“優秀だけど育たない若手”の共通点とは?Z世代人材が変わる育成の視点

企業の成長を左右する大きな要素の一つに「若手人材の育成」があります。

特にZ世代と呼ばれる1990年代後半から2010年前後に生まれた世代は、デジタルネイティブとしての情報感度や変化への適応力が注目される反面、「優秀なのに育たない」という印象を持たれがちです。

本記事では、Z世代の特徴や価値観を踏まえつつ、いわゆる「ポテンシャルはあるが伸び悩む人材」をいかに成長軌道に乗せるか、その具体的アプローチを検討します。また、従来型の研修や1on1だけでは成果が見えにくい背景を整理し、今後のキーワードとなる「変容型学習(トランスフォーマティブ・ラーニング)」の必要性を紹介します。
人材開発の現場で「何を変えればいいのかわからない」「Z世代のモチベーションを引き出す方法を知りたい」という方にとって、再考のきっかけとなるようなポイントを多面的にお伝えします。これを機に自社で行う育成施策を見直し、Z世代が持つ潜在力を最大限に引き出す土台づくりに取り組んでみましょう。


1. Z世代の価値観とマネジメントギャップ

Z世代は生まれたときからインターネットやSNSが身近にあり、情報の収集・発信を当たり前のように行う「デジタルネイティブ世代」です。スマートフォンを通じてリアルタイムに多様な意見や世界中のニュースに触れてきた彼らは、従来の世代とは異なる思考パターンや行動様式を持っています。

たとえば、仕事上のコミュニケーションにおいても「スピード感」や「双方向性」を重視する傾向が強いのが特徴です。SNSでは投稿への“いいね”やコメントが瞬時に返ってくるのが当たり前であり、職場でも同様に素早いフィードバックや明確な評価を期待します。もし上司が忙しくなかなか応じられない場合、それを「放置されている」と感じ、モチベーションを下げてしまうケースも少なくありません。

一方で、マネジメント層の多くは年功序列や職人気質の文化で育ち、長期的な視点でじっくり経験を積むことを評価基準とする場合が多いです。そのため、若手が求めるスピード感や本人への役割付与に対して「実績が伴っていないのに早すぎる」と懸念を持つことがあります。このギャップがうまく埋まらないと、Z世代の若手は「自分を必要としてくれない組織だ」と早合点し離職につながったり、マネジメント側は「最近の若者は忍耐力がない」と偏った見方をしてしまう恐れがあります。

さらにZ世代は、自身のキャリアや日々の業務を通じて「社会にどんなインパクトを与えられるか」「自分の理想や価値観とどう結びつくか」を重視する傾向があります。会社や組織が持つミッションやビジョンに共感できないと、長く働くイメージを描くことが難しくなるため、従来の「実力がつくまではがむしゃらに頑張れ」という指導方法では力を発揮しきれない可能性が高いのです。

このように、Z世代とマネジメント層の間には価値観や働き方への期待値に大きなズレが生じることがあります。しかし、視点を変えれば、Z世代が持つ「即戦力としてのスピード感」「多様な情報をキャッチアップする能力」「自己実現欲求の高さ」は、正しい環境や指導があれば驚くほど早く開花します。まずはこうしたギャップがどこから生まれるのかを理解し、組織全体で丁寧なコミュニケーションを取ることが重要です。


2. なぜ「伸び悩み」が起こるのか?ケース別アプローチ

Z世代の若手が「優秀そうに見えるのに大きく成長していない」と言われる背景には、多くの要因が考えられます。ここでは、特に代表的な3つのケースを取り上げ、考えられる原因と具体的なアプローチ方法を整理します。それぞれのケースが単体で起こるのではなく、複合的に絡み合っている場合も多い点に留意しましょう。

ケースA:モチベーションのブレが大きい

【現象】
ある時期は猛烈にやる気を出して新しい提案を次々と持ってくるのに、少し経つと「仕事への興味が湧かなくなった」と急にペースダウンしてしまう。上司からは「飽きっぽい」と見られがちで、周囲も対応に苦慮することが多い。

【原因】
Z世代の多くは自分の行動が「どのように評価されるか」「どんな結果につながるか」を常に気にしています。仕事を行う意義や目標が明確でないと、すぐにモチベーションを失ってしまう可能性があります。またSNSのように即座に反応が得られない場合、「自分は認められていないのでは」と誤解を招きやすく、会社への不満を蓄積させる要因になることもあります。

【アプローチ】
短期と長期のゴールを並行設定: 1ヶ月後のミニ目標と1年後の大きな目標を両方定め、達成度を定期的にチェックし合う。
成果を可視化する仕組み: 単に「頑張れ」と言うのではなく、KPIやチェックリストなど具体的な評価指標を用意して本人の努力を見える化する。
上司とのこまめな対話: 1on1の頻度を上げるだけでなく、チャットや短時間ミーティングを活用し、ちょっとした相談やフィードバックを迅速に行う。

こうした取り組みにより、Z世代が「自分はどう成長しているのか」を実感しやすくなり、モチベーションの安定につながります。

ケースB:成果を急ぎ、基礎を疎かにする

【現象】
斬新なアイデアを提案するものの、根拠となるデータや論理構成が不足しているため、社内プレゼンや上司の承認を得る際につまずきやすい。せっかくの意欲が先走り、必要な準備を整えずに行動してしまうことが原因となる。

【原因】
Z世代は情報収集に慣れている一方、調べた情報を深く検証して「自分の提案を裏付けるためにどう活用するか」を詰め切れないケースがあります。また、経験や実績が少ない段階で「これだけ調べたから大丈夫」と過信しがち。組織内のプロセスやルールに対して「なぜ必要なのか」という背景説明がないと納得感を得られず、面倒な作業を飛ばしがちになります。

【アプローチ】
論理構築のフレームワーク共有: ピラミッドストラクチャーやロジカルシンキングなど、成果物を論理的に組み立てる手法を学ばせる。
検証プロセスの意義づけ: プランBやリスク評価の段取りを具体的に示し、なぜ複数案を用意すべきかを実際の失敗例を交えて説明する。
メンター制度の活用: アイデア段階で上司や先輩に短時間でもフィードバックをもらう場を設け、修正をこまめに行う習慣を作る。

こうした取り組みによって「アイデアがあっても実現に至らない」という事態を減らし、基礎を踏まえたうえでスピード感を活かせる若手に育てることが期待できます。

ケースC:周囲との協働意識が弱い

【現象】
チームで共同作業を行う場面で自分のタスクに集中しすぎ、周囲が何をやっているかを把握していない。「自分の作業さえ終わればいい」という意識が強く、全体最適が図られないために成果が伸び悩む。

【原因】
SNS上で自己発信や自己ブランディングを磨いてきたZ世代は、個人プレーに強みを持つ一方、組織やチームが一体となって動くメリットを肌感覚で理解できないケースがあります。協働による相乗効果やコラボレーションの楽しさを体感する機会が乏しいと、「一人で完結したほうが早い」と考えがちです。

【アプローチ】
プロジェクトベースの学習: チーム全員で成果物を作り上げる形式の研修や実務プロジェクトを導入し、一人では達成できない成果を体験させる。
成功事例の共有: チームが連携して大きな成果を出した事例を社内で定期的に共有し、協働によるメリットを“目に見える形”で示す。
相互フィードバックの文化: 上司からだけでなく、メンバー同士が建設的にアドバイスし合う仕組みを取り入れ、お互いに学び合う風土を育む。

こうした方法を取り入れることで、個人の能力を活かしつつチーム全体としての生産性を高め、「優秀なのに結果が出ない」というジレンマを解消することが可能になります。


3. 従来型研修や1on1では変わらない理由

日本の企業文化では長年、「座学中心の研修」と「定期1on1」を軸とした育成が行われてきました。しかし、Z世代のように多様な価値観を持ち、リアルタイムな学習・成長を求める若手には十分対応しきれない場面も増えています。ここでは、従来型研修や1on1が直面する主な課題を深堀りし、その背景にある問題を探ります。

1. 実践との乖離
座学研修では知識をインプットする時間が中心で、実際の業務と直結するケースが少ないことが課題です。たとえワークショップを行っても実際のプロジェクトとは異なる“シミュレーション”であるため、現場に戻ったときの応用が難しいという側面があります。
Z世代は学んだことをすぐに実践し結果を確かめたいという欲求が強い一方で、企業側が学習機会と実務の連動を設計していないと「せっかく研修を受けたのに効果がわからない」と不満を持ちやすくなります。

2. 1on1の形骸化
本来の1on1ミーティングは「部下の成長を促すための対話の場」であるはずが、進捗報告や指示の伝達に終始してしまうケースが多く見受けられます。上司側のスキル不足や時間的制約もあり、表面的なコミュニケーションになりがちです。
Z世代の若手は短いスパンでのフィードバックを欲している一方、上司が数週間・数ヶ月ごとにしか時間を取れない場合、部下は悩みを抱えたまま放置される感覚を覚え、早期離職を招く恐れもあります。

3. 変化のスピードと世代間ギャップ
ビジネス環境の変化が加速し、新しい技術や情報が次々と生まれる中で、従来型研修はそのスピード感に追いつきにくくなっています。Z世代は「最新の知識やツールを活かして短期間で成果を出す」姿勢を好みますが、企業側が変化に適応しきれていない場合、研修内容が時代遅れと感じられ、意欲を損ねる場合があります。

結果として、座学や形骸化した1on1ではZ世代が求める「個人の成長実感」「リアルタイムの学習」「自己実現の明確化」を十分に満たすことが難しくなっているのです。


4. 「変容型学習」へのシフトとは?

従来型の育成施策が機能不全を起こしがちな現状を乗り越えるために、近年注目を集めているのが「変容型学習(トランスフォーマティブ・ラーニング)」です。これは、単に知識やスキルを習得させるだけでなく、学習者の認知や価値観、行動様式そのものを変え、自らの意志で成長を続けられる状態を目指す学習手法です。

1. 自己認識の変化
変容型学習の核となる考え方は「自分自身を俯瞰して捉え、思考や行動パターンの背景にある前提や価値観を問い直す」ことです。Z世代の若手が自分のキャリア観や会社との関係性を改めて振り返ることで、「なぜ自分はこの行動をするのか」「どのように成長したいのか」が明確になり、学習意欲が高まります。

2. 意味づけと内省プロセス
何のために学び、どう変わりたいのかを本人が納得していないと、モチベーションの維持は難しくなります。変容型学習では、自己内省や対話を通じて自分の思考や行動に意味づけを行い、「自分が成長することによってどんな未来を描けるか」を腹落ちさせます。これにより、従来の「受け身の研修」から「自ら学びを求める姿勢」へと大きく転換できるのです。

3. 実践と理論の統合
変容型学習では座学の理論と現場での実践を切り離しません。ワークショップやプロジェクト型学習、ロールプレイングなどを通じて、学んだ知識がすぐに行動に反映される設計を重視します。実務と学習が一体化することで、Z世代特有の「すぐに成果を実感したい」という欲求を満たすとともに、学びを定着させるスピードが格段に上がります。

このように「変容型学習」は、Z世代が持つ個性的な強みを伸ばし、組織の中で成果を出し続ける人材へと導くための有力な手段となっています。


5. 実践的なステップとポイント

変容型学習を取り入れ、Z世代を効果的に育成するにはどのようなプロセスを踏めば良いのでしょうか。ここではすぐに始めやすい具体的なステップや仕組みを紹介します。企業の人材開発担当者や現場のマネージャーが参考にできるよう、実践しやすいポイントをまとめます。

1. 目的とゴールの再設定
まずは企業が望むビジネス成果と個人が求めるキャリアビジョンを改めて擦り合わせることが重要です。単に「会社の成長が最優先」ではなく、若手自身が「なぜそれを目指すのか」「どのように自分の将来像と繋がるのか」を理解できるように、対話の場を繰り返し設けましょう。

2. ケーススタディ+アクティブラーニング
座学だけでなく、実際の業務やプロジェクトで起きる課題を元にしたケーススタディを取り入れ、グループワークやプレゼンなどアウトプットを伴う学習を行います。Z世代の若手は新しい情報ややり方を柔軟に取り入れる力が強いため、実践型のプログラムを通じて「学ぶ楽しさ」と「成果に繋がる手応え」を同時に得ることができます。

3. リアルタイム・フィードバックの仕組み化
SNSに慣れたZ世代は「即時フィードバック」に対して高い期待を持っています。そこで、定期的なミーティングだけでなく、オンラインツールやチャットを活用して短いサイクルでフィードバックを行う仕組みを整えましょう。わずか数分の確認やアドバイスでも、若手にとっては大きな安心感とモチベーションアップに繋がります。

4. グループ・メンタリングとピアラーニング
上司やコーチだけではなく、同世代や少し年上の先輩同士が互いに学び合う「ピアラーニング」の場を設けると、横のつながりが深まり若手同士での成長が加速します。異なる部署や専門分野のメンバーを集めたグループ・メンタリングを導入すれば、多角的な視点からアドバイスを得られ、刺激や発想の幅が広がります。

5. 自己分析・内省の導入
Z世代は「自分を客観視する機会」を意外と求めています。日々の業務や学習で得た気づきを振り返り、強みや課題を客観的に捉えることで、さらなる行動変容を促します。こうした内省の時間を確保し、個人が成長実感を積み重ねられるようにサポートすることが、結果的に早期離職防止にも繋がるのです。

これらのステップを組み合わせることで、従来型研修では得られなかった「自ら学び、自ら行動を変える」という持続的な成長サイクルを生み出すことができます。


まとめ・結論

Z世代はデジタルネイティブとしてのスピード感や多様な情報を取り込む能力に優れています。その一方で、「育成に時間がかかる」と感じるマネジメント層との間には、価値観やコミュニケーション手法、キャリア観のズレが存在し、そこをクリアしないと「優秀だけど伸び悩む人材」に見えてしまうことが多いのが現状です。

しかし、Z世代の若手は正しい環境とサポートがあれば、自分の可能性を一気に開花させるポテンシャルを持っています。ポイントは「学習内容と業務経験の融合」「リアルタイムのフィードバック」「自己認識や内省の支援」です。そして、従来の座学研修や形骸化しがちな1on1を補完する形で、変容型学習(トランスフォーマティブ・ラーニング)を取り入れることが、Z世代が持つ潜在力を最大限に引き出す近道となるでしょう。

私たちGlobal Career Incubator(GCI)では、外資系・グローバル企業で培った豊富なノウハウを活かし、若手から経営層まで多様な層の「行動変容」を支援しています。Z世代の若手育成に悩む企業が、組織目標を達成しながら個人の成長をも後押しできるよう、多角的なアプローチやプログラム設計を提案してきました。

これを機に、自社の育成計画や研修設計を「変容型学習」の視点から見直してみませんか。Z世代が持つ強みを最大限に活かしながら、組織全体のパフォーマンスを高めるための取り組みを始めることが、今後の企業競争力を高める大きな一歩になるはずです。Z世代が自ら考え、自ら行動を変え、その結果として組織に新たな価値をもたらす未来をぜひ実現してみてください。

執筆者

株式会社Global Career Incubator 代表取締役CEO 井川真一

略歴:防衛省勤務(国家I種)およびオーストラリア国防省勤務を経てビジネスの世界へ。 不動産大手経験後、不動産ベンチャー立ち上げや国内ファンド・国内事業会社・海外テック企業での経営および採用を経験したのち、当社創業。

企業経営者・採用責任者としての経験をベースに、「キャリア版Y Combinator」とも言える独自のアクセラレータープログラムを開発。外資系・バイリンガル・ハイクラス人材に特化し、個人のキャリアアップと企業の組織力強化・効率化を支援しています。