“変化できないマネージャー”が組織の成長を止める。管理職育成の再設計ポイント
市場環境の変化が激しさを増す現代、企業にとって重要なのは「新しい方法やアプローチを素早く取り入れ、チームや組織をアップデートしていく力」です。
しかし、その組織変革の中核を担うはずの管理職・マネージャーが、かえって変化を阻む存在になってしまっているケースが多いのも実情です。
「過去の成功体験」に縛られ、これまでのやり方を手放せないままの管理職が組織の成長を停滞させてしまう──本記事では、この深刻なリスクを解説するとともに、「プレイヤー型管理職からコーチ型管理職へ変容するプロセス」について具体的なステップを提示します。
企業全体が変わるためには、まずリーダー自身が変わらなければならない。そんな当たり前のようで見落とされがちな命題を改めて確認しつつ、管理職育成を再設計するポイントをまとめました。読後には、コンサルティングのような押し付けや説得ではなく、“思考の触媒”として新しい行動を生み出すヒントを得ていただけるはずです。
Contents
1. “過去の成功体験”に固執するマネージャーのリスク
管理職という立場は、多くの場合「優秀な個人プレイヤーだった人」が昇進して就くポジションです。しかし、管理職の役割は自身の手柄を積み重ねるだけではなく、チームを率いて成果を最大化することにあります。ここで問題となるのが、“過去の成功体験”に固執して柔軟に変化できないマネージャーの存在です。
1-1. “実績”がマネジメントの足かせになるパラドックス
成功体験の罠
かつての成功事例や得意分野を武器に昇進したマネージャーほど、「これをやれば上手くいく」という方程式を手放しにくい傾向があります。市場環境や組織構造が変化しているにもかかわらず、同じ施策を繰り返し、それが成果につながらなくても「現場や部下の力不足」と片付けてしまうことが珍しくありません。
ここにあるのは「自分が成功したやり方は絶対に正しい」という心理的バイアスです。このバイアスによって、新しい情報やチームメンバーの提案を受け入れる余地が狭まってしまいます。
組織全体への影響
マネージャーが新たなチャレンジを否定的に捉える雰囲気を作り出すと、部下は「どうせ提案しても受け入れられない」と感じ、イノベーションや改善が停滞します。その結果、市場変化への適応力が落ち、顧客や取引先から求められる柔軟性やスピード感を提供できず、企業価値を損なうリスクが高まるのです。
2. “プレイヤー型管理職”から抜け出せない理由
「優秀なプレイヤーだった人ほどマネージャーとして伸び悩む」という事例は多くの企業で見られます。ここでは、なぜプレイヤー型管理職からコーチ型管理職へシフトしづらいのか、その背景を探ります。
2-1. 管理職なのに自分が“最前線”で走り続ける
現象
プレイヤー型の管理職は、自分の得意分野で直接成果を出すことにやりがいを感じ、チームの支援や育成は後回しにしがちです。結果として、部下が成長する機会を奪うだけでなく、マネージャー自身も業務量が膨れ上がり、早期のバーンアウトを招くリスクがあります。
原因
過去に個人として成果を上げた経験が自信となり、「自分がやったほうが早い」「失敗リスクが少ない」と考えやすいのです。また、プレイヤーとして成功してきた自己イメージを守ろうとする心理が働くため、「マネージャーはあまり手を動かさない」といった行動変容に抵抗を感じる場合があります。
2-2. “指示”と“命令”だけでマネジメントを成立させようとする
指示型リーダーシップの限界
指示や命令を通じてチームを動かすスタイルは、一見わかりやすいコミュニケーションに思えます。しかし、変化が常態化している時代には、指示待ちで動く組織ではスピード感と柔軟性を維持しにくくなります。
また、指示や命令だけでは部下が主体性を発揮できないため、モチベーション低下やイノベーション不足に繋がります。部下のアイデアや能力を引き出す余地がなく、組織が停滞する可能性が高まります。
本人が陥りやすい思考パターン
「自分のやり方を浸透させればうまく回る」と考えがちで、部下の自主性やクリエイティビティを必要だと認識しにくい傾向があります。上司が変化を受け入れられないまま部下に指示を出し続けると、現場ではアイデアが埋もれ、せっかくの人材を活かせない組織になってしまいます。
3. コーチ型管理職への転換:変容のステップ
過去の成功体験に固執し、プレイヤーとしての役割から抜け出せない管理職を「コーチ型」に変容させるには、どのようなアプローチが必要でしょうか。ここでは、具体的なステップをいくつかご紹介します。
3-1. “自己認識”と“ギャップ分析”から始める
現状把握がすべての出発点
コーチ型管理職への転換は、まず「自分自身が抱えている固定観念やマネジメントスタイルの限界」を自覚することから始まります。自分はなぜ部下に指示を出しがちなのか? なぜチームを信用できないのか? こうした疑問を自らに投げかける内省の時間が不可欠です。
管理職向けの360度評価や、部下からのフィードバックセッションなどを活用して、実際の行動と理想のリーダー像とのギャップを可視化しましょう。
3-2. “質問力”を鍛える:答えを与えないマネジメント
コーチングスキルの習得
部下の主体性を引き出すには、管理職が「質問」を駆使し、考えるプロセスをサポートする必要があります。指示を出すのではなく、適切な質問で「自分で解を見つけられる状態」を作り出すのです。
具体的には、次のような質問を意識してみます。
・「今の課題はどこにあると思う?」
・「どんな選択肢が考えられる?」
・「その選択肢を実行すると、どんなリスクやメリットがある?」
こうした質問を積み重ねることで、部下の考えを深め、能動的に行動を起こせるよう促します。
メリット
1. 部下が自分自身の頭で考えられるようになり、マネージャーの指示待ちではなく行動できる。
2. 部下からアイデアや工夫が生まれやすくなり、チーム全体の成長速度が上がる。
3. 管理職自身も「チームに成果を出させるリーダーシップ」を体得することで、従来のプレイヤー型スタイルから脱却できる。
3-3. “心理的安全性”の土台づくり
挑戦を促す環境整備
チームが主体的に動き、変化を受け入れるためには、「失敗しても責められない」「未熟な意見も歓迎される」という安心感、すなわち心理的安全性が重要になります。
ここで管理職が意識すべきなのは、自分自身の言動が部下の恐れや不安を増幅させていないかどうかです。部下がミスをしたときに感情的になって叱責したり、アイデアを頭ごなしに否定したりすると、信頼関係が崩れて積極的な発言が減少してしまいます。
コーチ型管理職を目指すなら、「部下が安心して試せる場」を作る姿勢を徹底し、一人ひとりの提案や挑戦を評価するフィードバックを心がける必要があります。
4. “リーダーの変容なくして、組織の変革なし”
市場変化が加速するなかで、新しい技術やビジネスモデルを取り入れることは企業競争力を維持するうえで重要です。しかし、どんなに最新の施策を投入しても、それを運用し、文化として定着させるリーダーが変わらなければ、結局のところ現場では成果が出ず、改革が失速してしまう可能性があります。
4-1. 上層部が率先して“変化のモデル”を示す
チェンジエージェントとしての役割
真の組織変革には経営層や役員クラスを含むリーダー層全体の変容が必要です。特に大企業では、トップダウンの影響力が大きいため、上層部が自ら新しいマネジメントスタイルを実践し、成功事例を作り出すことで、全社的なマインドセットのシフトが加速します。
「昔はこうだった」という主張ではなく、「変わるべきときに変われるリーダー像」を見せることが、組織全体を前に進める大きな推進力となるのです。
4-2. 組織文化に根付く“評価と育成”の在り方を見直す
短期成果から長期的成長への転換
新しいマネジメント手法を導入しても、評価制度や育成プランが従来のままでは限界があります。プレイヤー型管理職を是認する報酬体系になっている企業では、チーム育成よりも個人の成果を重視する風土が根強く、結果的にコーチ型リーダーが育たない可能性が高いのです。
「どれだけ部下を成長させたか」「チームが学習し、新たな価値を創出したか」といった観点を組み込み、長期的な視点でマネージャーを評価・育成するシステムが求められます。
5. 管理職育成を再設計するポイント:思考の触媒として
ここまで解説してきたように、プレイヤー型に偏った管理職が組織の変化を阻み、成長スピードを落としてしまうのは珍しくありません。逆に言えば、コーチ型リーダーシップを根付かせることができれば、全社的に“変化する力”が高まり、競争力を維持・強化できる可能性が高まります。
以下に、管理職育成を再設計するうえで確認しておきたいポイントを整理します。コンサルティング的な細かいプロセスよりも、“思考の触媒”としてご活用ください。
5-1. 自己変容のプロセスを明確化
研修やワークショップだけでは足りない
管理職向け研修を実施しても、受講しただけで行動が変わるわけではありません。変容には「気づき→内省→実践→フィードバック→再調整」というプロセスが欠かせないため、職場での継続的なフォローと組み合わせる必要があります。
ステップごとに具体的な目標や評価基準を設定し、学びを現場にどう落とし込んでいるかを可視化することが重要です。
5-2. 部下・チームからのフィードバックをリアルタイムで収集
管理職の変容を測る尺度
マネージャーが「本当にコーチ型にシフトしているか」を確かめるには、やはり部下の声が不可欠です。定期的に360度評価を行うだけでなく、チャットツールやショートサーベイなどを活用し、リアルタイムで部下の声を収集・共有する仕組みを作りましょう。
部下に対しても「率直なフィードバックが歓迎される」土壌を作ることが、マネージャーの継続的な成長を後押しします。
5-3. 成功体験の再定義:チームとしての成果を評価
個人のパフォーマンスからチームの学習成果へ
プレイヤー型からコーチ型への転換には「成功体験の再定義」が不可欠です。管理職が「個人の功績を自慢する」から「チームが成果を出したことを誇りに思う」へとマインドセットを変えられるよう、社内の評価制度や仕組みを見直します。
チームメンバーが成長し、新しいビジネスチャンスを作り出したり、ミスや失敗を糧に改善策を得られた場合、マネージャーを含めた全員が喜べる仕組みが大切です。それを繰り返すことで、コーチ型リーダーシップに基づく“学習する組織”が形成されていきます。
まとめ・結論
今後の企業経営において必要なのは、急激な市場変化に素早く適応し、新たな価値を生み出し続ける力です。その鍵を握るのが、マネージャー・管理職層がいかに自分たちの考え方や行動様式をアップデートし、チームの変化をリードできるかという点にほかなりません。
過去の成功体験に固執し、自ら最前線を走る“プレイヤー型管理職”のままでは、組織全体が成長する力を削ぎ、イノベーションを生み出すチャンスを逃す恐れがあります。逆に言えば、マネージャー自身が「コーチ型」へと変容し、部下の主体性とチャレンジ精神を引き出せる組織カルチャーを醸成していけば、激変する市場環境でも競争力を保ち続けることが可能になります。
私たちGlobal Career Incubator(GCI)もこれまで多くの企業で、人材育成や組織変革を支援してきました。過去の成功体験に囚われていた管理職が、一歩踏み出してコーチ型リーダーシップを学び、チームの潜在力を開花させた事例も数多く存在します。
ただし、最終的に行動を変えられるかどうかはマネージャー本人の意識や意欲に大きく左右されます。ぜひ本記事を「思考の触媒」として、新たな管理職育成の在り方を検討してみてください。
“リーダーの変容なくして、組織の変革なし”──このメッセージを常に念頭に置き、時代の変化に柔軟に対応できる強いチームを目指していただければ幸いです。
執筆者
株式会社Global Career Incubator 代表取締役CEO 井川真一
略歴:防衛省勤務(国家I種)およびオーストラリア国防省勤務を経てビジネスの世界へ。 不動産大手経験後、不動産ベンチャー立ち上げや国内ファンド・国内事業会社・海外テック企業での経営および採用を経験したのち、当社創業。
企業経営者・採用責任者としての経験をベースに、「キャリア版Y Combinator」とも言える独自のアクセラレータープログラムを開発。外資系・バイリンガル・ハイクラス人材に特化し、個人のキャリアアップと企業の組織力強化・効率化を支援しています。