが不在になってはいないでしょうか。

“グローバル人材要件”が単なる言葉だけになっていないかをチェックする方法として、下記のような点を振り返ることが挙げられます。
– 採用基準に「TOEIC○点以上」とあるが、実際にそのスコアで何を期待しているのかが曖昧。
– 英語を使う部署やプロジェクトが限定的で、せっかく英語スキルを持っていても活かせる場面が少ない。
– 海外出張や多国籍チームとの協働などが発生した際、社内にサポート体制がなく、人任せや属人的な運用になりがち。

こうした「空文化」の状態を放置していると、せっかく採用・育成した人材が十分に力を発揮できず、本人のモチベーション低下や離職にも繋がるリスクがあります。企業として、「本当に英語でどんな価値を生み出してほしいのか」を再定義し、それを採用や人事評価、研修制度に反映することが重要です。


5. 「では、どう育成するか?」

ここまでご覧いただいたように、ただ英語力を高めるだけではグローバルビジネスの課題を解決できません。必要なのは、「英語で何を実現したいのか」「具体的な業務シーンやビジネス成果にどう直結させるか」という明確なビジョンです。

企業の人材開発や研修担当者にとって、次に考えるべきは「どうやって社員の英語での価値創出力を育成し、組織の成果に結びつけるか」です。以下の視点を参考に、社内で議論を始めてみてはいかがでしょうか。

– 英語研修と実務をどのように連動させるか(OJT形式や実践型プロジェクトなど)。
– AIツールやオンラインコミュニティを活用した“場”を設計し、英語を実践的に使う機会を増やす。
– 現地法人や海外チームとの人事交流・出向などを検討し、語学だけでなく文化・環境の違いを体験させる。
– 上司や先輩が英語コミュニケーションに前向きに取り組む“ロールモデル”を示し、新人や若手が後に続きやすい雰囲気を作る。

いずれも、「結局、会社として英語を使ってどういう成果を狙っているのか?」という問いへの明確な回答を持ち合わせることが前提です。


まとめ・結論

TOEICスコアや英会話力がまったく不要というわけではありません。しかし、今のグローバルビジネスの現場で求められているのは、「英語ができること」よりも「英語で価値を生み出せること」です。そこには、海外チームとの協働や英文資料作成、グローバル会議でのリードなど、具体的なシチュエーションで成果を生み出すスキルが含まれます。

また、AI翻訳や自動文章生成の進化により、英語を取り巻く環境はさらに便利になっていくでしょう。しかし、その恩恵をフルに活かすためには、「AIをどう使いこなし、どう戦略的に情報を発信・共有するか」を人間がデザインできる力が不可欠です。

いま一度、自社の“グローバル人材要件”が単なる形式的な目標や数値指標になっていないかを見直してみてください。英語を通じて社員がどんな成果を出し、どのように成長し、それが企業のビジョンとどう結びつくのか──この問いに対する答えが明確になるほど、「じゃあ、どう育成するか?」というアクションがリアリティを持って動き出すはずです。

英語での価値創出力を磨き、さらなるグローバル競争のステージへ進むために、まずは社内での議論をスタートしてみてはいかがでしょうか。

私たちGlobal Career Incubator(GCI)では、外資系・グローバル企業で培った豊富なノウハウを活かし、若手から経営層まで多様な層の「行動変容」と仕組み・制度の制度変革の両方から支援しています。人材という観点から職員個人の育成と人事・採用の制度・運用の両方に踏み込んだプログラムによって、企業の競争力や組織成果の強化に寄与いたしますので、組織全体の英語での価値総出力にお悩みの場合はご相談ください。

執筆者

株式会社Global Career Incubator 代表取締役CEO 井川真一

略歴:防衛省勤務(国家I種)およびオーストラリア国防省勤務を経てビジネスの世界へ。 不動産大手経験後、不動産ベンチャー立ち上げや国内ファンド・国内事業会社・海外テック企業での経営および採用を経験したのち、当社創業。

企業経営者・採用責任者としての経験をベースに、「キャリア版Y Combinator」とも言える独自のアクセラレータープログラムを開発。外資系・バイリンガル・ハイクラス人材に特化し、個人のキャリアアップと企業の組織力強化・効率化を支援しています。